天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第236話 押し込めていた想い。


ーーーーーー

  俺達は今、とてつもない壁にぶち当たっていた。

  その様子は、『異世界の料理店』内にある座敷の上を見れば、一目瞭然である。

  五人の男女は目を合わせぬ様に下を向き、神妙な面持ちを見せている。

  その状況を見るに、今がいかに危機的な状況であるかをすぐに理解出来る。


ーー俺達は全員、恋愛経験がない......。


  ミルトとリュイに関しては、今までの境遇が境遇だった為に、恋などをする暇が無かったのである。

  優花と桜もまだ幼いが故、その類の経験は無いと見受けられる。


ーー後、俺に関しても......。


  そんな形で、今は全く誰も言葉を発せようとはしないのだ。

  圧倒的な経験不足によって。

  だが、そんな時、ゆっくりと顔を上げたミルトは、真剣な表情でこんな事を言った。

「まあ、確かに私達は全員、デートなんてした事が無いのは事実だね。実際にデートって何をするのかもよく分かってないし......。まあ、予想だと、二人で出掛けたりとかになるんだろうけど......。」

  俺は、ミルトが発言したその言葉を聞くと、もう一度こんな提案をしようとした。

「やっぱり、そう考えたら無理なんだよ、だから......」

  俺がそう後ろ向きな発言をしようとすると、ミルトはそれを遮る様にこう呟いた。

「でも、雄二とキュアリスに幸せになって欲しいのは事実だから、やっぱり頑張らないとだね。まずは雰囲気が大事だよね。『リバイル』の街を歩くと『英雄』と『聖騎士』のカップルなんて、野次馬達の格好の的だし、もし変装したとしても、普段と変わりばえが無いなぁ。そうなると、少し変わった場所へ行くというのが、最善かもしれないけど......。」

  突然、覚醒した様に話し出したミルトに、俺は再び抗った。

「別の場所とか、ハードルが上がっている気がするんですけど......。」

  俺がそう今にも消えそうな声でそう呟くと、隣で黙り込んでいた桜は、何か思いついた様に顔を上げた。

  ミルトはそんな桜の変化に対して、真面目な顔でこう問いた。

「桜、何か良い案でも浮かんだの? 」

  それを聞いた桜は、ニコッと笑いながら俺の腕を掴んで、こう返答をしたのである。

「桜、『リバイル』とは全く違くて、誰の目も気にする必要がない場所、思いついたよ!! 」


ーー俺達は、純粋な口調でそう言い放った桜を、マジマジと見つめる。


  そんな得意げな桜に対して、リュイはポカンとした表情でこう問いかけた。

「その場所とは......? 」

  桜は、リュイが恐る恐る聞いたその質問を聞き終えると、得意げに立ち上がって胸を張り、こう宣言したのであった。

「その場所は、『日本』だよ!! 雄二のふるさと!! あそこは、ここよりもずっと綺麗な景色だし、雄二だってふるさとの方が色々知ってそう!! それに、キュアリスも感動すると思うんだ!! 」

