天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第240話 それぞれの転移。


ーーーーーー


ーー俺は、『時空の歪み』から抜け出せた事を確認した。


  ついさっき、キュアリスと二つの世界を渡ったのである。

  まだ明るい視界にも慣れず、目を瞑っている。

  そんな中、なにげなく、右手に意識を向けると、紛れもなく彼女の小さな温もりを感じる。

  その温度を温度を感じると、俺は日本への転移に成功した事を実感したのである。


ーーそれに対して、少しの喜びを感じると、俺はゆっくりと目を開いた。


ーーすると、そこには森が広がっていた。


  遠目には、広場が広がっている。

  つまり、俺達が転移してきた場所、そこは、兄がいなくなったあの時の森だったのだ。

  どうやら周囲には誰もいないようなので、俺は一安心すると、ゆっくりとキュアリスの方へ視線を向けた。

  今まで不安からテンパっていて気がつかなかったが、キュアリスは俺の世界の事を少し勉強したのかしていないのか、この世界でも売っていそうな青いワンピースに身を包んでいる事に気がついた。

  それに気がつくと、キュアリスが凄く俺とのデートや異世界に行く事を楽しみにしていた事に気がついた。


ーー今更ではあるが......。


ーーそんな彼女は、呆然とした表情を浮かべたまま狐につままれた様な顔をしていた。


「正直まだ、全く他の世界にやって来た実感が全く湧かないんだけど、ここが本当に、雄二の故郷である異世界なの......? 」

  そんな風に立ち尽くす彼女の姿を見た俺は、繋いだままの右手を引っ張って走り出すと、勢い良く森の中を抜け出した。

  そして、アスファルトで舗装された道まで出ると、目の前に広がる街並みを背後に、俺はこう宣言したのである。

「そうだよ! ここは俺の故郷、そして、あの世界とは異なる場所、日本だよ!! 」


ーー俺が周りも気にせずにそう言うと、キュアリスは次第に笑顔になって行った。


「本当に私、異世界に来たんだ......。なんて、素晴らしい経験なんだろう! ありがとう、雄二! 」

  彼女が満遍の笑みで放った言葉を聞くと、俺は少しの照れを感じながらも、嬉しさから飛び跳ねそうになった。

  キュアリスは、この場所に来られた事に喜んでいる。


ーー桜やニルンドもそうであった様に、あの世界の人々からすると、日本という奇怪な存在には心が惹かれるのであろう......。


  だからこそ、彼女は今も周囲を注意深く見渡す。

  足元のアスファルトに、頭の上を走る鉄道、その先にあるマンションや家々......。

  その全ては彼女らの常識からは外れた文明なのだ。

  俺はそんな風にカルチャーショックを受けるキュアリスにもう一度右手を差し出すと、こう言ったのである。

「じゃあ、始めようか。俺とキュアリスのデートを! 」

  それを聞いたキュアリスは、俺の手を優しく掴むと、

「うん! よろしくお願いします! 」

と、喜びを前面に出しながら返答をした。


ーーそして、一度、諸々必要な荷物を取りに行く為にも、俺の住むマンションへと足を進めたのであった。


ーー握りしめた手を離す事なく......。


ーーーーーー

「ぷはあ!! やっと着いたか!! 何なのだ、あの『時空の歪み』とやらは!! 凄く気分が悪かったぞ!! 」

  そう文句を口にしながらキャロリール王女は一度伸びをした。

「た、確かにそうですよね。王女殿下......」

  傍若無人な王女へ、リュイは辿々しい口調で相槌を打つ。

  そんな様子をうんざりとした表情で眺めるのは、優花、ミルトの二人であった。

  桜は、やたらとはしゃぎ倒して、

「到着したね!! 楽しみだね!! 」

と、少し不機嫌な王女にまとわりついているのであった。

「それにしても、ちゃんと転移して来たと言うのか?! 周りは只の森しかないじゃないか!! これでは全く分からん!! おい、佐山優花!! あんたはこの世界の出身と聞いておるが、ここは本当に日本であっているのか? 」

  唐突に確認を取られた優花は、一瞬体をビクつかせた後で、その返答をする。

「間違ないと思うよ。だって、浩志お兄ちゃんはこの場所から転移して行ったんだから......。きっと、森を抜けて街の方へ向かったら、すぐにでも実感が湧くと思うんだけど......」

