天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第239話 いざ、故郷へ。


ーーーーーー

  俺とキュアリスはあの後、王宮から無事に『特殊異能部隊』の宿舎に戻る事が出来た。


ーー二人で歩いている事に恥ずかしさを感じた俺は、何故かギクシャクしてしまっている。


  いつもは余り意識していなかったものの、俺は真横にいる綺麗な桃髪を一つに束ねて笑顔が素敵な美少女とデートをするのだ。

  何だか、それは改めて考えると、とても非現実的な事に思える。


ーー特に、昔の自分と比較すると余計に......。


  それにしても、どうやら意識しているのは俺だけなのではないかと思うくらい、キュアリスはいつも通りである。


ーーそれは、二日経っても、三日経っても変わらなかったのだ。


  そんな風に、同じ宿舎に戻り、同じ部屋で寝て、同じ食事をする。

  キュアリスを誘い出す事に成功した事をこっそり報告をしたミルト、桜、優花、リュイに関しては、耳元でチャチャを入れて来たものの、その余りにも日常と変わらないキュアリスに違和感を感じていた。

「本当に、デート行く事になったの......? 」

  ミルトは何度もそう俺に問いかけて来た。


ーーもしかしたら、俺だけなのかな?


  このデートの行く末に緊張しているのは......。

  まあ、確かに、キュアリスは「約束しちゃったもんね」と、微妙な言い回しをしていたのは事実だ。


ーーだとしたら、もしかしたら彼女からしたら迷惑なのかも......。


  俺はそんな風に考えているうちに、少しだけ泣きそうになった。

  だが、何にせよ、踏み出さなければならない。


ーー何故なら先程、『異世界の料理店』店主から、

「おう、英雄!! 元の世界へ戻る為の準備が出来たぞ!! だから、これから俺の店に来い!! そのまま転移出来る状態にしておいた!! 」

と、相変わらず暑苦しい口調で報告が来たからである。


ーーもう良いんだ! どうにでもなってしまえ!


  俺はそんな風に全身に気合を込めると、優しい寝顔で眠っているキュアリスを起こした後で、こう言ったのである。

「おはよう、キュアリス!! 今日は待ちに待ったデートの日だ!! 準備が整い次第出発するぞ!! 」

  俺がそう発言すると、キュアリスは眠そうな瞼を数回こすると、笑顔でこう返答した。

「そっか、今日だったね......。うん、今からすぐに準備をするから、先に下で待っててね!! 」

  彼女はそう言うと、軽く伸びをした後でゆっくりと立ち上がるのであった。

  俺はそんなキュアリスの姿に一瞬だけ見惚れると、照れ隠しの為に、そそくさと部屋を出て行くのであった。


ーー寝たふりをしてニヤニヤとする桜と優花を横目に......。


ーーキュアリスよ、「そっか、今日だったね」って、もしかして今日が待ちに待ったデートの日だって忘れていたのか......?