  それを聞いたミルトは、大いに湧き上がった。

「確かにそれなら、キュアリスの心を掴めるかもしれないね! 未開の地、しかも、雄二の故郷へ行くなんて!! 」

  ミルトの興奮を聞いていると、俺は少し考えを巡らせる。

  俺は二人に対して元の世界に戻った経緯を以前伝えていた。

  もし俺が元の世界に転移するとしたら、『崩壊の神』のいる霞神社まで赴く必要があるのだ。

  そこまでの道のりは、以前その地に訪れた時間を考えると、馬車で三日。

  俺の能力を駆使したとしても、少なくとも一日は掛かってしまうであろう。

  その中途半端な時間、俺は間を満たせる気がしない。


ーー大々的に『デート』などと銘打っているのだから......。


  それに、『キュアリスとデートがしたいので戻りたいです』なんて理由で『崩壊の神』が転移を容認するとも到底思えない。

  俺は、この世界を救わなければならないのだから......。

  そう考えると、俺は小さく首を振った後で、桜にこう反論をした。

「その案は、あまり現実的ではないな。理由が理由なだけに、神はそれを許さないだろうよ......」

  俺の発言に対して、桜はわかりやすく不満そうな顔をすると、

「何でよ! 大事な事なのに! 神様ってそんなにケチなの?! おかしいじゃん! 」

と、自分の提案を否定された事に対する怒りを露わにしながら駄々をこねていた。

  それを見たミルトも、少し残念そうな顔をする。

「でも、そうだよね。現実問題、なかなか難しいかもしれないなぁ......」

  そうしなだれるミルトを見ると、桜はその場で手足をばたつかせていた。

「ミルトまでそんな事言って! 」


ーーそんな桜を見た俺は、大きくため息をついた。


  すると、その様子を大人しく聞いていた優花は、こう口にした。

「また、話振り出しに戻っちゃったね......」

  優花の発言を聞いた全員は、再び俯いて沈黙が辺り一帯を染めていった。

  だが、そんな時、『異世界の料理店』の店主の男が両手に作りたての料理の皿を持ってこちらにやって来て、こんな事を言ったのであった。

「さっきからずっと話を聞いていたが、その理由での転移なら問題ないであろう」


ーー俺は、そんな突然の発言を聞くと、呆然とした。


「えっ......? 今なんて......」

  俺がそう問いかけると、店主は両腕を組んで自信満々な様子でこう言ったのである。

「だから、元の世界に転移出来ると言ったんだ。俺だって男だ。『英雄』の恋路を応援したいと思うのは当然じゃないか? だから、任せておけ! 」

  俺は、余りにも熱く、堂々とそう宣言した店主の言葉を聞くと、呆然としながらこう問いかけた。

「転移、出来てしまうのか......? それに、お前は何者だ......? 」

  俺がそう問いかけると、店主は顎髭を少しつまんだ後で、ニコッと笑ってこう返答した。

「あれ、言っていなかったか? 俺は、この世界にて『崩壊の神』に長く仕える『神の使い』だって......」

  唐突に衝撃的な発言をした店主に対して、俺は苦笑を浮かべた。

「いや、聞いてないし......。」

  だが、そんな俺のテンションとは打って変わって、ミルトと桜は大いに湧いていた。

「やったじゃん! これで、場所は決まったね! 後は、雄二のプラン次第だね! 故郷なら、デートに最適なスポットとか知ってるはずだし! 」

  ミルトは嬉々としてそう歓声を上げた。

  彼女は、ちゃっかりその後の事全てを俺に放り投げたのである。

  それに対してうんざりしていると、店主はそんな俺の表情を気にする事なく肩を組むと、

「まあ、俺に任せておけって! 二人の愛が実るように俺もがっつりサポートするからよ! 」

などと、暑苦しいテンションでそう言ったのである。

  何にせよ、俺は、半ば強引な形でキュアリスと日本でデートをする事が決まってしまった。


ーーーーーー


ーー「明日の朝、王宮にキュアリスを迎えに行った時、ちゃんとデートに誘うんだよ! 店長さんの準備期間を加味して、決行日は三日後だよ! 」ーー


  ミルトがそんな風に勝手に日取りまで決めると、俺と桜と優花は先に店を後にした。


ーーデートプランの会議が終了すると、突然リュイが、

『今日は飲み足りないから、もう少しミルトとお酒を飲んでから帰ります。なので、お三方はお疲れでありましょうから、お先に戻っていてください』

と言い出したので、俺達は先に帰る事になったのだ。

  帰りの道中では、桜と優花の二人に茶化され続けた。

「やったじゃん! 念願のデート! しかも、日本で! 最高だね! 」

  桜が深夜にも関わらずテンションマックスでそう嬉々として言っているのに対して、優花は中二ポーズで続ける。

「魔都にて、禁断の恋を実らせてくるがよい、カオスブレインよ......。」

  俺は、そんな二人の発言に、少しずつ現実を理解した。


ーー本当にキュアリスとデートするんだな。


ーーしかも、日本で。


  そんな嬉し恥ずかしな状況の中で、同時に果てしない不安を感じた。


ーーてか、断られたらどうしよう......。


  俺はそう考えると、生唾を飲み込むと、明日が来て欲しいような、欲しくないような微妙な気持ちから胸の鼓動が速くなるのを確認したのである。


ーーーーーー

「本当に良かったね! ちゃんとキュアリスはデートを受け入れてくれるかなぁ~? 」

  『異世界の料理店』に残ったミルトが明るい口調でそう発言すると、リュイは神妙な表情を浮かべた。

「ミルト、本当にこれで良かったの? 」

  リュイがそう問いかけると、ミルトは相変わらず純粋な口調でこう返答した。

「なんで? だって、二人が幸せになるのが私の願いなんだよ。」

  それを聞いたリュイは、手元のビールをクイッと飲み干すと、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「あなたの本当の気持ちを知っているからこそ、私は複雑なのよ。ミルト、あなたは言っていたじゃない『雄二が好き』って......。それに、ミルトだけには言った筈だよ。もうすぐ隊長殿はこの国を去るってね。」

