天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第219話 王女と国民。


ーーーーーー

「『ヘリスタディ帝国』を倒したって、本当なのか?! 」

「長い戦争に終わりを告げてくれて、本当にありがとう! 」

「これで、俺達はもう不安な気持ちを抱えなくても良いんだな! 本当にありがとう! 」

  首都『リバイル』は、深夜にも関わらず、お祭り騒ぎで俺達の帰還を待っていた様子だった。

  きっと、俺達の勝利宣言は、マジックアイテムを通して国民にも伝わった様であり、その事実は街から漂う異様なまでの熱狂からすぐに理解出来るものであった。


ーーそう、長く苦しめられた悪夢は、ここで終わりを告げたのだ......。


  それを象徴する様に、俺達は城門から一歩踏み込んですぐに、狂喜乱舞した国民によって揉みくちゃにされている。

  帰還を待ち構えていた新聞記者や、俺に憧れて将来は国王軍に入隊したいと言う少年少女、泥酔気味で泣きながら喜びを口にする中年達......。

  人の圧によって呼吸のしづらいその空間の中で、俺は改めて自分のやった事の大きさを実感する。

  だがしかし、こんな状況にもなると、なかなか収拾がつかないものだ。

  祝福に関しては、大変喜ばしい事ではあるのだが、俺の脇にしがみつく桜は、人の圧からとても苦しそうな表情を浮かべている。

  それに加え、キュアリスや森山葉月も逃げる隙を見失って民衆に囲まれ、少しだけ苦笑いである。

  優花に関しては、記者の質問責めに中二な振る舞いで上機嫌にある事ない事を答えているので心配ないみたいだが......。


ーーそれにしても、このままでは身がもたない。


  せっかく俺達の帰りを待ってくれていた人々を邪険に扱う訳にもいかない。

  だが、余りの人口密度から、少しずつ呼吸しづらくなって行く......。

  俺がそんな事を考えていた時、一点に集まった数十万の人々を前に、割れんばかりの音量に設定された拡声器を当ててこう叫び声を上げた一人の女性の声が聞こえた。

「貴様ら! この国の『英雄』に感謝しているのはよく分かる! だが、彼らは過酷な戦いを終えたばかりで疲弊しているのが分からぬか?! 」

  そんな発言を聞いた国民達は、俺達への接触をピタッと止めると、少し先の位置から叫びを上げた女性の方へと一斉に顔を向けた。

  それに流される様にして、俺もその方向へと首を動かした。

  すると、その場所には、高台から拡声器を片手に口を膨らませてこちらを見つめるキャロリール王女の姿があったのである。


ーー傍らには、

「いきなり街へ降りて来ては、困ります......。」

と、必死に王女の暴挙を制止しようとするポルの姿がある......。

  そんな突然の王女の登場に驚いた国民は、慌てて俺達から離れると、彼女がゆっくりとこちらへ歩き出すのに連動して、俺まで続く道を綺麗に開けたのであった。

「お、王女様......。」

  キュアリスはそんな突然現れた王女の姿を、呆然としながら眺めていた。

  そんな彼女の発言に対して、俺もまた、立ち尽くして向かい来る彼女を見つめた。
 
  そして、キャロリール王女は俺達の目の前に到達すると、俺の肩にポンッと手を置いた後で、こう言ったのであった。

「本当に、本当に、感謝申し上げる。我が『ベリスタ王国』は、お主らの勇敢な行いによって救われたんだ。あたしは、この日をずっと夢見ていた。ずっと、ずっと前から......。」

  彼女がそう発言すると、俺はそれに笑顔で返答しようと口を開きかけた。

  だが、そんな俺に対して、キャロリール王女は間髪を入れずに力強く両肩を掴むと、俯きながら何度も俺を揺らした。

「ありがとう......。ありがとう......。この国を助けてくれて......。」

  彼女は、掠れた声でそう呟くと、そのままその場に膝をついて大声で泣き出したのだった。


ーーまるで、子供の様に感情を隠す事なく......。


「あたしはずっと、辛かったんだ!! この国の長でありながら、何も出来ない自分が!! いつも国民を苦しめて、悲しい思いをさせて、何が王女だと自問自答を繰り返した!! あたしに、この国を守る力があればと、ずっと思っていた!! ......でも、あたしにはその力がなかった......。親友であるキュアリスにも、沢山辛い思いをさせた......。」

  彼女が雄叫びにも近い嘆きを口にしながら、脇目も振らずにそう訴えかけると、俺は、少しだけ彼女の葛藤を汲み取った。

  キャロリール王女は、ずっと戦っていたんだ。

  誰よりもこの国の未来を案じていた。


ーーこの国の長として......。


  その重圧は、俺ごときでは全く想像出来ないであろう......。

  いや、もし、俺が彼女と同じ立場であったのであれば、逃げ出したくなるかもしれない。

  それだけのプレッシャーを抱えながら生きて来たのであろう。

  だからこそ、俺はそんな彼女の感情を、只、見つめ続けた。

  すると、キュアリスは泣き叫ぶ王女の方へゆっくりと歩み寄ると、そのまま彼女をキツく抱きしめたのであった。

「王女様。私は、本当に幸せですよ。だって、こんなに国の事を想い、苦しんでも悲しんでも、気丈振る舞い続ける貴方の下で仕えられたのですから......。私は、貴方という存在がいなければ、ここまで生きて来られなかった。それだけ大きな存在なんですよ。それに、きっと、それはみんな同じ気持ちです......。」

  キュアリスはそう伝えると、抱きしめたキャロリール王女を横目に、周囲を見渡した。

  すると、辺りにいる国民達は涙を流しながら二人の姿を見つめていた。


ーー皆が、王女に暖かい視線を向けながら......。


  それを見たキャロリール王女は、ハッとした表情を一瞬浮かべると、わざとらしいくらい激しく涙を拭うと、抱き抱えるキュアリスの腕を振りほどいた後で、もう一度俺の方を向いた。

  そして、それから姿勢正しくなると、深々とお辞儀をして、改めてこう言ってみせたのであった。

「この国を救ってくれた事、感謝してもしきれない。私は、王女として言いたい。この長きに渡る戦争を終わらせてくれて、本当にありがとうございました! 」

  彼女がそう叫ぶと、もう一度周囲からは割れんばかりの歓声が響き渡った。

  その歓声は、永遠に止まないのでは、と錯覚させられる程、長く、気高く『リバイル』の街を包み込んだのである......。

  俺は、そんな彼女の表裏の無い振る舞いを見ると、この国で彼女が慕われている理由を理解した気がした。

  それと同時に、こんな素晴らしい王女が存在する国へ恩返し出来た事を、誇りに感じたのであった。
 

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