天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第225話 あの時の本音。


ーーーーーー

「では、こちらになります。何にせよ、今、現段階、国家においては重罪人である事には変わりありませんので、警備は入念に行なっております。」

  看守長の男が淡々と説明を終えて、厚い扉に鍵を差し込むと、数名がかりでそれは開いた。

  その先には、薄暗くも無味乾燥な空間の中に、異様とも思える程檻だけが突き当たりの奥に存在していた。

  俺は、そんな不快感すら覚えるその環境に足を踏み入れると、檻の中で椅子に腰をかけ、只、俯き続ける青年の方へと歩み寄って行くのであった。


ーー悠馬......。


  しかし、そこに居た悠馬は、俺の知っている彼とは違かった。

  彼は、俺が目の前に現れたのを気に留める事も無く、相変わらず下を向いたままなのだ......。

  俺は、そんな悠馬を見ると、少しだけ居た堪れない気持ちにさせられながら、一度、入り口の扉の方へと振り返った。

  すると、気を遣ってか、檻のある部屋から一歩離れた場所にいるキュアリスは、こちらを覗き込むと、真剣な表情で一つ頷いたのであった。

  俺はそれを見ると、少しだけ勇気が湧いて来て、その後、隣にいる看守長に向けて、こうお願いをする。

「申し訳ない。二人にしてくれないか......? 少し、話しがしたいんだ。」


ーー俺がそう言うと、看守長は無表情でそれに頷くと、

「本来ならば、その様な行為を許す訳には行きませんが......。軍帥様直々の依頼とあらば、仕方がありません。もし、何かありましたらすぐにお呼びください......。」

と承諾した後で、薄暗い部屋から出て重い扉の先まで戻って行ったのであった。

  そして、扉は開いているものの、その場所に二人だけとなった時、俺は檻の格子を隔てて悠馬の前に座り込んであぐらをかいたのだ。


「久しぶりだな、悠馬......。」

  そんな俺の一言に対して、彼は暫く黙り込んだ後、こんな事を呟いた。

「一体、何のつもりだ......? どうせ、あの馬鹿軍帥に言われて俺を説得にでも来たんだろ......? 」

  俺はそれを聞くと、すぐに頷いた。

「ここに来るまでは、そのつもりだった。でも、今、お前を見た瞬間に、そんな事はどうでも良くなったよ。」

  それを聞いた悠馬は、ボサボサ頭をゆっくりと上げると、そのまま俺を睨みつけた。

「何を言っているんだ......? 」

  俺は、そんな悠馬の視線を見ると、罪悪感が全身を支配した。

  彼が最後に望んだ事。

  それは、俺の手によって全てを清算する為の『死』であった。


ーー俺は、一度彼を殺した。


  そう、俺は今の世界と元の世界で二度も、彼を傷つけてしまったのである......。

  そんな事実を改めて確認すると、俺は彼を『聖騎士』にさせる為の説得など、どうでも良くなってしまっていた。

  それと同時に、彼の人生を狂わせた張本人である自分がこの場所に来てしまった事への傲慢さを身に染みて感じるのである......。

  俺は、どれだけ最低な人間なんだよ。

  そう考えているうちに、次第に自分のやった事への後悔が俺の襟首を掴んで離さないのであった。

  だからこそ、俺は彼に向けて精一杯の謝罪を口にした。


ーー本心から来る謝罪を......。


「あの日、『ロンブローシティ』にて俺はお前を殺した。それは紛れも無い事実だ。それに、今までの事だって......。今更、俺なんかが関係を取り戻そうとか、変わり切ってしまったお前の考えを正そうと考えるなんて、おこがましい話だし、そんなつもりなんてさらさら無い。俺はただ、純粋な気持ちでお前に謝りたいんだ。」

  俺は、弱り切った声でそんな事を口走ると、悠馬は驚いた様な表情を浮かべる。

  その後で、暫くその空間には沈黙が漂った。

  きっと、彼は俺という人間と関わらなければ、元の世界で幸せに過ごした筈だろう。

  事故に巻き込まれる事もなく、この世界でこんな悪夢の様な時間を過ごす事もなく......。

  俺は、そんな考えを巡らせていると、何も言えなくなってしまった。


ーーすると、そんな時、悠馬はニヤッと笑った後で、こんな事を呟いたのである。


「お前は、この世界に来て良かったのかもしれないな。」

  それを聞いた俺は、悠馬の方を呆然としながら見つめた。

  そんな風に俺がボーッと彼を眺めていると、付け加える様に彼は続けた。

「昔のお前は、何もかも決めつけていた。人の気持ちなんか考える事もせず、全ての解釈を、マイナスの方向に捉えていたんだ。いつもいつも、一人で落ち込んでいる......。俺は昔、そんなお前の性格をずっと直したいって思っていたんだよ。『そんなつまらない生き方はやめて、楽しく生きようぜ』ってな......。だから、お前といる時はずっと、精一杯に明るく振る舞った。親友の為に一肌脱ぐのが務めだと思ってたんだよ。でも、そんな矢先、俺は事故に遭った。あの一件から、俺は自ら変わっちまったんだよ。それは、別にお前のせいではなく、自分から......。」

