天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第235話 デートの定義。


ーーーーーー

「よぉ~し! 到着だ!! 」

  『異世界の料理店』にたどり着くと、そう威勢良く振り返ったのは、相変わらず有頂天なテンションを続けるミルトの姿であった。

  それに続くように桜も、小さな右手の拳を振り上げている。

  俺は、そんな様子に対して、少しだけしかめっ面をした後で、「帰りたい」という衝動が体を支配するのであった。

「やっぱりやめようか......。」

  俺がそう呟いて行き来た道を戻ろうとすると、優花は俺の手を力強く掴むと、精一杯の格好付けを見せながら、こんな事を口にした。

「暫し待て、カオスブレイン。我は、貴様をそのような無粋な男に育てたつもりはないぞ。邪神としての自覚を持つが良い。」

  俺は、そんな優花の小芝居に少しだけ苛立ちを覚えた。

「いや、お前に育てられた記憶は一切無いわ......。」

  冷静な口調でそう呟くと、俺は優花の腕を振りほどくと、再び逃げようと足を進めた。

  だが、そんな時、桜は俺の背後から抱きつくと、こう言った。

「雄二、ここで逃げたら、桜は一生『けいべつ』するからね!! みんな、キュアリスとのデートの為に協力してくれてるんだよ?! 」


ーーいや、軽蔑なんて言葉、どこで覚えたんだよ......。


  それにしても、桜に嫌われるのは、流石に胸が痛むな......。


ーー彼女は、もう立派な家族の一人なのだから......。


  俺はそれに対して苦笑いを浮かべると立ち止まり、桜の事を一度抱え込むと、

「畜生、汚ねえな!! 分かったよ!! 行けば良いんだろ?! 」

と、半ば諦め気味に勢い良く『異世界の料理店』の中へと踏み込んだのであった。

「よしよし、やっと決意を固めたか。」

  ミルトはニヤニヤとしながらそう言って俺の背中を押したのである。

  俺はそんな彼女に後押しされて、キュアリスとのデートの作戦会議は始まったのである。

ーーーーーー

  全員が『異世界の料理店』の座敷に着席すると、ミルトは手際よく料理と酒を注文した。

  桜と優花に関しては、元の世界では飲み慣れているコーラにも似た飲み物を頼んでいた。

  それを終えて、全員にドリンクが行き届くと、ミルトは威勢良くこう宣言したのである。

「それでは、雄二とキュアリスのラブラブ初デートの作戦会議を始めたいと思います!! 」


ーー彼女はそう叫ぶと、俺達に乾杯を促した。


  すると、それに並ぶ様に優花と桜は笑顔で「乾杯!! 」と、グラスを傾けた。

  俺は、その「ラブラブ」というそぐわない表現に対して、

「別に、付き合っている訳ではないし、ラブラブとかはやめないか......? 確かに、大切な仲間ではある訳だが......。」

  俺がそう少し顔を赤らめながら呟くと、ミルトは少しムッとした表情を浮かべながら、こう問いかけた。

「今更、何を言っているの......? だって雄二、見るからにキュアリスの事が好きじゃん。そんなの、誰が見たってすぐ分かるよ! それに、私達が全力でサポートする予定なんだから、上手くいけばキュアリスと付き合えるかもしれないよ?! 」

  ミルトのそんな発言に対して、先程からずっとテンションの低いリュイは、彼女へとこう呟いた。

「こら、ミルト。あまり隊長殿に......。」

  弱々しい口調でリュイがそう諭したのを無視したミルトは、俺に顔を近づけると、改めてこう問いかけた。

「じゃあ、ハッキリと確認するよ! あなたは、キュアリスの事が好きなの?! 嫌いなの?! 」

  俺は、そんな迫力があるミルトの表情に押されると、目を逸らして蚊の鳴くような声でこう返答をした。


「まあ、嫌いではないが......。」

  俺がそう答えると、ミルトは煮え切らない俺の発言にイライラしてこう言った。

「もう! みんなわかってる事なんだから、ハッキリと言いなさいよ! 」

  ミルトがもう一度食い込み気味でそう問い詰めると、他三人も真剣な眼差しで俺の答えに期待しているのがすぐに分かった。

  俺は、そんな空間に耐え切れなくなる。

  そして、半ば投げやりな表情でミルトの方を見つめると、こうハッキリと宣言したのであった。

「もう、うるさいな!! そうだよ!! 俺はキュアリスが好きだ!! みんな分かっているだろうけど、この世界に転移してからずっとな!! これで良いだろ?! 」

  ミルトは、俺の口から出た『キュアリスが好き』という言葉を聞くと、一瞬だけ真顔になった後で、ニコッと笑顔を見せた。


「よしよし、やっと雄二の気持ちを聞き出す事が出来た......。それでは、初デートについて......。」

  ミルトはそう言うと、一度、フリーズした。


ーーそれと同時に、俺たち全員も固まる。


  それから暫く、その空間は静寂に包まれたのであった。

  そんな状況に対して、リュイは素朴な疑問をミルトに投げかけた。


「ところでミルト、デートとは、一体何をすれば良いのだ......? 」

  リュイが問いかけたその質問に対して、ミルトは苦笑いを浮かべてこう返答したのであった。

「いや、正直なところ、私もデートなんてした経験がないから、イマイチよく分からない事に気がついた。」

  それと共に、もう一度その場は静寂に包まれた。


ーーおい、ミルトよ。


  もう少し考えを持ってから事を進めてくれ。

  そうでないと、俺がハッキリとキュアリスへの気持ちを吐露した意味が無くなってしまうじゃないか......。


  俺はそう考えると、すっかり静まり返った座敷の上で、只々、呆然とするしかなかったのであった。
 

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