天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第233話 一難去ってまた一難。


ーーーーーー

  俺は、恒例行事となった晩餐会に出席をすると、国の要人や王女と言った面々と共に、この国における門出を祝福してもらっていた。

  まあ、何にせよ、ベリスタ王国で行われる俺達にとって最後の晩餐になってるのであるが......。

  円卓を囲むのは、いつも通りの見慣れたメンバー。

  右隣にはキュアリス、反対には桜、対面には優花。その両隣には、リュイとミルトが座っていた。

  そんな中でも、たった一人だけ浮いた存在がキュアリスの左隣の席に腰を掛けている......。

「まあ、あれだ!! 今回の戦争を以ってして、この国は暫く安泰というわけだ!! これも、お主らのおかげであるぞ!! 好きなだけ食べて貰えれば有難い!! 」

  天真爛漫な声でそう得意げに話したのは、本来会場の一番目立つ位置で居座っている筈の彼女が、何故か俺達のテーブルにいたのである......。

「そいつは、どうも......。」

  俺は、若干気まずさを感じつつも、そんな彼女の発言に目を逸らした。

  これから始まる晩餐会。

  戦争において功績を挙げた者を祝福する為に、贅の限りを尽くして振る舞うというこの国の不思議な風習だ。

  それは、命を張って国に尽力した者のみが味わえる物なのである。

  正直、俺はまだそこに参加出来る事の凄さを理解していない。

  しかし、国家の労いは俺にとっても有難い事案である事には変わりない。

  だからこそ、俺は王女の方を眺めて小さく微笑んだ。

「だ、駄目ですよ、キャロリール王女殿下! あなたはこの国の長なのですから、こんな場所におられるなど......。」

  そうあたふたと王女を立ち上がらせようとしたのは、隣席のキュアリスだった。

  まあ、確かに王女の為に用意された特別なテーブルはステージの一番近くにある。

  だが、どうやらキャロリール王女は、俺達と共に食卓を囲みたかったらしい。

  そんなワガママに頭を悩ませているのは、背後で大きくため息をつくポルを見れば一目瞭然であった。

  しかし、キュアリスが促した一言を一蹴する様にして、王女は狼狽える彼女の口元に真っ赤なワインの入ったグラスを押し付けると、彼女は抵抗をやめてそれをゴクゴクと飲み干したのであった。


