天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第232話 大きなため息。


ーーーーーー

  そそくさとその場を去ったアメールに続く様にして、俺は部屋を出ようとした。

  だが、アメールは部屋を出た途端に立ち止まると、一瞬驚いた表情を見せた後で、歩くペースを早めた。

  俺は、それに疑問を抱きながら儀式が行われるホールへ続く廊下に踏み出すと、彼女と同じ反応をした。


ーー何故なら、その場所にいたのは、紛れもなくキュアリスであったからだ......。


  彼女の表情は明らかに曇っている。

  その顔を見た時点で、俺は彼女が先程のやり取りを聞いていた事を理解したのであった。

「お、お前......。」

  俺がそう驚愕の表情で呟くと、キュアリスは俯いていた。

「ごめん......。盗み聞きするつもりは全くなかったの......。雄二が余りにも遅いから、様子を見に来ただけで......。」

  彼女が罪悪感満載の顔でそう言ったのを聞くと、俺は深くため息をついた。

「これだけは、誰にも言わないつもりでいたのだが......。」

  俺がそう言って頭を悩ませると、キュアリスは、

「本当にごめん......。」

と、弱々しい口調で俯いた。

  俺はそれに対して、彼女の頭にポンっと手を置くと、苦笑しながらこう言ったのである。

「まあ、お前ならいいや。どうせ、いつかは知ってしまう事だ。でも、他の人間には絶対に口にしないでほしい。例え、桜や優花であってもだ......。それだけは、約束してくれ。」

  俺がそう釘をさすと、キュアリスは不安そうな表情でこう問いかけた。

「うん、分かった。でも、雄二は怖くないの......? 」

  彼女のそんな問いに対して、俺は精一杯の強がりを見せた。

「まあ、何とかなるはずだ! 今までだってそうだったじゃないか! 」

  俺がそう空元気で言うと、キュアリスは小さく微笑んだ後で、こう言ったのだった。

「雄二がそう言うなら、私はついて行くよ。どこまでも......。」

  俺はそれを聞くと、未だ見ぬ悲劇に心中を吐露しそうになった。


ーー今までよりもずっとずっと増幅した恐怖を......。


  それを遮る様にして俺は、生唾をゴクリと飲み込むと、

「とりあえず、これは二人だけの秘密だ! 早く『帰還の儀式』の会場へ向かうぞ! 」

と、少しオクターブの上がった声を上げて足早に廊下を歩き出すのであった。

  何だろうか。俺は、これから起きる未来に不吉な予感しかしない。

  実際に、これから数多の神を敵に回すからである。

  考えればキリがない話ではある。

  しかし、俺はキュアリスが分かってくれているだけで、その恐怖や重圧を少し軽減出来たと思った。


ーー『何とかなる』。


  言い聞かせる様にして発した自分の言葉を信じると、それすらも無意味にする恐怖と戦慄を全身に感じたのであった。


ーーーーーー


「あっ! 雄二! こっちこっち! 」

  ホールの入り口にて、そう言ってこちらへ手を振るのは、健気な笑顔を見せる桜だった。

  俺はそんな声に顔を傾けると、彼女の周囲には見慣れた仲間達がいたのである。


ーー何も知らない笑顔で......。


  俺はそんな健気な桜の笑顔を見ると、一瞬だけ不安を忘れられる様な気がした。

  だからこそ、隣にいるキュアリスに対して、こんな事を呟いた。

「先にどんな悲劇があろうと、俺は本当にこの世界に来て良かったと思うよ......。」

  それを聞いたキュアリスは、ニコッとしてこう返答をした。

「今だってそう。雄二は天才だよ。世界中の誰よりも不器用な......。」

  俺は、そんなキュアリスの一言を聞くと、ふと、在りし日の平和な時を切望しつつ、仲間達の元へと駆け寄って、『帰還の儀式』へと臨むのであった。


ーーーーーー

  『帰還の儀式』は、三度目と言うこともあり、すっかりと仕来りをマスターした俺は、王女からの勲章を受け取ると、割れんばかりの歓声を受けた。


ーーそんな慣れから、俺はもう既に立派な『ベリスタ王国』の軍人である事を自覚された。


  それは、俺に限らず、周囲にいる『特殊異能部隊』や桜にも言える事である。

  辺りにいる将校達も、すっかりと俺達を認めている様で、優しい眼差しを向けてくれる。

  今更ではあるが、そんな周囲の様子から、俺は今まで手にしたことのない人々との関係を考えて、嬉しい気持ちにさせられた。

  そんな中、キャロリール王女の方を見ると、彼女は微笑んで小さく頷いたのであった。

  そんな風に一夜明かしてからの儀式が無事に終了すると、俺にとって若干憂鬱な時間が始まるのである。

  そう、それこそ、『王家の晩餐会』である。

  毎度毎度、浴びる様に酒を飲み、その会場にいる全員が陽気にハメを外す。

  しかし、何より俺にとって厄介なのは、キュアリスの泥酔によるスキンシップだ。

  ある程度の惨劇や戦闘にも慣れた俺にとって、唯一、苦手である時間である。

  いや、本来は喜ぶべき事案なのかもしれない。

  でも、やはりあんなにも無邪気にベタベタされると、俺にも照れが生じる。

  だからこそ、俺は『帰還の儀式』を終えて『王家の晩餐会』へ向かう道中で、大きくため息をついたのである。

「はぁ......。」

  それを聞いたキュアリスは、深刻な表情で俺にこう心配を口にした。

「もしかして、さっきのアメールの話を気にしているの......? 確かに、これから起きる事は誰にも想像出来ないほど過酷なものかも知れない。でも、今はこの国とのお別れの為に笑顔だよ。」

  彼女が耳元で囁いたその一言を聞くと、俺は苦笑いを浮かべた。

  確かに、先の事への恐怖は今だに消えない。


ーーそれもそうだが、何よりも、キュアリス......。


  やっぱりお前、酒を飲んでから俺にしでかした心臓に悪い行いは全く覚えてないんだな......。

  キュアリスの的外れな心配を聞くと、俺は三度目の正直として、彼女に酒を呑ませないと言うミッションを自分に課せたのであった。

  いよいよ、『王家の晩餐会』は始まる。

  俺はそれに決意を固めると、既に内部で盛り上がる晩餐会の会場に足を踏み入れたのであった。

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