  俺はそう少し彼女を勘ぐると、若干落ち込むのであった。


ーーーーーー

  『異世界の料理店』へと胸の鼓動が治らずに何度も生唾を飲み込む俺を横目に、キュアリスは純粋無垢な笑顔でこんな事を口にした。

「日本って、どんな所なんだろう......。桜は行った事があるって言っていたけど、私は正直、想像もつかないよ! 」

  彼女は俺の故郷である日本に行く事を楽しみにしている様子である。

  でも、彼女の表情からは、デートらしさを一つも感じられなかった。

  何だろう、単純に遊びに行く事に対する期待感しか見えないのだ......。


ーー俺が、考え過ぎなだけなのかな......。


  そんな風にネガティブになっていると、あっさりと俺達は『異世界の料理店』に辿り着いたのであった。

  店の軒先で腕を組んでそわそわとしている店主は、俺達の姿を見つけると、威勢良く手を振った後で、元気よくこんな事を叫んだ。

「おおっ!! やっと来たか!! 英雄と聖騎士!! 」

  俺とキュアリスの間に漂う微妙な空気を気にも止めずに彼は駆け寄ると、俺達の手を引いて店の中へ誘うと、こう続けたのである。

「まあ、とりあえず中に入れ!! もう転移の準備はとっくに済んでいるぞ!! いつでも出発出来る状態だ!! 」


ーーそれを聞いた俺は、緊張感に支配された。


  今は、微妙な空気であるのは確かではあるのだが、これから間違いなくデートをするのだから......。

  それに、キュアリスと日本の、この国よりもずっと文明の発達したあの街を歩くなど、全く想像がつかない......。

  ただでさえ、ここ三日間の様子を見た結果、今日の出来事は彼女にとって、そこまで大したイベントではないのであろう。


ーー俺にとっては、大きな大きなイベントなのだが......。


ーーはぁ......。不安だ......。


  俺がそんな事を考えてマイナス思考になっていると、先に店内へ足を踏み込もうとしたキュアリスは、ニコッと笑い、こう言ったのである。

「じゃあ、行こっか! 私と雄二のデートに! 」

  そのあどけない笑顔で放たれたキュアリスの言葉を聞くと、俺は少しだけ不安を拭う事が出来た気がした。

  だからこそ、ひとまず安心すると、小さく微笑んでこう返事をした。

「そうだな! きっとお前を楽しませるよ! 」

  俺がそう言うと、キュアリスはほんの少しだけ頬を赤らめた。

「うん、楽しみにしてるね......」

  そして、俺とキュアリスは店内に出来上がっていた『歪み』へゆっくりと近づくと、彼女の手をガッチリと握ってその中へと身を投じたのである。

  正直、今もキュアリスの気持ちはよく分からない。

  でも、「デート」と認識してくれている以上、俺は彼女を楽しませなければならない。


ーーきっと、いつか彼女と一緒になる為にも......。


  俺はそう思うと、『歪み』の勢いに飲み込まれぬように、キュアリスの手をぎゅっと強く握るのであった。


ーーーーーー

  すっかりと『歪み』の中へ吸い込まれていった二人を見送ると、店主はカウンターの椅子に腰をかけてタバコに火をつけた後で、こんな事を呟いた。

「頑張れよ、英雄......。俺も、若い頃の事を思い出すぜ......」

  彼はそう言って過去の自分に浸っていると、目を瞑った。

「俺にも、あんな時があったな......」

  だが、そんな風にゆっくりとした時間を壊すかのごとく、突然「ガラッ!! 」と言う音ともに、店の入り口の引き戸は勢い良く開いたのである。

  店主は突然の事にビクッとすると、そちらに視線を移した。

「誰だ......? 」

  そう言って開いた先を見渡すと、彼は苦笑を浮かべた。

  何故ならそこにいたのは、優花と桜、それに、ミルトとリュイの四人とを無理やり引き連れて息を荒げているキャロリール王女だったからである。

  彼女は鬼の様な形相を浮かべて腕を組み、後ろにいた四人は非常にウンザリとした表情を浮かべていた。
 
  そんな皆を気にもせずに相変わらず不機嫌そうな顔をした王女は、小さな身体をスタスタと勢い良く店主の方へ進めると、眼前まで近づいた後でこんな事を叫んだ。

「聞いたぞ!! 雄二とキュアリスは日本でデートをするらしいな!! あたしは、親友としてキュアリスのデートを見届けたいのだ!! だから、後ろの四人を連れてこれから日本へ行く!! これは命令だぞ!! だから、もう一度『歪み』を出せ!! 」


ーーそれを聞いた店主は、面を食らった様に呆然とすると、王女に向けてこう問いかけた。


「王女殿下、突然何を仰いますか......? 」

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コメント

  • ユーザー☆★☆★☆★

    早く続きを読みたいと思うほどハマってますw

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