  そんなリュイの発言を聞いたミルトは、少しずつ笑顔を崩して行った。

「そんな事、わかってる......」

  蚊の鳴くような声でそう言ったミルトを見たリュイは、勢い良く立ち上がると、彼女の両肩を強く掴むと、こう怒鳴り声を上げた。

「ならば、今伝えなくてどうするの?! もう隊長殿はいなくなっちゃうんだよ?! それに、ミルトだって、『特殊異能部隊』を去ってしまう......。正直、私はあなたには幸せになって欲しい! だから......」

  それを聞いたミルトは、小さく俯く。

  それから暫く沈黙が流れた後で、リュイの手を振りほどき、笑顔でこう言ったのであった。

「これで良かったの。私は、二人が幸せになってくれる事を誰よりも願っているから......」

  彼女がそう発言すると、リュイはミルトの顔をマジマジと見つめた。


ーーそう、無理やり笑顔を作ったミルトの頬からは一筋の涙が伝っていたのだ......。



 それを見たリュイは、表情を崩した後で、再び座敷に座り込んだ。

「あなたは、本当に馬鹿だ。あの日以来、ずっと好きだと言っていたのに......。」


ーーリュイがそう呟くと、ミルトはあの日の出来事を思い出していた。


  どうしても埋められなかった姉との溝を埋めてくれた佐山雄二の姿を......。

  長いわだかまりを前に踏み出せない自分に対して、余りにも真っ直ぐな正義感で強引に彼女の手を取ってくれた佐山雄二の温もりを......。

  『ヘベレスシティ』にて、ポルとの和解以来、ミルトはずっと佐山雄二の姿を見つめ続けた。


ーーその度に胸の高まりは収まらなかった。


  でも、気持ちがバレないように気丈に振る舞い続けた。


ーー上司と部下である関係を保つ為にも......。


  リュイにだけはすぐにバレてしまったのだが......。

  ずっと辛かった。どうしようもない衝動もあった。キュアリスと仲睦まじくする姿を見て嫉妬する事もあった。

  そんな日々を繰り返して行く内に、彼女は思い知らされた。

  雄二の愛する人は、淀みなくキュアリスただ一人である事に......。

  最初からずっと分かっていた。

  でも、どうしても気持ちは変えられなかった。

  だからこそ、『王家の晩餐会』でデートの話が出た時、気持ちを諦める絶好のチャンスだと思った。

  そして、今日ハッキリと佐山雄二は言っていた。


ーー「俺は、キュアリスが好きだ」ーー


  その一言を聞いたミルトは、純粋に二人の仲を応援しようと思った。

  だが同時に、今まで経験した事がない程の哀しみを感じた。


ーー最初から分かっていた事だった。


  絶対に一緒になる事の出来ない相手に恋をしてしまった事に......。

  ミルトは、そんな事を考えているうちに、次第に表情を崩した。

  そして、目を真っ赤にすると、その場に崩れ去った後で、テーブルに顔を押さえつけて心中を吐露したのである。

「ずっと好きだった。諦めたいと何度も思った。尊敬するキュアリスと大好きな雄二を応援しなきゃって。でも、どうしても諦められなかった。私は、雄二が好き。多分、これからもずっと。忘れられるわけがない......」

  それを聞いたリュイは、顔を覆って気持ちを露わにするミルトの肩にそっと手を当てた。

「本当にどうしようもないね。ミルトは......」

  そんなリュイの温もりを感じたミルトは、グシャグシャになった顔を上げると、無理やり笑顔を作ってこう呟いた。

「でも、もう心配しなくても良いよ。私は雄二を諦める。二人のデートの成功を心から願っている。これは、私にとっての覚悟だから......」

  彼女がそう発言すると、リュイは微笑を浮かべると、優しい口調でこう提案した。

「全く、あなたは頑固すぎる......。ならば、今日は朝までトコトン飲みましょう。何もかもが忘れられる様に......」

  それを聞いたミルトは、涙で顔全体を濡らしてリュイの胸に抱きつくと、小さい声でこう呟いた。

「ありがとう、リュイ。私の大親友......」


ーーその様子をカウンター越しに見つめていた店主は、こんな事を呟いた。


「いやいや、青春だね......」

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