天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第227話 交渉成立。


ーーーーーー

「今更、何も話す事なんてねえよ。俺は臆病な選択をしたんだ。麻耶や雪弥の様に戦う姿勢すら見せずに逃げ出そうとしたんだぞ。そんな俺が......。」

  悠馬はそう自己否定をすると、格子越しに俺に向けてマジックアイテムを投げ返そうとした。

  俺は、何となく彼の話を聞いて行く上で思った事がある。

  どうやら、彼は戦勝のキッカケを作った事をまだ、理解していない様子だった。

  今、マジックアイテム越しに聞こえる麻耶の安堵の声が、それを物語っている。


ーー彼女は、開口一番に悠馬の無事に喜びの声を上げていた。


  それはつまり、ずっと悠馬の身を案じていた事になるのだ......。

  きっと、悠馬という人間は、俺が想像していた以上に『ヘリスタディ帝国』内にて多くの信頼を得ていたみたいだ。

  それを物語る様に、彼の提案に賛同する者も多くいた。

  加えて、麻耶や雪弥と言った、人々の為に国家の転覆を本気で企てた者も、彼を信用している。

  だが、彼は自分の罪の重さに押し潰され、全てを決めつけているのだ......。

  そんな今の悠馬は、昔の俺に似ている気がする。


ーー自分で何もかもを後ろ向きに捉えているところが......。


  今だって、再び俯き、塞ぎ込んでいる彼の姿こそ、以前の俺にそっくりなのだ......。


ーーでは、俺はどうしたら良いだろうか......?


  すると、手元に戻って来たマジックアイテム越しからは騒がしい程大きな声で、

「おい! 悠馬、いるんだろう?! 本当に大丈夫なのか?! 」

と言った麻耶の声が聞こえ続ける。

  俺は、そんな彼女の叫びを聞くと、悠馬に対してこう言って見せたのである。

「どうやら、お前のやった事は、悪行ではないみたいだぞ......。このまま彼女から目を背けるのは、余りにも浅はかなんじゃないか? 」

  俺がそう彼に向けて呟くと、悠馬は一つため息をついて、俺を睨みつけた。

「よく言うぜ......。何があっても、俺のやった事は決して消えないんだ。きっと、あいつらだって心の中では笑っているはずだよ。『臆病な男の哀れな末路』とか言ってな......。」

  俺は、そんな風にマイナスな感情を前面に押し出す悠馬を見ていると、先程まで感じていた後ろめたさを忘れて少しずつ怒りが込み上げてくる。


ーーなんで、分かってくれないんだよ。


  既に、お前にはこんなにも身を案じてくれる仲間がいるじゃないか......。


ーー何もかも決めつけるのは、もうやめてくれ......。


  そんな、以前彼が俺に感じたであろう気持ちは、今、目の前の彼に向けられた。

  だからこそ、俺はその怒りが沸点に達した時、格子に手を掛けてその感情をぶつけようとした。

  しかし、その時、マジックアイテムからはこんな言葉が聞こえたのだ。

「悠馬! 聞こえているぞ! もう自己嫌悪するのは、やめてくれ! これから、私が一言言わせてもらう! 」

  そんな叫び声を耳にした悠馬は、俺の手にあるマジックアイテムの方をマジマジと見つめると、呆然とした顔をしていた。

  その後で、すぐに我に返って弱々しい口調でこう呟く。

「何を言っているんだ、お前は。もう良いだろう? これ以上俺と関わると......。」

  彼がそう言うと、麻耶は彼の言葉を制止して、はっきりとこう言ったのだった。

「私達に戦うキッカケを作ってくれて、本当にありがとう!! 」

  そんな彼女の心の叫びを聞くと、悠馬はハッと気がついた様に真顔になった。

  俺は、そんな彼女の言葉に、表裏がない事をすぐに理解した。

  麻耶は、心の底から悠馬への感謝を述べている。


ーーこれこそが、彼の今までの行いそのものなのでないだろうか......。


  俺がそんな風に考えていると、麻耶は話を続けた。

「悠馬は、『ヘリスタディ帝国』で悪になりかけた。でも、あなたにはずっと、良心が残っていたんだよ! 逃げ出したいと考えるのは、私も雪弥も同じだった! あんな強い化け物に刃向かうのも、怖くて仕方がなかった......。悠馬は頑張ったんだよ! それを象徴する様に、多くの『異世界人』はあなたの考えに賛同した。あなたの必死な説得を聞いた時、『不器用なりに人々を助けたい』って言う悠馬の優しさを強く感じたよ。それに、悠馬の提案が無ければ、誰も踏み出せずに今もなお、イワイの思い描く悪夢の真っ只中だったんだよ! だから、もう自分を責めるのはやめて! 今の私達があるのは、紛れもなくあなたのおかげなんだから......。」