  優花がそう呟くと、王女はニヤッと笑った後でそのまま走って山を降りて行ったのであった。

「危ないですよ、王女様......」

  ミルトは困惑しながら辿々しい口調でそう言うと、後を追いかけて行った。


ーーそれに続く様に、全員は勢い良く森を抜けたのであった。


  そして、ピタリと足を止めた先で見た街並みに対して、王女は呆然としたのである。

「『神の使い』から話は聞いていたが、初めて来たよ、異世界という場所へ......」

  その一言の後で、リュイとミルトも立ち尽くすのであった。


ーー日本という、視界全てに映る一つとして目にしたことのない風景に......。


「こんな場所が本当にあったんだ......。空想の中の物だと思っていたのに......」

  ミルトはあまりの衝撃に、そんな言葉を漏らす。

  三人の反応を見れば、この世界がどれだけ不思議なところであるかはすぐに分かる。

  そう呆気に囚われる三人に対して、遅れて到着した優花は、途端に変なスイッチが入り、早朝の街並みの中でこう得意げに宣言した。

「どうかね、諸君!! ここが、我が故郷である魔都日本だ!! 」

  そんな優花の発言に対して、桜は拳を突き上げて、

「やったー!! 雄二と来て以来だ!! 美味しいものをたくさん食べるぞー!! 」

と、すっかりこの世界の食べ物に魅了された様に喜びを露わにしていた。

  そんな中、ドヤ顔を決め込んでいる彼女は、ふと視線を横にずらした。


ーーするとそこには、彼女らの姿を見て唖然とする早朝散歩をしているであろう老人と目が合った。


  優花はその老人と数秒間目を合わせると、その後で王女らの格好に目をやる。

  キャロリール王女の格好は、赤色基調のいかにも高貴なドレスであり、この世界の日常に溶け込むには余りにも不自然な格好であった。
  それに加えて、リュイとミルトの二人は、『ベリスタ王国』支給の軍服。

  桜は以前この世界で購入したピンクのワンピースなので、違和感が無いのだが......。


ーーしかも、そんなおかしな五人が朝っぱらから訳の分からない事を口にして騒いでいたら、不審者と思われても仕方がない状況であった。


  それに気がついた優花は、途端に中二心を忘れて羞恥心を感じた。

  そして、まだ異世界に感動して立ち尽くす三人に対して、冷静な口調でこう促したのである。

「と、とりあえず、一度私の家に行ってこの世界に見合った格好に着替えようか......」


ーーそれを聞いたキャロリール王女は、突然我に帰ると本来の目的を思い出した様に、強烈な否定をした。


「それでは、キュアリスを見失うではないか!! あたしにはデートを見届ける義務があるのだぞ!! 」

  そんな風にごねる王女の話を聞いた優花は、一つため息をつくと、説得する様にこう返答をした。

「大丈夫だよ。まだ早朝だから二人が街に繰り出す事はないと思うし。それよりも、こんな格好じゃ、尾行どころか悪目立ちしてすぐ二人にバレちゃうよ......。さっさと支度をしてお兄ちゃんのマンションに向かえば、間に合うと思うし......ね? 」

  優花がそう言うと、王女は腕を組んで少し考え込んだ後で、納得した様子を見せた。

「まあ、現地の人間がそこまで言うなら仕方がない。それなら話に乗るとしよう」

  王女が説得に応じてくれた事に優花はホッとした。


ーーだが、それもつかの間、周囲からは突然風が吹き荒れた。


  それと同時に、周囲にいる五人は浮き上がる。

「じゃあ、今すぐにあんたの家まで案内してくれ!! 歩いて行くよりも、空を飛んで行った方が早く到着するだろう?! 」

  したり顔でそう言いながら優花に問いかける王女を見た彼女は、更に大きくため息をついた。


ーー王女、この状況、一体どうしてくれるのよ......。


  優花は心の中でそう思うと、地上で腰を抜かす老人を横目に、苦笑いをしながら自宅までのルートの指示を出したのであった。


ーーこれじゃ、お兄ちゃん達にバレるよりも先に、世間に転移の事実がバレちゃうよ......。


  優花はそんな風に思うと、初めて傍若無人な人々を束ねる兄の苦労を痛感した気がしたのであった。


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