天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第230話 理解に苦しむ急展開。


ーーーーーー

  給仕室内の休憩所に招かれた俺は、簡素な椅子に腰を掛けると、足を組んでアメールを睨みつけた。

「では、詳しく説明して貰おう。何故、『神の使い』である筈のお前が、直接干渉する形でこの国の『軍帥』になる事を決めたのか......。」

  俺がそんな風に苛立ちながら問い掛けると、アメールは無表情でこう返答をした。

「その話は、これからしっかり話すつもりではおりますが、何故、あなたはそんなにお怒りなのでございますか......? 」

  彼女は、俺が言いたい事を理解した上で、何故、そこまで怒りを露わにするのかに疑問を抱いていた。


ーー俺も、そこまで怒る理由は無いと思う。


  アメールとは、『崩壊の神』の手によって元の世界に行ってから暫く行動を共にした。

  それからこの国に帰った時、アメールは意味深に『私にはまだやるべき事が残っている』と言い残してからと言うもの、俺にその理由を話すこともなく、いつの間にか『軍帥』という国家の中核を担う役職へ就く事が決まっていたのだ。

  いや、確かに俺がアメールの去就についてとやかく文句を言う必要は無い。

  それに、この国にとっても、アメールという圧倒的な戦力が加わる事はプラスにしかならないのも事実だ。

  何故なら、彼女は人間などいとも簡単に倒せてしまう程、強いのだから......。

  俺だって、本当はそんな事は分かっている。

  むしろ、安心してこの国を去れるだろう。

  同じ『崩壊の神』によって、施しを受けた仲間としても......。

  実際に『ヘリスタディ帝国』との戦いの時も、アメールと社は俺のサポートをしてくれた。

  神々の協定とやらに則って出来る限り協力してくれた。

  つまり、彼女はこの国を守ったのである。

  きっと、神々の協定に従ったとしても、彼女が『軍帥』の座に就く事も許容範囲であるのであろう。

  ならば本来、俺は喜ぶべきなのであろう。


ーーこの国の未来の為だとしたら......。


  でも、俺はどうしても納得がいかない。

  何を考えているか分からないアメールの意図する事が知りたくなる。


ーーだから、煮え切らなくて、腹が立つ。


  俺がそんな風に難しい顔をしながら考え込んでいると、アメールは相変わらず表情を変えずにマジマジと俺を眺めてこう口を開いた。

「つまり、あなたは私に対して腹を立てているのですね? 」

  俺はそんな風に、誰が見てもすぐにわかる状況に対して、当たり前の事を返答した彼女へ更に怒りを覚える。

  だから、当たり前だろうが。なんで、俺がこんなにお前に対して腹を立てているか......。


ーーって、あれ......?


  一体俺は、何に腹を立てているんだ......?

  俺がそんな風に一度冷静になって自分の怒りの理由が分からなくなって行った。

  すると、ポカンとして頭を抱えたまま静止した俺を見たアメールは、この部屋に来て初めて小さく微笑んだ。

「あなたが、私の事をそこまで考えてくれていたなんて......。」

  アメールがそう優しい笑顔で言ったのを聞くと、俺はそこで初めてこの怒りの理由を自覚した。

  つまり俺は、彼女が俺に相談もなく話を進めていた事が嫌だったのである。

  俺は最初、彼女を気難しい人物だと思っていた。

  でも、彼女は理由を持って『神の使い』になったのである。


ーーしかも、百年もの間、『英雄』の出現を待っていた。


  つまり、一見機械のような性格のアメールにも、人格がある事を理解したのである。

  俺はそんな彼女の姿を見て、心が通い合ったと思っていた。

  だが、話はいつの間にか進んでいた。
  
  もし、何か葛藤があるならば、支えてあげたいと思っていたのである。

  だからこそ、気がつけば全て決まっていた事が許せなかったのだ。

  それはきっと、一方的なものなのかもしれないが......。

  俺はそれに気がつくと、俯いて弱々しい口調になって、こう呟いた。

「勝手に熱くなって、すまなかったな......。」


ーーそれはそうだ。


  たかが、出会って数ヶ月の人間が、心まで通い合えるまでになれるはずもない......。

  要は、俺の勘違いだったのだ。

  きっと、彼女は俺の事をどうとも思っていない。

  只、神によって使命づけられた『英雄』が現れたというだけの話。

  もしかしたら、『百年も待たせやがって』と、せいせいしているかもしれない。

  だから、再開した時はよそよそしくなっていたのだ。


ーー『軍帥』になる理由に関しては、未知数ではあるが......。


  どちらにせよ、俺はこれ以上の干渉は彼女にとって迷惑なのではと考えると、

「いろいろと悪かったな......。これ以上は根掘り葉掘り聞くことはしないよ。だが、この国を守ってやってくれ......。」

と、情けない声で呟くと、部屋を後にしようとした。

  そんな時、アメールは俯いて立ち去ろうとする俺の手を掴むと、こんな事を口にした。

「あなたは何か、勘違いしていませんか......? 」

  俺はそんな彼女の発言を聞くと、ゆらゆらと彼女の方を振り返った。

「どういう事だ......? 」

  俺がそう問いかけると、彼女は真剣な表情になって、こう言ったのである。

「私は、あなたに多大なる感謝をしておりますよ。信頼もしていまふ。『これでやっと、私がやるべき事が出来る様になる』って......。」

  アメールの真剣な眼差しから出た発言に対して、再び怒りが込み上げると、勢いよくこう怒鳴って見せた。

「じゃあ、どうして誰よりも内情を知っている俺へ、誰よりも先に言ってくれなかったんだよ!! いきなりよそよそしくなったんだよ!! 」

  そんな俺の怒鳴り声が部屋中に響き渡ると、アメールは一度ため息をついた後で、ゆっくりと椅子に座り込んだ。

「それは、もしあなたが知った時、考えを変えてしまうかもしれないと思ったからです。」

  それを聞いた俺は、彼女の方へ振り返った。

「何が言いたいんだ......? 」

  彼女は、蚊の鳴くような声でそう言った俺に対して、再び真剣な眼差しになると、驚愕の言葉を口にした。

「では、率直に話しましょう。もしこの国が近い未来に滅びる可能性があると聞いたら、あなたはどうしますか......? きっと、間違いなく世界を救う為に旅立つ事を辞めて、この国に残る事を選択しますよね? それは、神々の意図する今後の手筈から考えると、非常にまずい事態なのですよ。『世界を変える力』が、一点に集中してしまう事は......。それに、あなたはたまに察しの良い所があるので、私も余計な事を口にしない様にと、あなたと距離を取っていたのですよ。」

  俺は、全く想像していなかったアメールからの返答を聞くと、只、呆然とした。

  彼女は今、間違いなく『この国が滅びる可能性』があると口にした。


ーーやっと、この国を救ったと思っていたのに......。


  俺はそんなアメールの発言の後で、動揺を隠し切れずに、こう質問をした。

「話が急展開過ぎて、理解に苦しむ。申し訳ないが、全てを話してくれないか......? 」

  彼女は俺がそう言ってフラフラと椅子に腰掛けると、こう返答した。

「元々、今から話すつもりでいたので呼び出したのですが、先程まであなたはまともに会話を出来る状態ではなかったので......。では、これから説明を始めたいと思います......。」

  俺は、そんな彼女の発言を聞くと、大きく頷いた後で、これから起きるであろうこの国の危機について食い入る様に聞く姿勢を見せたのであった。

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