天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第237話 マイナス思考が止まらない。


ーーーーーー

  日差しが差し込める朝焼けの中で、ミルトは目を覚ました。


ーーどうやら無理な体勢で寝ていた様で、肩の辺りには軽い痛みを感じる。


  それに、その場所は眠り慣れた宿舎のベッドとは違ったのである。

「頭、痛い......」

  彼女はそう呟くと、辺りを見渡した。

  すると、飲み干して空になったグラスや皿の乗ったテーブルの向かいには、横になり気持ち良さそうに眠っているリュイの姿が飛び込んで来たのだ。

  そんな彼女の姿を見ると、薄暗い『異世界の料理店』内にて、ミルトは前日からの事を思い出す。


ーーより、鮮明に、克明に......。


  その後で一瞬悲しそうな顔をした後で、現実を理解したのである。

「そっか......。私、フラれたんだっけ......」

  彼女はそう呟くと、笑顔でこんな言葉を付け加えたのである。

「頑張れ、雄二。デートの誘い、成功すると良いね......」


ーーミルトは窓の外に向けてそう言うと静かに立ち上がり、両頬を「パンッ」と叩いて気合を入れた後で、寝息を立てるリュイに向けて元気良く大声で肩を揺するのであった。


「おはよう、リュイ!! 早く起きないと! 」

  それを聞いたリュイは、慌てて飛び起きる。

「わあっ!! も、もう朝なのか?! 」

  リュイのそんな発言に対して、ミルトはこう返答をした。

「何を言っているの?! もう昼過ぎだよ!! 早く帰らなきゃ、みんなが心配するよ!! 」

  それを聞いたリュイは、ボサボサの頭を一瞬だけかいた後、現実を理解して大袈裟に膝をついた。

「入隊してから一度も欠かした事のない、朝の鍛錬を怠ってしまった......。このままでは、私は更に弱くなってしまう......」

  リュイがそう絶望を口にすると、ミルトはニコッと最高の笑顔を見せてこう言ったのであった。

「まあ、良いじゃん!! たまにはそう言う時もあるよ!! 」


ーーそれを聞いたリュイは、小さく微笑んだ。


「まあ、今日に関しては、ミルトのせいにするとしましょう。特例中の特例として......」

  そんな発言をした彼女に、ミルトは一瞬だけ顔を赤らめると、すぐにジト目をしてこう囁いた。

「でもリュイ、昨日に比べて少しだけ丸みを帯びた気が......」

  彼女がそう呟くと、リュイは大袈裟に喚きながら、

「そ、そうなのか?! やはり、鍛錬を怠ったからなのか......。私はショックだよ!! 」

と、再び絶望を口にする。


ーーそんな彼女に対して、最高の笑顔で、

「冗談だよ。一日で太るわけが無いじゃない! 」

と、茶化した様な口調でそうリュイの肩に手を当てた。

「あんた、馬鹿にするんじゃない!! 」

  リュイはそう顔を真っ赤にして怒っている。

  ミルトは、そんなやり取りをしている中で少しだけ切ない気持ちにさせられる。


ーーもうすぐ私は、『特殊異能部隊』からも去ってしまうんだな。


ーー大親友リュイとこんなやり取りをする事も出来なくなるんだな。


ーー自分が本当に辛い時、真っ先に相談出来る仲間がいなくなるんだな。


ーー何だか、さみしいな......。


  ミルトは先日、人知れず雄二にフラれた事も忘れて、目の前にいる大親友との今後を考えてしまっていた。

  だからこそ、彼女はボソッとこんな問いかけをした。

「これから、離れ離れになっても、ずっと友達でいてね......」

  それを聞いたリュイは、真っ赤にした表情を微笑みに変えると、こう返答をした。

「当たり前だろう。もしいつか、ミルトが私を大嫌いになる事があったとしても、私はずっとあなたの親友であり続ける覚悟が出来ているよ......」

  そんなリュイの暖かい発言を聞いたミルトの体からは、少しだけ拭えない切なさが消えていくのであった。


ーー私には、大親友がいる。


ーー初めて出来た、大親友が......。


ーーだから、もう泣かないと誓います。


ーーたとえいつか、どんな悲劇が待ち構えていたとしても......。


  ミルトはそう心に誓うと、リュイの手を取って、こう宣言したのだった。

「じゃあ、帰ろうか。私達の『特殊異能部隊』の元へと......」


ーーーーーー

  俺は、一睡もしていない。

  理由は至って簡単である。

  それは、緊張というシンプルなものだ。

  人生において、初めて女の子をデートに誘う。

  何を隠そう、俺はピュアである。

  だから、考えてしまう。


ーーもし仮に、断られたらどうしようと......。


  今後、気まずくなるんだろうな。

  下手したら、俺達の旅にすら着いて来てくれないかも知れない。

  そう考えると、俺は肝を冷やすのである。

  そんな風にネチネチとマイナス思考に頭を膨らませているうちに、気がつけば辺りは明るくなっていたのだ。

  部屋の中には、大きくイビキを立てる桜の姿があった。

  俺は、そんな桜を見ると、大きくため息をつく。

「お前みたいな性格だったら、俺は前向きにキュアリスをデートに誘えたであろうな......」

  俺がそう呟くと、背後からは人の気配がしたのである。

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。きっと、キュアリスは了承してくれるはずだから......」

  そんな声が聞こえると、俺は寝返りを打つ。


ーーすると、いつから同じベッドに入って来たのか、優花が身を寄せる様に俺の傍で横になっていたのだ。


「い、いつからここにいた?! 」

  俺が顔を真っ赤にしながら、そう問いかけると、優花はキョトンとしてこう返答したのだ。

「昨日の夜からずっといたよ。お兄ちゃん、私が問いかけても何か青ざめた顔でブツブツ言っていたから、心配になって......」

 俺はそんな風に心配する優花を見ると、苦笑いを浮かべた後で、恥ずかしくなった。


ーーどんだけテンパっているんだよ、俺! 


  そう思うと、俺は一度咳払いをした後で、こう言った。

「まあ、もし断られた時は、俺を笑ってくれよな......」

  それを聞いた優花は、右手を俺の頭に伸ばすと、ニコッと笑ってこう返答をした。

「わかった。約束するよ。妹として精一杯、堕天した兄の醜態を嘲笑ってあげるから。」

  俺は、そんな予想に反して痛烈だった答えに対し苦笑いすると、ほんの少しだけ緊張が和らいだ事を確認した。

  ひとつの布団の中で、吐息がかかる程の至近距離にいる優花の疲れた表情を見る限り、彼女も俺と同様、一睡もせずに心配してくれていた事がすぐに分かった。

  だからこそ、俺はそんな優花の優しさに有り難さを強く感じた。

  そして、東の日差しが部屋に差し込めた時、俺は立ち上がると、こう言ったのである。

「じゃあ、行ってくるよ。勇気を持ってキュアリスを必ず誘ってみせるから」

  彼女はそんな俺の発言に対して、

「行ってくるがよい。カオスブレインよ。その勇姿を遺憾なく発揮してくるがよい! 」

と、桜を起こさぬ様に小声で勇気付けてくれた。

  その言葉を最後に、俺は『特殊異能部隊』の施設を去って行った。


ーーキュアリスをデートに誘う為にも......。

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