天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第242話 AM9:00


ーーーーーー

  キャロリール王女は、ご満悦な様子だ。

  鏡の前で何度も自分の新しい衣装を確認した後で......。

  それを見た優花は、苦笑を浮かべている。

  脱ぎ捨てられた王女の名に相応しい豪華絢爛なドレスを横目に。

「なかなか良い召物を持っておるな!! これは、気に入ったぞ!! 褒めてつかわす!! 」

  彼女はその服が余程自分の好みに合っていたのか、満遍の笑みで優花の頭を撫で回していた。


ーーだが、優花はそんなキャロリール王女を不憫に思う。


  何故なら、王女が今来ているロングTシャツは、只でさえ余り体の大きい方ではない優花が小学生の時に着ていたものであったからだ。


ーー胸元には可愛いクマさんの絵がプリントされており、その周りに万遍なくキラキラな星型のビーズが散りばめられていて、如何にも幼女が好む様な装飾が施されている。


  もう中学生となった優花にとって、そのロングTシャツを見ると、懐かしさと共に、王女への哀れみにも似た感情が支配をしたのである。

「王女、べ、別の服もあるから、変えた方がいいんじゃないの......? 」

  優花は気を遣ってそう促す。


ーーだが、王女はそんな優花の弱々しい言葉を無視すると、

「ねえ、王女様!! これを見て!! なんか、テレビとか言う薄い板の中で可愛い女の子達が歌ったり踊ったりしているよ!! 」

と、桜が夢中になって王女を呼びかけると、テレビの方へと走り出して二人で肩を並べてたまたま放送していた幼女向けのアイドルアニメに釘付けとなっていたのである。

「これじゃまるで、子供そのものじゃない......」

  優花はそんな幼さの残る三つ年上の彼女に対して、頭を悩ませたのである。

  そんな時、リビングの入り口のドアはゆっくりと開いた。

「いやいや、優花殿。この服は私達のサイズにぴったりであったぞ。これで、日本に溶け込むことが出来る気がしてきたよ......」

  そう言って、パーカーとデニムに身を包んだリュイと、以前、母が『たまには冒険してみようかな』と恥じらいながら結局タンスの肥やしとなった白のレースのワンピースを着たミルトが現れたのである。

  すると、優花はさっき王女に感じた気持ちとは違う感情が湧き上がった。


ーー二人とも、余りにもその格好が似合っていたのである。


ーー母は優花よりも十センチ程背が高い。


ーーそれに加えて、出る所は出ていて引っ込む所は引っ込んでいる所謂、ナイスバディというやつだ。


  そんな母の服をあたかも自分の為に作られたかの如く着こなすリュイとミルトを見て、優花は思わず自分の薄い胸に手を当てたのである。

「全て負けている。なんか、悔しい......」

  それを聞き取れなかったのか、ミルトは、

「今、なんか言った? 」

と聴き直してきたのであるが、優花は苦笑いを浮かべながら首を小さく横に振ったのである。

  そんな風にゴタゴタしていると、あっさりと時間は流れて行き、優花はスマホの時計に目をやった。


ーーすると、時計は『AM9:00』と表記されているのを見て、慌ててのんびりと過ごす四人に向けてこう促したのである。


「お兄ちゃんのお家へ向かおうか!! 多分、そろそろデートが始まる時間だと思うから!! 」

  優花が焦りながらそう言うと、相変わらずテレビに釘付けの王女は、不思議そうな目で彼女を見つめた後で、

「そんなに焦る必要などなかろう。最悪、『異能』でひとっ飛びすればすぐにでも到着する」

と、まだ家を出たくない様な素振りでその提案を否定した。


ーーそれを聞いた優花は、怒りとも似た笑顔を浮かべると、彼女に対してこう呟いたのである。


「だから、もう『異能』は使っちゃダメだって言ったでしょ......。歩いてお兄ちゃんのマンションに向かうから、早くテレビを消しなさい」


ーーそんな凄んで来た優花の怒りを感じ取った王女は先程軒先で起きた出来事を思い出しながら、

「わかったよぉ......」

と、少しだけ潤んだ瞳で弱々しく返事をすると、桜の肩にポンと手を置いた後で出掛ける準備を始めたのである。


ーーそして、五人は雄二の住むマンションへと向かったのである。


  玄関から出た優花は背後から人気を感じて振り返った。


ーーだが、そこには誰もいなかったので、「気のせいか」と心で思いながら、小走りで目的地へ足を進めたのである。


ーーーーーー

  俺は今となっては不思議とも思える作業をしている。

  いや、もっと言うと、本来は使い慣れた筈のその機械によって様々な場所を検索しているのだが、人間とは学ぶ生き物だと言う事を、こんな所で感じるとは思いもしなかった。

  しかし、何の変哲も無い板から映し出される『デートスポット』という文字の方には、より一層の違和感を感じていたのだ。

  俺は、日本へ戻ってからプランを立てれば良いなどと考えていたが、それは少し甘かったのかもしれない。


ーー取り敢えずパソコンでデートスポットを調べてはみたものの、全く経験の無い俺からすると、それがいかに難しい物なのかを痛感しているのだ。


ーーそれに加えて、少しの恥じらいすら感じる。


  画面に『ラブラブ』とか、『イチャイチャ』などという余り聞きなれない言葉に、余計心は騒めくからである。

  そんなこんなで、俺は早朝から二時間程で、これから二人で行く場所の候補を数カ所に絞る事が出来たのであった。


ーー最初、海の見える公園や、そのすぐ先にある水族館へ行き、その後で西洋風の古い建物とビルが混在する大きな船のある場所を歩き、夜になったら大きな観覧車に乗る。


  インターネットから抽出した『無難なプラン』に乗ってみる事にしたのだ。

  そんな中、キュアリスはスヤスヤと寝息を立てていた。

  俺が、「少し時間が掛かるから、眠っていていいよ」と言うと、彼女は素直に頷いた。


ーー聞いた話だと、昨日から今日のデートが楽しみ過ぎて、余り眠れなかったのだと言っていたからだ。


  そんな彼女は今、俺のベットの上で眠っている。

  それに対して何となく、不思議な感覚になると、俺はゆっくりとキュアリスの肩を揺すった後でこう囁いた。

「待たせちゃってごめんな、キュアリス......。これから街へ出よう。待ちに待った日本デートの始まりだ」

  キュアリスは、俺の言葉に対して目を覚ますと、ニコッと笑顔を見せた後で、ベットの上に正座をしてペコリと頭を下げた。

「じゃあ、宜しくお願いします。私は何も知らないけど、きっと今日という一日は私にとって忘れられない日になると思うから......」

  そんなキュアリスの発言を聞くと、俺は改めてキュアリスという少女に恋をした。


ーーうん、絶対に忘れられないデートにしてみせるよ。


  俺はそう心の中で呟くと、彼女を連れて家を出たのである。


ーーそんな中、ふと、時計を見つめると、『AM9:00』と表記されていた。

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