天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第224話 意外な候補者。


ーーーーーー

「お、おはようございます......。」

  俺とキュアリスが軍部室のドアを開けると、そんな弱り切った挨拶が聞こえて来た。

  俺は、その声を耳にすると、白板の前にて目の下にクマを作る森山葉月の姿を見た。

  周囲の軍幹部は、彼女の身を案じているのか、心配そうな顔をしている。

  そんな状況を目にすると、俺は探り探りの言葉で彼女へこう返事をした。

「お、おはよう。随分と疲れている様だが......。」

  俺がそう言うと、彼女は相変わらずくたびれた口調で、

「いえいえ、そんな事はありませんよ......。ただ、先日から一睡もしていないだけなので......。」

と、弱々しく微笑んで立ち上がり、手元に分厚い書類を持つと、俺にそれを渡したのであった。

「とりあえず、お掛けください。こちらの書類は今後、軍の幹部として登用する為に私が練った構想です......。何か、変更したい点がございましたら、何なりとお話しください......。」

  彼女はそう言うと、再びフラフラと白板の前の席へと歩いて行った。

  俺はそれを見ると、一旦、入り口ドアの一番手前にある席へ、キュアリスと共にゆっくりと着席をした。

  それからすぐに、森山葉月から受け取ったその書類をパラパラとめくって行ったのだった。


ーーそして、俺はそれを見た時、驚きを隠せなかった。


  何故ならば、彼女はたったの一晩で、軍部の末端まで綺麗に人材の登用をしていたからである。

  俺は、そんな彼女に感心すると共に、彼女一人に任せ切ってしまった事に気が咎めるのであった。

  それに反省をすると、俺は早速一ページ目からゆっくりと目を通したのであった。

  そこには、一番頭である『軍帥』の地位から記されている。


ーーそれは以前、キャロリール王女から聞いていた通りに、『神の使い』であるアメールの名があった。


  彼女は、国民には『神の使い』である事を隠している。

  しかし、どうやら彼女は戦う給仕として知名度はかなり高いらしい。

  実際に、数年前から戦線にて、かなりの功績を上げていると言う事だ。

  よって、実力も兼ね備えた者として、『軍帥』に押されたらしい。

  次に、副軍帥にも相変わらず、ポルが王女の秘書と兼任する様だった。

  それから暫くは、現在、軍部室にいる元々の幹部の名前が羅列されて行く。


ーーそして、その先で俺が一番気になっていた項目を目にしたのであった。


ーー『特殊異能部隊』......。


  そこの位置になると、俺はじっくりと読み始めた。

  すると、俺が想像していた通りに、隊長には『リュイ』の名前があり、その下には相変わらず同じメンバーで構成されていた事に安心をした。


ーーたった一人を除いて......。


  そこで、俺は森山葉月にこう問いかけた。

「何故、ミルトの名がないんだ......? 」

  俺がそう問いかけると、彼女はおでこに頭を当てながら小さく微笑むと、

「彼女に関しては、次のページをめくると書いてありますが、今回の防衛戦で最も戦果を挙げた一人となりますので、その功績から、別の重要都市にて、支部長を務めて頂く事を考えました......。」

と、今にも消えそうな声で説明した。

  彼女がそう言うと、俺は次のページをめくり、ミルトの名を探した。

  すると、彼女がこれから配属される地域の一番上に、その名を見つけたのであった。

  そこは、沿岸部における最重要地域であり、それでいて、彼女が先日派遣されていた『ナミル』であった。

  俺は、それを見た時、少しだけ複雑な気持ちになる。

  確かに、彼女は雷を得意とする『異能』の使い手であり、沿岸部における防衛においては、間違いなく戦力となるであろう。

  それに、彼女は『特殊異能部隊』内部においても、才能は秀でていた。

  しかし、たった一人だけ別の場所へ派遣されると言うのは、少し納得が行かない。


ーーそれを聞いたミルトの気持ちを考えると、余計にそう思うのである......。


  俺がそんな風に難しい顔をしていると、それを察したのか、森山葉月は、青ざめた顔をしながらも、はっきりとこう告げた。

「まず第一に、国家を守る事を考えた結果です......。この国において、最も『ナミル』で力を発揮出来るのは、彼女なのですよ......。それに、この構想は、もう既に今朝早くにポルによって彼女へ伝えられました......。少し驚いてはいたものの、納得してくれた次第です......。」

