天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第226話 悠馬の心境。


ーーーーーー

「それにしても、俺は最期にお前と会えて良かったよ。これで、自分自身の償いをできる気がする......。」

  悠馬はそう呟くと、俺から目をそらした後で、そのまま這うようにして元あった椅子へと戻って行ったのであった。

  俺は、そんな風に動かない足で、誰の助けも借りずに元の場所へと戻る彼を見ていると、居た堪れない気持ちにさせられる。


ーー多分、あの時は朧げだったのかもしれない。


  いつかはきっと、足も治って日常生活に戻り、また元気に遊びに行く姿を何処かで想像していたのかもしれない。

  でも、今、この時、彼はもう二度と歩く事のできない体である事を、痛感させられたのであった。


ーー彼の足は、二度と動く事はないのである。


  それに、彼は二つの世界で沢山傷ついた。

  転移先の仲間にも裏切られた。

  結局、『ヘリスタディ帝国』の異世界人達は、大河原悠馬を裏切ったのである。
 
  奴らは、悠馬を、『兵器』としてしか見ていなかった。

  だからこそ、多分、彼らは知らないであろう。


ーー彼の心の奥で抱えた闇を......。


  もう彼は、埋め込まれた『魔法』の作用によって、『異能』も使えない。体の自由も効かない。


ーーこのまま、たったひとりで薄暗い独房の中、その余りにも哀れな人生を終えるであろう......。


  いや、むしろ、今提示されている『聖騎士』への勧誘を断った時点で、彼は処刑に掛けられる事は確実だ......。

  俺はそう思えば思う程、既に処刑すらも受け入れているとすぐにわかる悠馬を救おうと、改めて『聖騎士』への打診を口にしようとした。

  しかし、どんなに彼が俺を許した所で、俺が彼の人生を壊した『加害者』である事には変わりなかった。

  その事実が波のように押し寄せる程に、俺は何と言葉を投げかけていいのか分からずに、ちょうど椅子に腰掛けた彼を呆然と見つめる事しか出来なくなったのである......。


ーーこのままでは彼が......。


  俺はそう思いながら、罪悪感を一度グッと奥に押し込めると、恐る恐るこんな事を口にした。

「俺は、キュアリス達と共に、世界を救う為にこの国を去るんだ。正直なところ、この国は脆弱である。これから先、同じ様に他国に攻め込まれる可能性はゼロではないんだ。そうなった時の事を考えると......。」

  そんな風に俺が少しだけ震えた体で言葉を選びながら呟くと、悠馬は一つため息をついてこう返答した。

「お前の言いたい事も、考えもよく分かっているよ。俺にこの国を守って欲しいんだろ? お前は、俺との戦いの際、はっきりと口にしていたな。『俺が世界を救う』ってな。正直、俺はイワイ・シュウスケの強さを見た時に痛感したんだ。こんな男には、絶対に勝てる筈が無いと......。だからこそ、お前がこの戦争で勝利を収めたと聞いた時は、驚いたよ。『あいつはやっぱり、天才だったんだな』って......。俺もお前みたいに生きられればって、強く感じた。でも、俺があの国と手を組んだのは、余りにも安易な理由だったんだよ。」

  それを聞いた俺は、一つ首をかしげた。


ーー彼が初めて口にする理由とは一体......。


  俺がそんな彼の発言に疑問を抱いていると、悠馬はそれをゆっくりと話し始めた。

「この世界に転移した時、俺は只、胸のモヤモヤを遠ざけたいと暴れ続けたんだ。『こんな世界、壊れてしまえばいい』とな。だが、俺は人に手をかければかける程に、違和感を覚えたんだ。こんな事をしていて良いのかとな。疑問を抱く度に、俺は元の世界にいた家族の顔を思い出したんだ。どんなに病院で苦しんでも、悲しんでも支え続けてくれた両親や、姉の顔を......。そんな気持ちはどんどんと増幅して行った。『もう、こんなふざけた世界から抜け出して、家族の顔を見て安心したい』俺は、強くそう思ったんだ。そんな時......。」


ーー悠馬はそう言うと、もう一度深くため息をつく。


「俺にとって最大のチャンスが訪れたんだ。」

  彼がそう呟いた時、俺はそのチャンスが何であるかをすぐに理解する。

「霞神社......。」

  俺がそう呟くと、彼は小さく頷いた。

「そうだ。あそこには元の世界とこの世界を繋ぐ『歪み』があるという情報を、イワイは仕入れて来たのだ。それを聞いた時、俺は『ヘリスタディ帝国』で重要な役割を担っていた。奴から指揮官に指名された時、俺は少しだけ期待したんだよ。『もしかしたら、もう一度元の世界に戻れるかもしれない』ってな......。」

