天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第228話 過去との別れ。


ーーーーーー

「改めて大河原悠馬様、王家より用意された迎えの馬車があなたをお待ちしております。こちらへどうぞ......。」

  看守長は俺たちのやり取りを聞き終えると、薄暗い部屋の中に足を踏み込んで、牢獄の鍵を開けた。

  俺は、悠馬との距離を隔てていたその重い扉が開いた時、少しだけ感慨深い気持ちにさせられた。

  何の遮りもなく悠馬の姿を見つめると、俺は安心する。

  彼は、昔と同じ笑顔を見せる。

  それと共に、これから彼がこの国を守る『聖騎士』となる事を思い知るのであった。


ーー三人目の『聖騎士』となる事を......。


  看守長はそんな俺の思いを察したのか察していないのか、事務的に牢獄の中へ入ると、一台の車椅子を彼の前に置いたのであった。

「それでは、こちらにお乗りください。これからあなたには、『聖騎士』就任の為の準備をして頂きたいので。」

  彼がそう促すと、悠馬はそれに小さく頷いた後で、風の『異能』により一度浮き上がると、車椅子の上へと乗っかったのであった。

  そして、彼は自分の腕で車椅子を引いて牢獄を通り過ぎた。

「雄二、俺はお前に助けられたな。本当に良かったよ......。こんな俺ではあるが、これからは人の為に力を使って行こうと思う。」

  俺は、そんな風に力強い声で意気込みを語った彼の姿を見ると、この国の未来は明るい事を理解した。

「悠馬、ありがとな。やっぱり、俺にとってお前は、何にも変えがたい大切な親友だ。また会おうな......。」

  そのやり取りを最後に、彼は看守長に連れられてその重たくも暗いその部屋を抜け出して、目を覆いたくなる程に朝日の降り注ぐ屋外で待つ馬車の方へと向かっていったのだ。

  キュアリスは、すっかりと悠馬の消え去ったその場所で、呆然とする俺の元へ駆け寄ると、ニコッと笑いながらこう言ったのである。

「雄二の親友は、本当に優しい人なんだね。私の後任の人が、彼で良かったよ。それに......。」

  キュアリスはそう付け加えると、黙り込んで微笑んでいる俺の頬を強くつねった。

「痛っ!! 何するんだよ、いきなり......。」

  俺が不意の攻撃にそう言うと、キュアリスはニコッと笑いながらこんな事を呟いた。

「雄二、スッキリとした顔になっているよ! 」

  俺はそんなキュアリスの一言を聞くと、朝日の降り注ぐ刑務所の窓に映った自分の顔を見た。

  薄っすらと透明な窓にぼんやりと映った自分の顔は、何の淀みもなかったのだ。

  俺は、その顔を見ると自覚したのだ。

  何年もの間、俺を付いて回っていた一抹の不安。

  永遠に消える事はないと思っていた罪悪感。

  それは、遠い異世界の地で見事に清算されたのである。

  遠回りし過ぎた時間、すれ違った日々......。

  長く真っ暗なトンネルを彷徨っていたあの時の自分。

  そんな昔の俺と、本当の意味で決別出来た気がした。


ーー「お前を見ていると、自分が惨めで仕方がなくなる。」ーー


  ずっと俺を苦しめたその一言。

  元の世界にいた俺は、その言葉の真意すら理解出来なかった。

  自分の才能への過信がそれを決めつけた。

  ずっと『度が過ぎた才能』のせいで親友を失ったと思っていた。

  でも、違かったんだ。

  只、現実逃避を繰り返していたんだ。

  人と関わろうともしなかった。

  卑屈だった。


ーーこの世界に来て、俺は浅はかだった自分の行為を思い知った。


  学校のクラスメイトだって、先生だって、両親だって......。

  俺は心の何処かで見下し続けていたのかもしれない。


ーーだからこそ、最悪の日々を招いたのだ......。


  そんな俺を、悠馬は変えようとしてくれていた。

  俺は今日までその事実に気がつけなかったんだ。

  でも、やっと気がついた。

  俺は多くの人に支えられて生きている事に。

  もっと素直にそれを受け入れなければならない。


ーーこれからは、より一層......。


  そんな事を考えているうちに、俺は自然とこんな事を呟いた。

「ありがとな、悠馬。」

  それを聞いたキュアリスは、にこやかな表情で俺を見つめると、明るい口調でこう言ったのであった。

「じゃあ、王宮へ戻ろうか! これからが忙しいからね! 」

  俺はそれを聞くと、小さく頷いた後で、刑務所を後にした。

  側にいるキュアリスに促されて。

  その時、俺は心の奥で昔の自分に別れを告げた。

  悠馬との和解を以ってしてやっと成し遂げられたのだから。


ーー遠い異世界の地で......。

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