ーー俺は、それを見ると唖然とする。


  あまりにも一瞬で、俺の注意は無意味なものとなったのだから。

  まだ、乾杯すらもしていないというのに......。

  俺は、それに対して慌てて、

「キュアリス、大丈夫か?! とりあえず、水でも飲んで落ち着いた方が......。」

と、必死に取り繕ったのであった。

  すると、キュアリスは俺の差し出した水を断ると、こう言ったのである。

「大丈夫だよ、雄二。気にしすぎだよ。」

  俺は、まともに受け答えをしたキュアリスの発言を聞くと、ひとまずホッとした後で、

「なら良かった。じゃあ、これから晩餐会を楽しもうな! 」

と、笑顔で返答した。

  俺は、少し懸念し過ぎたらしい。

  多分、王女がキュアリスに無理やり飲み込ませたものは、酒ではなかったみたいだ。

  まあ、何にせよ、ここからは注意深くキュアリスを監視せねば......。

  俺がそんなことを考えてキュアリスの顔を覗き込むと、俺はその表情に驚愕した。

「だぁいじょうぶだって言ってるでしょ~? 」

  俺は、そんな素っ頓狂な声でニヤける彼女を見て、気がついた。

  それと同時に、彼女は俺の右手に左手を絡めると、まるで飼い慣らして懐いている猫のように俺の体へ頬ずりを始めたのである。

  また、やってしまったのだ。

  いや、まだ晩餐会は始まってもいない。

  俺は全身に鳥肌を立てながら、三度目の正直をあっさりと失敗すると、桜の方へ助けを求めた。

「ど、どうにかしてくれよ......。」

  それを聞いた桜は、自分の椅子を持ってゆっくりと優花の方へ歩き出すと、俺をジーっと眺めながら冷めた口調でこう言ったのである。

「桜は、知らないよ。雄二がもっと注意をしないから悪いんだからね! 」

  そう吐き捨てるように呟いて、優花と談笑を始めた桜に苦笑いすると、少し上がった体温を強く感じるキュアリスの先にいる王女を恨めしそうに睨んだ。

「お前、こうなるのが分かっていたはずだろ......。」

  それを聞いたキャロリール王女は、高笑いを決めると、こんな事を言ったのである。

「まあ、良かったではないか! お主らにとって最後の晩餐でいい思い出を作れそうで! 」

  俺は、そんな王女の他人事な発言に対して、「ぐぬぬ......」と、歯をくいしばった。

  だが、そんな時、キュアリスは王女の声に反応すると、俺からパッと離れて彼女の方へ顔を向けた。

「あれぇ......? もしかして、王女殿下じゃありませんかぁ~! 」

  そんなキュアリスの発言に対して、王女はあからさまにビクッとした。


ーーそして、それと同時にキュアリスは王女に熱い抱擁を始めたのである。


  それに対して、明らかに動揺している王女。

  それを見た時、俺はホッと一安心をした。


ーーどうやら、今日のターゲットが決まったようだから......。


  だが、そんな時、拡声器を通して「コホン! 」と、咳払いが聞こえた。

「え~、それでは、この度の戦争において、多くの功績を残した人々を讃えるため、これより『王家の晩餐会』を開始したいと思います! 」

  国の要人がそう宣言をすると、それと同時に会場内の人々は、『乾杯! 』と、高らかに叫んだのである。

  今回は、キュアリスが王女の方へ意識を向けているので、安心して晩餐会を終える事が出来る。

  慌てて逃げるキャロリール王女をフラフラと追いかけて行くキュアリスを横目に俺がホッとしていると、身の安全を確認して隣に戻って来た桜は、俺の耳元でこんな事を囁いた。

「それにしても、雄二は大胆になったもんだね......。」

  彼女がニヤニヤとしながら発言したその意味を、俺はあまり分かっていなかった。

「いきなり何を言ってるんだよ......? 」

  俺が狐につままれたような顔でそう問いかけると、桜は俺の腕をガシッと掴んでこう付け加えた。

「だって雄二、あの時キュアリスと約束してたじゃん。『この戦争に勝ったら、デートしよう』って......。」

  俺はそれを聞くと、イワイ・シュウスケとの決着を付ける直前で自ら発した言葉を思い出すと、途端に顔を真っ赤にしたのである。

「な、何を言っているんだ! あれは、言葉のあやでだな......。」

  俺がそう必死に抵抗をすると、桜はムッとした様に口を膨らませた後で、

「ダメだよ! 約束は約束なんだから! ちゃんとキュアリスと、デートしなきゃダメだからね! 」

と、周囲に聞こえる程の大きな声で叫びながら俺の両頬をつねっていた。

  それと同時に、円卓に座る皆は、時が止まった様に俺を見つめた。

「た、隊長殿、あ、あなたは、キュ、キュアリス様とデートをされるんですか......? 」

  明らかに動揺を隠しきれていない様子でそう問いかけたのは、リュイであった。

  それをニヤニヤとしながら見つめるミルト。


ーー「デート」という言葉で誰かを思い出したかの様に何故か顔を赤くする優花......。


  その後で一旦、円卓で静寂が続くと、それを打破する様にしてリュイが俺の元へ駆け寄り、こう提案を始めたのである。

「そ、それならば、しっかりとプランを立てなければなりません! 親愛なる隊長殿の大一番なのですから!! 」

  興奮気味に詰め寄ったリュイに対して、俺は焦りながらこう抵抗した。

「な、何言ってんだよ。そ、それはあれだ。言葉のあやと言うか......。」

  そんな俺の弱々しい発言を打ち消すかの様に、ミルトはニコニコとしながらこう宣言した。

「それなら、これからみんなでデートプランを考えよう! 」

  そんな彼女の言葉に賛同した皆は、「おー!! 」と、拳を挙げたのである。

  三度目の正直で臨んだ『王家の晩餐会』。

  一難去って一安心した俺には、また新たな課題が生じたのである。

  普段、二人で行動する事は多くあるものの、改めてデートと言われると、気恥ずかしさが生じるのは、当たり前である。

  だって、俺はキュアリスの事が......。


ーー俺がキュアリスと『デート』なんて......。


  そう考えると、嬉しい様な、恥ずかしい様な複雑な気持ちが全身を支配して、俺は顔を赤らめるのであった。

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