  俺は、当時の彼の心境を想像しながら、マジマジと彼を眺めた。

  やっぱり、彼には良心が残っていたのだ。

  だが、途中から必死になっていた。


ーーずっと支えてくれた『家族』との対面を切望して......。


  すると、そんな風に考えを巡らせる俺に対して、悠馬はこう口を開いた。

「馬鹿げた話だろ? 自分本位な理由の為だけに、俺は動き続けたんだ。話していると、同じく転移して来た部下達も同じ気持ちだった。ならば、この戦争で『ベリスタ王国』を打倒した際には、全員で元の世界へ戻る事を企てたんだ。でも、結果的にその計画は筒抜けだったんだよ。だからこそ、俺は報いを受けた。まあ、当然の話だよな。今まで散々人を殺して侵略に手を染めていたのだから......。」

  俺は悠馬の話を聞くと、一つの疑問が浮かんだ。

「確かにお前によって、多くの犠牲者を作ったのは事実かもしれない。でも、お前がそれだけ元の世界の家族を大切に思っていたって事だろ......? 」

  彼は、俺がそう問いかけると、フフッと笑った後で、それにゆっくりと返答した。

「まあ、それも結局逃げでしかなかったんだ。『もうこんな国にいるのは沢山だ』ってな......。しかし、そんな行いを続ける俺は、俺自身も大嫌いになって行ったよ。それを象徴するように、あの腐りきった国を心の底から救おうとする女が俺の計画に賛同したんだ。その女は、弟と共に、本気で反乱を企てていた。それは、俺の逃げとは全く違う物であった。絶対に勝てない相手に、彼女達は歯向かおうとしたんだよ。」

  俺は、そう言って俯いた悠馬に対して、彼の言う二人の存在を思い浮かべた。


ーーそう、彼が口にしたその姉弟とは、紛れもなく麻耶と雪弥だったのである......。


「その風潮は、秘密裏に段々と他の『異世界人』を巻き込んで行ったんだ。あの時、俺は何度も彼女らを説得したよ。『そんな無謀な考えはやめて、一緒に元の世界へ帰ろう』ってな。だが、二人はその説得を聞き入れなかった。『私は、この国で苦しむ人々を救ってみせる』と言ってな......。そんな発言を聞く度に、自分の情けなさを痛感した。だから、自分の目的を踏まえつつ、彼女らの手助けも続けたんだ。」

  俺は、そう言った悠馬の発言によって、衝撃の事実を理解した。

  つまり、目的は違えど、悠馬はずっと麻耶と雪弥の計画に加担していたのだと......。

  彼自身は当時、葛藤していたのであろう。

  変えようとする者の無謀さと、逃げようとする者の情けなさに......。

  でも、俺は悠馬が最低の行いをしたとは思わない。

  だって、結論は違えど、悠馬も麻耶同様、『ヘリスタディ帝国』への違和感を抱き続けていたのだから......。

  俺はそう考えていると、居ても立っても居られなくなり、ポケットからマジックアイテムを取り出した。


ーーそこで強く念じた。


  すると、マジックアイテムの先からは、忙しそうな声で応答する麻耶の声が聞こえて来たのだ。

「おう、雄二! いきなりどうしたんだ? 」

  その声が薄暗い部屋に響き渡ると、悠馬は次第に俯いて行った。

  そんな彼の姿をチラッと見ると、俺はマジックアイテム越しに会話をする麻耶に対して、こう言ったのである。

「復興で忙しい所悪いな。少し、話をして欲しい奴がいるんだ! 」

  俺がそう言うと、少し疑問を抱いた麻耶の声を遮った後で、俺はそのまま繋がったままのペンダントを悠馬に投げつけた。


ーー悠馬は、それを手に取ると、

「こんな俺が、今更何を話せば良いんだよ......。」

と、呟いたのであった。

  俺に向けて情けない声で言った一言に対して、麻耶は聞こえていたようで、明るい口調でこう返答をした。

「あれ......? その声は、悠馬なのか?! 本当に無事なのか......? 」

  そんな麻耶の嬉しそうな発言を聞いた時、俺は自分の行いが正しかった事に気がついた。

  何故ならば、元はと言えば、『ヘリスタディ帝国』が救われたのは、悠馬の計画があっての事だったのだから。

  だからこそ、悠馬自身がその事実に気がつくべきだと思ったのである。


ーーそうすれば、きっと......。

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