  俺は、そんな風に心中を吐露している悠馬の一言を聞くと、必死でその言葉に抗った。

「そんな訳がない! 俺がこんな人間で、お前の負担になっていたのも事実な筈だ! だって、昔の悠馬は誰よりも明るくて優しくて、友達だって沢山いた。なのに、いつも俺がしつこくへばり付いて、お前の人生をめちゃくちゃにしたんだ! もし俺がいなければ、お前は......。」

  俺がそんな風に檻に手をかけて痛々しいまでに必死の形相で彼に叫ぶと、悠馬は「ガタン」と椅子から故意的に落ちると、這う様にして格子越しの俺の方へとやって来て、ゆっくりと俺の頭を撫でた。

「この世界でお前と再会した時、俺は全てを思い出したんだ。あの日、お前に投げてしまった言葉も......。ずっと後悔していたんだ。『何で、あんな事を言ってしまったんだろう』ってな......。あの事故で動かなくなってしまった足を見ていると、普通の人間との明らかな差を受け入れられずに、俺は惨めで仕方なくなってしまった。そんな気持ちの増幅は止められる事がなく、一番大切な友達だったお前に爆発してしまったんだよ......。」

  そんな風に悲壮感に溢れた笑顔で俺の顔を撫でる手は、少しだけ震えていた。

  彼のそんな振る舞いに対して、俺は弱々しく首を横に振ると、もう一度その発言に抵抗をする。

「違うんだ......。だって俺がいなければ、お前は......。」

  彼は俺がそう言うと、それを遮って再び話し出す。

「俺は、最低な人間だよ。『お前を見ていると、俺は惨めで仕方がなくなる』あの世界でお前と最後に話した会話がそれだ。あれから何度も後悔したよ。なんであんな事を言ってしまったんだろうってな......。それに、少しだけ期待だってしてた。『また、こんな俺の元を訪れてくれる』ってな。その時は、謝ろうとかも考えていた。でも、お前はそれから二度と俺の前に姿を現わす事は無かった。そんな日々を重ねた中で、俺は痛感したよ。『俺は、最低のクズだ』と......。そんな事を自覚させられてから暫くして、俺はあの世界から消えたお前の存在をすっかり忘れたんだ。それから、俺は何も考えられなくなった。そんな時、俺は『嫉妬の神』の手によって、この世界に転移をしたんだよ。俺はその瞬間、感情の理由を勝手に解釈した挙句、最悪の選択をした。『全てを壊したい』そんな最悪の......。」

  俺は、初めて彼の口から聞かされたあの日からの時間を聞くと、再び後悔をした。

  結局、あの時だって、俺は彼の気持ちを決めつけて、勝手に悲劇のヒーロー気取りになっていたんだ。

  だから、悠馬の病院を訪れる事もやめてしまった。


ーー俺は、いつもそうだったんだ。


  先程、彼に言われた通り、ずっと自分から閉ざしていたんだ。


ーー自分勝手だったんだ。

  
  あの時の俺は、被害者意識ばかりが先行していた。


ーー最も大切な大親友にさえ......。


  その結果、彼は『嫉妬の神』の口添えもあり、こんな結末を迎えてしまったのだ。

  あの時、俺が最もお前の真理と向き合えば......。

  表面上だけではなく、深くまでお前の優しさに気がついていれば......。


ーー自分の浅はかさに気がついていれば......。


  そんな事を考えているうちに、俺は膝をつき、深々と頭を下げ、悠馬に向けて震え声でこう言ったのであった。

「本当にごめん......。」

  その、自然に湧き出した感情は、あの日から今まで全てに意味を持った言葉だった。

  いや、俺は悠馬に、それしか言えなかった。

  だからこそ、俺は説得など忘れ、何度も何度も彼に謝罪を続けた。

  泣きじゃくりながら、地面に顔をつけ、何度も何度も......。

  そんな時、悠馬は俺に向けてこう呟いた。

「全ては俺の責任なんだ。この国を壊したのも、悪魔のような選択をしてしまったのも、浅はかな俺の選択だ。だから、もう謝るのはやめてくれ......。もう、お前が気負う必要なんてないんだよ。」

  彼がそう言ったのを聞くと、俺はボロボロに顔を一度上げて彼の方を見つめた。

  そして俺は歪んだ視界の中で見た彼の表情を見ると、更に涙が止まらなくなった。

  何故なら、微笑みながら俺を見る悠馬の顔は、楽しかった昔と同じ、優しい顔をしていたからである......。

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