天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第229話 軍帥と軍帥。


ーーーーーー

  俺が王宮に戻ると、もう既に多くの要人達は時間よりも早く帰還の儀に向けて来訪していた。

  この国を救った張本人である俺は、通り過ぎるたびに貴族や大臣等が俺に祝福の声をかける。

  それに紛れて多くの部下を引き連れて現れた大貴族と思しき男は、大事そうに台紙の中へしまってある一枚の美しい女性の絵を俺に見せつけると、こんな事を言い出した。

「本当に良かった! 君がいなければ、この国の未来は暗かったよ......。ところで君、もし未婚であるのならば、一度、我が娘とお見合いをしてくれないか......? 」

  貴族は笑顔でそう言うと、無理やり俺にその美しい絵を手渡したのだ。

  どうやら、戦争の勝利によって、この国における俺の存在価値が上がった様であった。

  その絵には、椅子に腰掛けて微笑むその女性は、マリンブルーのドレスに身を包んで、金色のロングヘアーに、琥珀色の目。


ーーうん。間違いなく美しい女性だ。

 
  俺は、一瞬だけその絵に見とれていると、隣にいるキュアリスは、顔を真っ赤にして口を膨らませていた。

  そんな風に怒りを露わにするキュアリスを見ると、慌ててその絵を貴族に返却して、その場を後にした。

「全く......。雄二はこれから世界を救うんだから、お見合いなんてしている暇はない筈でしょ!! 」

  キュアリスは、先程の貴族から離れると、俺の手を掴んで地下へと下りながら、そう語尾を強めた。

  まあ、確かに俺は、これからこの国を去る。

  そんな人間が今更、お見合いなどする意味もないであろう。

  どちらにせよ、断るつもりではいたのだが、まさか、ここまでキュアリスが熱くなるとは思ってもいなかった。


ーーどうしてキュアリスは、そんなに怒っているんだ......?


「綺麗な人だったもんね! 」

  俺がそんな風に悩んでいると、彼女はそう声を荒げた後で、俺の手を掴んでいる事に気がついて顔を赤らめ、軍部室の中へと入って行ったのだった。

  再び戻ったその部屋には、テーブルにもたれ掛かってスヤスヤと眠る森山葉月がいた。


ーーどうやら、俺が彼女に説得完了の報告をしてから、安心で寝てしまったらしい......。


  ところが、彼女はドアの開いた音によってすぐに目を覚まして俺とキュアリスの存在に気がつくと、軽く目をこすった後で小さく拍手をしながら俺の説得の成功を褒め称えたのである。

「雄二さん、本当にありがとうございました。これで、一つ欠けていたピースが見事に揃ったのです。後は、就任までの間に正式な襲名披露の準備をするだけとなりました。これも、あなたのおかげですね......。」

  俺は、そんな彼女の所作に対して、少しだけ誇らしさを感じると、その後でこう問いかけたのだ。

「それは良かったよ。どうやら、これで全て整った様だな。そこで質問なのだが......。」

  俺がそう口走ると、彼女は俺の質問する内容を察した様にして、ニコッと笑いながらこう返答をした。

「あなたの聞きたい事は良く分かります。そうですね......。これから王族の承諾を得て、それから退官式を執り行って......。スムーズに行けば、あと二週間程で、この国を出発する事が出来る筈です。」

  俺は、彼女の口から出た、『あと二週間』という言葉に対して、途端に現実を理解した。


ーーたったの二週間......。


  その短い時間が終わった時、俺達はこの国で積み上げた役職を捨てて、茨の道へと踏み込んでいくのである。

「そっか......。なんか、まだ実感がないなぁ......。私はずっと、この国で生まれ育った。それなのに、未だ知らない場所へ戦いに行くなんて、少しだけ切ない気持ちになるね......。」

  キュアリスは、森山葉月の発言によって、先程の怒りをすっかりと忘れて哀愁の漂う笑顔を見せた。


ーー俺も、同じ気持ちだった。


  でも、その気持ちを最も持っているのは、間違いなくキュアリスだった。

  故郷を離れるのは、辛いものだから。

  俺だって、あんなに嫌で嫌で仕方がなかった筈の元の世界に対しての恋しさは、常に抱え続けているから......。

  そんな風にセンチメンタルな気持ちになっていると、森山葉月は再び笑顔を見せてこんな事を言った。

「では、後一時間程で帰還の儀が始まるので、是非、速やかな準備をお願い致します。それが終わり次第、私にはどうしてもやらねばならない事が三つ残されています。なので、これから暫くお会い出来ないかもしれません。」

  俺は、そう伝えた森山葉月に対して、身を案じつつこんな言葉を投げかけた。

「大変そうだな。体には気をつけろよ......。」

  それを聞いた森山葉月は、ペコリと頭を下げ感謝を述べると、その後でこう言ったのであった。

「だって私は、この国の軍の長ですから......。」

  そんな彼女の一言に、俺は再認識した。

   そう、森山葉月はこの国のトップである『軍帥』なのだ......。

  彼女は長い間、『ベリスタ王国』の為に尽くしてきたのである。


ーーだから、人望も権力も手にしたのだ。


  俺は、そんなずっと分かっていた事実をもう一度確認すると、ハッとした表情を見せた後で、彼女の偉大さに驚いたのである。

  しかし、彼女は『どうしてもやらねばならない事がある』と言っていた。


ーーその三つとは、一体何なのであろうか......?


  俺は、そんな疑問を抱えつつ、キュアリスを引き連れてその部屋を後にした。

  どちらにせよ、もうすぐ、帰還の儀が始まる。

  もしかしたら、会場にはもう既に『特殊異能部隊』も、桜や優花も到着しているかもしれない......。

  そう思うと、俺は歩く速度を上げるのであった。

  そんな時、一階の廊下付近でひとりの女性が俺に声を掛けてきた。

「すみませんが、少しだけお時間良いですか......? 」

  そう言って来たのは、アメールであったのだ。

  俺はそんな無表情でいる彼女に一度立ち止まると、こう返答をした。

「ああ、帰還の儀までは後、一時間ほどある。それに、俺も聞きたい事があるからな......。」

  俺がそう言うと、彼女は相変わらず顔色を変える事なく、

「ありがとうございます。そこまで時間は取らせません。では、こちらの方へ一人でお越しください......。」

と言って、ツカツカと廊下を歩いて行ったのである。

  俺は、彼女が言った一人でと言う言葉に対し、キュアリスへ、

「悪いが、先に行っててくれ......。」

と、申し訳無さそうに謝罪を述べると、アメールの後ろをついて行ったのである。

  俺が彼女に聞きたい事は、たった一つ。

  王女から伝えられた時からずっと気になっていた事である。

  何故、『神の使い』であるアメールが、この国の中核である『軍帥』になる事を承諾したか、只、それだけだ。

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