天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第218話 真夜中の首都。


ーーーーーー


ーー「君が賛同してくれて本当に良かった。それでは、私は先にゆっくりと『シュワール国』を目指そうと思う。私が同行して、この国を救った君達の時間に干渉する訳にはいかないから。」ーー


  ゲレイラはそう言い残すと、手際良く荷物を纏めて俺達のいる廃村をいそいそと去って行った。


ーー去り際にキュアリスへ何かを耳打ちした後で......。


  その小さくなって行く姿をいつまでも眺めていたキュアリスは、完全に見えなくなったその背中に対して、こんな一言を呟く。

「やっぱり私にとって、あなたはずっとお師匠です......。」

  彼女がそう呟いている後ろ姿を見ると、俺は声を掛ける事なく表情の見えない彼女を眺めていた。

  そんなキュアリスの肩は、小さく震えていた。

  でも、彼女の後ろ姿からは悲観的な感情を見つけられなかった。


ーーこの場所に降り立ってすぐの時のキュアリスとは打って変わって......。


  そして、暫くすると彼女は涙を拭う様な仕草を見せると、笑顔で俺達の方を振り返り、

「ここに来てよかった! お師匠にも会えたし、私が一人じゃないって事も再認識出来た。この場所で、こんなに信頼できる仲間達と共に居られるなんて、私にとって永遠に叶わない事だと思ってた! だから、もう大丈夫! 心配掛けちゃってごめんね。」

