天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第220話 俺の仲間達。


ーーーーーー

  キャロリール王女の涙から暫くすると、俺達は帰還の儀を明日の昼に執り行うと言うポルの説明を聞いた後で、相変わらず騒がしく盛り上がる深夜の『ロウディ』の街を通り過ぎて、『特殊異能部隊』の訓練施設へと戻ったのであった。

  そんな中、森山葉月は俺達や彼女自身の退役の手続きを取る為にも、一度王宮の方へ戻ると言った為、帰還の儀までの間は別行動となった。

  俺は彼女からそう告げられると、見慣れた施設へと続く坂道を登っている時、激しい懐かしさを感じた。

  ふと、振り返ると、坂の多い街の地形に引き寄せられるようにして建ち並ぶ家々。

  そんな些細な景色さえ、今となっては大切な思い出の中に閉じ込められて行った。


ーーもうすぐ、この街の景観ともおさらばなのか......。


  そう考えているうちに、足並みを揃えるようにして俺の傍を歩いていたキュアリスと桜、優花も、無言になって行った。

  多分、彼女達も同じ考えなのかもしれない。

  だって、この街を飛び出して戦いに身を投じるとなった時は、死すらも覚悟する程に硬い決意を持っていたのだから......。

  あの日、出発の前夜も、同じ様に俺達を取り巻く環境には、沈黙が流れていた。

  あの時、ひとり、またひとりと順次、『特殊異能部隊』の面々は別々の戦地へと派兵されて行った。


ーーそれは、俺自身の手によって......。


  彼女達は、その場所にいるのであろうか......?

  はたまた、まだ引き揚げている最中であろうか......?

  深傷を負っていないだろうか?

  辛い思いをしていないだろうか......?


ーーそれに、俺がこの国を去り、隊長の座を退く事も耳にしているかもしれない......。


  俺がそんな風に混沌とした頭の中で、数々と浮かんでは消える心配事を思い浮かべていると、キュアリスは俺の肩を叩いてこう言った。

「雄二! 大丈夫? 到着したよ! 」

  俺は、そんなキュアリスの一言を聞くと、ハッと我に帰った後で慌てて顔を上げた。

  すると、そこには蜜の濃い一週間前と変わらず、倒壊もせずに相変わらず我が物顔で聳え立っている『特殊異能部隊』の訓練施設が俺の目の前に飛び込んで来た。

  施設自体に明かりは灯っておらず、どうやら、彼女達は眠っているか、はたまた、まだ帰還していない事がすぐに分かった。

  俺はそれに気がつくと、余計に不安を重ねた。

  だって、幾ら森山葉月から他の戦地は無事だと聞いていたところで、実際に本人達と顔を合わせていない段階では、本当に無事なのかは信じ難いからである。

  俺は、そんな風に思いながら暗闇と同化する施設の方へとゆっくりと足を進めて行った。

  もし仮に、お前達がまだ帰って来ないのならば、俺はこの場所で待とう。


ーー皆が笑顔で会話出来るその日まで......。


  そう考えながら俺が恐る恐る入り口の門に手を掛けようとした時、事は起きた。

「バタンッ!! 」

  そんな音と共に、何らかの柔らかい物によって俺の視界は遮られる。

  突然の出来事に俺が慌てていると、施設の内部からは、こんな声が聞こえてきた。

「何回言ったら分かるんだ!! これから隊長殿が戻ってきた時、快く迎える為に、整列の準備をしていたのに、相変わらずお前は......。」

  聞き覚えのあるその声の後で、再び耳にしたことのある返事が俺の耳を掠めた。

「いつもごめん、リュイ......。私、もっと頑張るから......。」

  そう言った弱々しい口調の声は、負ぶさった形である俺の体からゆっくりと立ち上がると、豊満な胸元が目の前に現れた。

  その後で視線を上げていくと、泣きそうな表情をしたその顔が俺の視界に入ったのである。

  俺は、その顔を見た時、驚愕で言葉を失った。

  何故なら、奥から叱咤するリュイに向けて謝罪を述べているその存在は、紛れもなくあの時、謀反によって捕まった筈のミルヴィールであったからだ......。

  俺はそれに気がつくと、只、彼女の顔をマジマジと見つめた。


ーーどうして、ここに......。


  そこでようやく俺の存在に気がついたのか、暗がりの施設内部にいるリュイも、目の前のミルヴィールも、呆然と俺を眺めた。

「隊長殿......? 」

  遠くからは、驚いているとすぐにわかる程キョトンとした口調で聞こえるリュイの声がした。

  俺は、そこでやっと、現実を理解したのかもしれない。

  どうやら、『特殊異能部隊』は、無事にこの場所へ戻って来ていたのだと......。

  何故、ここにミルヴィールがいるのかは分からない。

  だが、それよりも俺は、彼女らが無事である事実に感動を隠せなかった。

  それと同時に、リュイはみるみる内に涙で顔を歪ませながら俺に駆け寄って来たのだ。

「隊長殿!! ご無事でしたか!! 私達は、ずっと心配でした......。だって、『ヘリスタディ帝国』に勝つなんて、並大抵の力では難しいですから......。本当に生きてますよね?! 本当に隊長殿ですよね?! 」


ーーリュイはそう泣き叫ぶ。


  俺は、そう言って勢い良く俺に抱きついた彼女から感じる体温で、初めて彼女が無事である事を理解したのであった。

  それと同時に、安堵の気持ちが体を包み込む......。

  すると、そんな叫びを耳にしたのか、他の部隊の皆も慌てて施設内から駆け寄って来たのである。

  俺は、そこで確信した。


ーー『特殊異能部隊』は、全員無事だと......。


  それに安心すると、俺は泣き叫ぶ皆に向けて、こう言って見せた。

「心配かけて、すまなかったな。俺もキュアリスも、桜も、優花もみんな無事だ。この戦争は、やっと終わったんだよ!! 」

  俺がそう宣言すると、皆は勝利と俺達の無事に対して、はち切れんばかりの歓声を上げたのだった。

  それを聞いた俺は、少しだけ嬉しくなる。

  多分、きっとそれは、戦争に勝利した事に対する物ではない。


ーー再び、俺の信頼する部下達に会えた事にあるのかもしれない......。


  だからこそ、一旦その喜びに浸る事にした。

  遠くで申し訳なさそうにしているミルヴィールを見つめると、些か疑問は湧いたが、それは一度落ち着いたら聞く事にしよう。

  それにしても、改めて思う。

  俺は、幸せ者だ。

  だって、俺の為に、ここまで泣いてくれる大切な仲間がいるのだから。

  正直なところ、この街に戻って来て、たったの一時間ばかりの間でも、思い出は増え続けている。

  それが、別れへと時間を進めているのは、紛れもない事実だ。

  でも、それだけ愛されている事を実感出来るのだ。


ーーだから、俺は幸せだ。


ーー世界中の誰よりも......。


  俺はそんな事を思うと、自然に涙を流していた。

  暖かくて、優しくて、何物にも変えられない大切な時間を胸に抱きながら......。
 

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