天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第238話 なんだかんだで。


ーーーーーー

  俺は今、ちょうど王宮前に到着したところだ。


ーー目の前に聳え立つ王宮は朝の日差しに照らされると、この国の長の住居に相応しい事をすぐに理解させられるほど、圧倒的な佇まいを見せている。


  それに少しだけ萎縮すると、俺は少しだけ混乱をする。


ーー何度来ても思うが、この場所が本当にあの破天荒な王女の家なのかと......。


  だが、そんな現実逃避にも似た考えは、シャボン玉の様に綺麗さっぱり消え去ると、俺は約束に引き戻されるのであった。

「はぁ......。本当に、やらなきゃダメなのかよ......」

  俺はそう呟いて憂鬱な気持ちにさせられると、深呼吸を繰り返した後で、王宮の中へと足を踏み込んだのであった。


ーーーーーー

  王宮入り口の体格の良い警備員に案内を受けると、俺は、応接室の一室にあるソファに腰を落として緊張を隠せずに背筋をピンと張っていた。


ーー心臓が刻む速度を上げるのとは対照的に、全身はぎこちなく動きを固めたのだった。


  そんな俺の姿を見た警備員は、少し首を傾げると、

「それでは、少々お待ちください......」

と言って部屋から去って行ったのである。


ーーそれと共に、広々とした部屋は、壁掛け時計から刻まれる音を除いて静寂に包まれる......。


  そんな音に耳を傾けると、これから俺の身に起きる出来事が吉と出るか凶と出るかの行方に恐れおののくのであった。

  すると、そんな時、部屋のドアからは「コンコン」というノック音が聞こえて来たのだ。

  俺はそれに慌てて立ち上がると、「はいっ! 」と、若干裏返った声で返答をした。

  それに対して、ゆっくりと扉が開くと、俺は生唾を飲み込んだ。


ーーキュアリス、来てしまうのか......。


  だが、そんな俺の緊張をフイにするかの様に、ドアの先にいたのは、給仕姿をしたアメールなのであった。

  彼女は、お盆の上にティーセットを持ったまま、冷や汗をかく俺を見ると、無表情でこう呟いたのである。

「佐山雄二さん、一体どうかしましたか......? 」

  俺はそんな冷静なアメールの顔を見ると、テンパっていた自分の挙動に恥ずかしさを感じた後で、顔を真っ赤にするのであった。

「べ、別に何でもねえし! 」

  そう叫び声を上げると、アメールは相変わらず表情を変えずに俺の前にコーヒーを用意した。


ーー俺は、そんな何事も無かった様に業務に専念するアメールの動きに対して、より一層羞恥心を感じた。


  その後で、再びソファに腰掛けると、明らかにおかしなテンションで、こう話しかけたのであった。

「い、いやあ、それにしても、軍帥になるにも関わらず、まだ給仕として働いていたんだな!! 」

  俺がそんな風に場の空気を変えようと必死に絞り出した言葉を投げかけると、アメールは冷静にこう返答をした。

「まだ、正式に軍帥就任の辞令は出ておりませんので......」

  彼女がそう返答すると、俺はその後、何を話せば良いのか分からなくなり、

「なるほどな......」

と、間抜けな口調で答えた。


ーー何だか、やけに気まずい......。


  俺がそんな風に場の雰囲気に違和感を感じていると、アメールはあっさりと俺に対する仕事を終えたのだった。


ーーそれと同時に、彼女は少しだけ笑顔を見せた後で、こんな事を口にしたのだ。


「聞きましたが、あなた、元の世界に戻って、キュアリスさんとデートをするらしいですね。これからこの国を旅立つあなた達の身には多くの試練が待ち構えています。どうか、この短い休息とも言える時間を、快適にお過ごしください......」


ーー俺は、アメールが発した発言を聞くと、再び顔を真っ赤に赤らめた。


「お、お前、何で知っているんだ! 」

  そんな俺の同様に対して、アメールは当たり前の様な口調でこう返答した。

「知っているも何も、『神の使い』同士は常に情報を共有しておりますから......」

  どうやら、俺達の画策は、『異世界の料理店』の店主経由で筒抜けだったらしい......。


ーー嗚呼、世の中、無情なり......。


  俺はそれに呆然としていると、アメールは続け様にこんな言葉を投げかけた。

「まあ、どちらにせよ、この世界を救わなければならないあなたです。彼女の気持ちくらい射止めるのは容易いのではないでしょうか? 」

  あまりにも感情のない口調でそう言った彼女に対して、俺は何故か無性に苛立った。


ーー他人事だからって......。


  だからこそ、動揺しながらも、俺は感情に身を任せながら、アメールを勢い良く指差してこう宣言して見せたのだ。

「当たり前だ! 俺は今日、キュアリスをデートに誘ってやるからな! そして、成功して見せる! 」

  それを聞いたアメールは、マジマジと俺を見つめた後で、入り口のドアの方を見つめた。

「あら、妙なタイミングでおいでになられたものですね......」

  俺はそんな、よく分からない発言をしたアメールにポカンと口を開いた。

  その後で、ゆっくりと彼女の視線の先にあるドアの方に目を向けると、そこには俺と同じく呆然とした表情で立ち尽くすキュアリスの姿があったのだ。

「キュアリス......? 」

  俺が探り探りの口調でそう問いかけると、キュアリスは動揺しながらこう返答をした。

「雄二、おまたせ。今、何となく聞こえちゃったけど、そういえば、デートするって話だったね。約束は約束だから! 私をどこに連れてってくれるの? 」

  何処と無く照れを垣間見せるキュアリスが発したその言葉を聞くと、俺はこう問いかけた。

「本当に、俺とその、で、デートしてくれるのか......? 」

  彼女は俺のそんな発言に少し恥ずかしそうにしながら小さく頷いたのであった。

「まあ、約束しちゃったし......」


ーー俺は、そう言ってはにかんだキュアリスを見ると、思わずガッツポーズをしてしまいそうになる程の喜びを感じた。


  だが、照れ隠しに冷静な口調に戻って、こう改めて提案した。

「じゃあ、三日後にデートをしよう。行き先は、俺の故郷である日本だ」

  それを聞いたキュアリスは、俺とは対照的に、満遍の笑みを浮かべてこう言ったのである。

「雄二の故郷か......。すごく楽しみだよ! 」

  俺は、そんな風にあどけない笑顔を見せた彼女を見た時、改めて思った。


ーーやっぱり、俺はキュアリスが大好きなんだと。


  それに加えて、これまで踏み出せなかった俺に力をくれたミルト達に感謝するのであった。

  俺は、三日後にキュアリスとデートをする。


ーー故郷である日本で......。

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