  悠馬は、そんな麻耶の話に対して、下を向くと、マジックアイテムへとこう問いかけたのだった。

「本当に良いのか......? 俺みたいな人間が......。」

  麻耶はそんな彼の弱気な発言を聞くと、自信を持ってこう答えた。

「あなたは、自分の功績に気がついていないんだ。それに、昨日の夜に、葉月から連絡が来た。あなた、『ベリスタ王国』の『聖騎士』への打診があるって......。私には是非、やって欲しいと思っている。二つの国を結ぶ『架け橋』になれるのは、悠馬しかいないと思うから......。」

  悠馬はそれを聞くと、ゆっくりと上を向いた後で、更にこう問いた。

「俺が、『ヘリスタディ帝国』と、『ベリスタ王国』の『架け橋』だって......? 」

  悠馬が自信なさげにそう言うと、麻耶はそれについて説明をした。

「現状、今の『ヘリスタディ帝国』は、内部が再構築されていて、国家としての機能を失っている。それは、雄二達が去る『ベリスタ王国』だって、同じとは言わないまでも、パワーダウンする事は確実だ。それならば、隣国同士で共助し合って、両国を守りたい。その為に必要なのは、『ヘリスタディ帝国』の事を良く知る、大河原悠馬が最適なんだ。それに、私は、あなた以外ならば、この構想は無いと思っている。だって、あなた程、信頼できる人なんて、他にはいないから......。」

  麻耶が思い描く未来を知った悠馬は、すっかりと黙り込んでしまった。


ーー彼の言葉が聞こえなくなると、麻耶は、

「まあ、考えて結論を出してくれ。最後に言っておくが、私は、あなたに感謝しきれない程の恩を感じているよ......。」

と言うと、そのまま別れを告げたのであった。

  麻耶の話が終わると、部屋の中は再び静寂に包まれた。

  俺は、そんな状況でも、決して言葉を発する事はなかった。

  何故なら、きっと悠馬なら分かってくれると信じていたからだ。

  彼なら必ず引き受けてくれると確信していたから。 


ーー麻耶は言った。


ーー「悠馬には、二つの国を結ぶ『架け橋』になってほしい」と......。


  俺も、そうなって欲しいと思っている。

  だって、彼は強くて、人からの信頼を受けていて、誰よりも優しいのだから......。

  そして、長い沈黙を経た後で、悠馬は俺に向けてこんな事を呟いた。

「俺は、少し勘違いしていたみたいだよ。確かに、自分を冒涜し過ぎた。これじゃ、昔のお前と変わらねえな......。」

  そんな悠馬の言葉に、俺は少し照れ笑いしながらこう返答をする。

「間違いない。何だか、昔の自分を見ている様で、少し嫌な気持ちになったよ。それに、気がついたんだ。いつも、悠馬はそんな自分を励ましてくれてたんだってな......。」

  俺の話に対して、悠馬はフフっと笑う。

「確かにそうだな。俺も、少しは雄二みたいに変われる様に努力したいもんだ。」

  彼はそう言うと、薄暗い部屋の天井を見上げ、思い切り息を吸い込んだ後、はっきりとした眼差しで俺にこう宣言したのであった。

「もし、今まで手を掛けた多くの人への罪滅ぼしが出来るのなら、俺はこの国の為に、精一杯従事したいと思う。」

  それを聞いた俺は、彼の視線から感じる強い決意を理解して、嬉しくなり、もう一度、問いかけた。

「本当に、良いんだな......? 」

  俺のそんな問いに対して、悠馬はニコッと笑って、こう返事をした。

「ああ。なってやるよ、『聖騎士』に! 」

  悠馬の口から出た『聖騎士』という言葉を聞くと、俺は笑顔になった。

  これで、悠馬を助けられた。

  それに、長くいがみ合った両国は、これから良い関係を築けるであろう......。

  それに対して一安心すると、俺は、その部屋一帯に『結界』を掛けた。

  すると、悠馬の体からは綺麗さっぱりと魔封じの『魔法』が消え去った。

  それと同時に、彼の体からは風のオーラが現れたのであった。

  俺はそれを確認すると、ニコッと笑った後で、牢屋越しの悠馬の前に手を差し出した。

「それじゃ、交渉成立だな。」
 
  俺がそう言うと、悠馬もまた、少しだけ口元を緩ませて、風の『異能』で俺の目の前までやってくると、

「そうだな。俺は平和の為に、ここで人々を守る事を誓うよ。だから、お前は心置きなく旅立ってくれ。親友として言わせて貰うよ。天才であるお前なら、きっと出来る筈だ。世界を救ってくれ......。」

とはっきり言った後で、ガッシリと俺の手を掴んだ。

  俺は、そんな悠馬に対して、やっと親友に戻れた事から泣きそうになった。


ーーでも、グッと堪えた。


ーーそれと同時に思った事がある。


  いつか俺がこの国に戻った時は、また、昔みたいにくだらない事を語り合いたいな。

  長くすれ違った時間を紡ぐ様にして......。

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