  俺はそれを聞くと、彼女の意見に納得せざるを得なかった。

  そう、俺達がいる場所は、仲良しサークルではないのだ。

  いつまでも気心の知れた仲間達と共に居られれば、それは一番かもしれない。

  しかし、それと言うのは、只の甘い考えでしかないのだ。

  きっと、他の部隊の面々もいずれは別々の場所へ歩む事になるのかもしれない。


ーーそれは、成長の証として受け入れるしかないのである。


  だからこそ、俺は、少しだけ悲しい表情を浮かべながらも、彼女の発言に無言で頷いたのであった。


ーーそう、ミルトは栄転したのであるのだから......。


  俺がそんな風に思いながらもページを読み進めると、見覚えのある街の名前が現れた。


ーー『ヘベレス支部』。


  その街は、俺が転移して最初に訪れた場所であった。

  そして、その地域に記された支部長の名前を見て、俺は、再び安堵の気持ちでいっぱいになった。


ーー『支部長、グレル・グリンデル』


  俺はそれを見た時、喜びを隠せなかった。

  そう、彼は、『ヘリスタディ帝国』の策略によって、操られて居た事により収監させられて居たはずだったのだが、どうやら今回の変革によって、無事に元の役職に戻れた様であったのだ......。

  その事実に気がつくと、森山葉月は俺の意思をしっかりと汲み取っていてくれた事に、深く感謝した。

  だが、そんな中、森山葉月は書類をめくり続ける俺に対して、浮かない表情でこう言ったのであった。

「それでは、今回あなた方を呼んだ一番の理由を説明したいと思います......。最後のページを見てください。」

  俺は、そう深刻な表情で話す森山葉月の言葉を聞くと、一度首を傾げた。


ーーどうしたと言うんだ......?


  そんな疑問と共に俺が最後のページを見ると、そこには『聖騎士』の欄が掲載されていたのであった。


ーーそして、そこに記されていた名前を見ると、俺は驚きを隠せなかった。


ーー『聖騎士、大河原悠馬』

 
  俺はその名に対して、驚愕を覚えた。

  何故、『聖騎士』の役職に悠馬の名前があるのかと......。

  俺が呆然としながらその名前を何度も確認していると、森山葉月は補足する様にしてそれに至った経緯を話し始めた。

「私も頭を働かせて色々と考えたのですが、これだけ『異世界人』の転移が確認されている以上、有事の際に、この世界の者だけで国家を防衛するのには、限界があると考えました......。そうなってしまうと、どうしても強力な抑止力が必要になったのです。その結果、最も適任と考えたのが、大河原悠馬でした。彼は、収監されてからというもの、自らのしでかしてしまった事の重大さに気がつき、自責の念でいます......。反省を続けています。そこで昨日、私は彼の牢獄へと赴いて『聖騎士』就任の説明をしたのですが......。どうしても、受け入れてくれませんでした。『俺は、人を守れる様な人間ではない。只、薄暗いこの場所で死を待つのが一番似合っているんだよ』と......。」

  俺は、そんな発言をした森山葉月に対して、心苦しくなった。

  悠馬は自らの手で犯した罪の大きさに押し潰されていたのだ。

  だからこそ、『聖騎士』という国の重要な役割を受け入れようとしなかった。

  確かに悠馬は、この世界で多くの人を傷つけた。

  でも、俺は知っている。


ーー悠馬は、本当は優しくて、人の気持ちが分かって、誰よりも正義感が強い男だと......。


  俺は、この国を去る。

  正直なところ、不安は多く付きまとう。

  もし仮に、これから先、この国に同じ悲劇が起きたとしたら......。

  そう思えば思うほどに、しっかりとした戦力を必要とするのは明白だった。

  俺は、悠馬と戦った時に思った。

  奴は頭も良く、この国の誰よりも強い。

  それと共に芽生えは気持ちをがあった。

  俺達のいない『ベリスタ王国』は、悠馬に守ってもらいたいと......。


ーー大親友であった悠馬に......。


「そこで、雄二さんには、彼を説得してもらいたいのですよ。この国の今後の為にも、今も反省を繰り返す彼に『聖騎士』を継承させる為に......。」

  俺は、森山葉月から依頼された内容を聞くと、勢い良く立ち上がった。

「任せておけ! 絶対に説得してみせるさ! それに、ちょうど、俺はあいつと腹を割って話したかったしな! 」

  それを聞いた森山葉月は、ニコッと笑った後で、

「それは、良かったです。それでは、口説き落としてください。これから、彼の収監されている牢獄まで使いの者に案内させますので......。」

と促すと、軍部室の入り口には、看守長の男がこちらに深々と頭を下げた。

「では、こちらへお越しください。」

  俺はそれを聞くと、ゆっくりと彼の方へと向かって行った。

  勢い良く啖呵を切ったものの、俺は、少しだけ震えていた。

  だって、何を言い訳したところで、俺が彼を傷つけたのは、まぎれもない事実なのだから。

  そんな風に周囲に気づかれないくらい小さな臆病を見せていると、隣でじっと黙っていたキュアリスは、俺の肩にポンっと手を当てると、

「大丈夫だよ。私もついていくから......。」

と、笑顔で囁いた。

  俺は、キュアリスが言ったその一言で、決意を固めた。

  悠馬、久しぶりに話そうじゃないか。


ーーそして、この国を守ってくれ......。


  そう思うと、俺は少しだけ重い足取りを廊下に踏み出す事で、彼の説得へと気合を込めたのであった。

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