と、前向きな発言をした。

  俺は、そんなキュアリスの言葉を聞くと、こんな気持ちにさせられた。


ーー流石は、彼女が師匠と慕う存在だ。


  多分、俺はゲレイラの様にキュアリスを一瞬で明るくする事なんて出来ないと思う。

  それだけ、ゲレイラという存在は、彼女の中で大きいのだ。

  俺はそれに気がつくと、心の中でそっと小さな目標を掲げたのであった。

  キュアリスが辛い時、悲しい時、苦しい時、俺が彼女を笑顔に出来るような存在になってやる。

  そんな、浮かんでは消える目標を胸にしまいこむと、俺は彼女にこう言った。

「じゃあ、『リバイル』へ向かうとするか! 」

  それを聞いたキュアリスは、ニコッと笑った後で、俺達の元へと駆け寄り、それに答えた。

「そうだね! まあ、あの場所へ行くのは、また今度でいいか......。」

  彼女はそう呟くと、心なしか場所へは先を見ている様にも思えた。

  俺はそんな彼女の言った『あの場所』が何処であるかは理解出来なかったが、それよりも笑顔を取り戻したキュアリスに安堵する気持ちが勝ったのである。

  そして、それを最後に俺達は再び帰路に就いた。


ーー『シュワール国』は、今すぐにどうこう出来る問題ではないと言った。


  更に、今世界で起きている悲劇を見て欲しいとも言われた。

  確かに、今すぐにでも旅立ち、人々を救いたい気持ちはある。

  だが、俺にはまだやらねばならない事があるのだ。

  それは、俺にとって数え切れない程の恩を受けたこの国に礼儀を果たす事。

  沢山の支えをくれたみんなに対して、しっかりとお別れを告げなければならない。

  だから、今はその先にある未来を考えるのを一度やめる事にした。


ーー俺は、この国を愛している。


『ベリスタ王国』は、俺にとっての『故郷』であるのだから......。


ーーーーーー

  廃村を後にしてからの経路は、驚く程にスムーズであった。

  隠す事なく光の道筋を進む事が出来たのも相まって、気がつけば約一日で首都『リバイル』の手前まで到達していたのだった。

  それと同時に、俺は光の道筋を消して徒歩でその場所へ向かって行った。

  すっかりと夜が更けた街のたもとで俺は少し考えを巡らせた。

  この街から旅立ち、『ロウディ』から戻って来るまでの間は、正味一週間程であった筈だ。

  しかし、俺にとってその時間は、数年とも考えられる程に濃密な物だった。

  だからこそ、不思議と懐かしさを感じるのであった。

  それと同時に、刻一刻とこの国との別れが近づいている事実に対して、俺は激しく胸を痛める。

  俺達には、神から与えられし大切な任務がある。

  現に、導くかの様にゲレイラから嘆願された新たな敵の存在。

  だからこそ、俺は一瞬だけ、この街で皆と共に平穏な生活を送った時の事を想像した。

  元の世界でも、これから起こるであろう未来でもない、『リバイル』で過ごす幸せな生活を......。

  でも、俺はそんな理想の時間を想像する事をすぐに辞めたのであった。

  考えれば考えるほどに泣きそうになって来るからだ。

  しっかりと、別れを告げなければならない。


ーーどんなに辛くても、悲しくても......。


  それは、城門の向こうから小さく見える王宮が姿を現わすと、現実味を帯びる。


ーーもう、振り返っちゃダメなんだよな......。


「もうそろそろ到着だ......。」

  俺は、そんな自分の弱さを包み隠すかの様に一つため息をついた後で、皆にそんな事を呟いた。

  それを聞いた桜は、いつもの無邪気な笑顔ではない、悲しい表情を浮かべた。

  まだ幼い桜も、もうすぐ訪れる別れを理解している様子であった。


ーー今すぐにでも泣き出しそうな顔をして......。


  何を隠そう、俺がこの街で過ごした時間が一番長いのは、紛れもなく桜だ。

  キュアリスと再会するまでの間も、彼女はずっと俺を支えてくれたのだ。

  それからすぐに、『特殊異能部隊』と出会い、数多の戦争も経験した。

  その傍らには、必ず桜がいた。


ーー俺にとって、それがどれだけ大きな存在であったかは、言葉では表せない。


  俺は彼女と共に、この街で喜怒哀楽を共有した。

  きっと、これからもずっと桜は俺と共に戦い続けるであろう。


ーー大切な『家族』として......。


  俺はそう思うと、息苦しい呼吸の中で一度立ち止まり、桜を強く抱きしめた。

  そんな俺の行動に対して、桜はグッと唇を噛み締めた。

  きっと、涙を堪えているのであろう。

  俺は、そこから感じる桜の気持ちをくみ取ると、そのまま暫く何も言葉を発する事なく彼女を抱きしめ続けた。


ーー精いっぱいの感謝を込めて......。


  その様子を見ていた森山葉月は、無理やり笑顔を作りながら今にも泣き出しそうな顔で俺と桜に向けてこう言った。

「いつだって、別れは辛いものです。だから、最後は笑いましょうね。」

  それを聞いた桜は、俺の胸から離れると、両目を必死に拭った後で、微笑を浮かべて、こう言ったのであった。

「うん! 葉月の言う通りだね! これで一生みんなに会えなくなる訳じゃないからね! 」

  そう元気良く言った桜を見ると、俺も同じ気持ちにさせられた。

  そうだよ、これで二度と会えなくなる訳じゃないんだ。

  きっと、世界を救ったらここへ戻って来る。


ーー例え、どれだけの時間が掛かったとしても.......。


  俺はそう思うと、再び足を進めた。

  そして、城門の前に辿り着くと、俺は深呼吸をした。

「じゃあ、行くとしようか。」

  俺がそう宣言すると、全員が大きく頷いた。

  それを確認すると、俺は城門の小さな通用扉に手を掛けて勢い良く『リバイル』の中へ入ったのだった。


ーーそこで見た光景を、俺は一生忘れる事は無いであろう。


  少しだけ視界が揺らぎながら焼き付けたその光景を......。

  真夜中とは思えない程に活気付いた人々の歓声と、感謝の言葉、それに、割れんばかりの歓声......。

  俺は、それを目にして聞いた時、本当の意味で理解したのだ。

  この国は、完全に救われたのだと......。
 

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