天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第217話 理想国家の裏側。


ーーーーーー

  ゲレイラの口から話された旅の経過を聞いた俺は、少しだけ胸を痛める。

  きっと彼女は、理想を求めて旅を始めたのであろう。

  だが、現実は全くの別物だったのだ。


ーー彼女の追い求めた世界の縮図。


  それは、彼女自身が足を進めれば進める程にいとも簡単に崩れ去って行ったのだ......。

「そんなにも、世界はおかしな事になっていたんだな......。」

  俺がゲレイラにそう呟くと、彼女はテーブルに両腕を突いた後で俯き、こう続けた。

「そうだったわね。私の見た世界は、只の地獄絵図でしかなかった。でも、知らなかったんだ、私は。本当の地獄というのは、その先にあったという事に......。」

  彼女の発したその地獄と言う言葉を聞くと、その場所で何が起きたのかを聞きたい様な、聞きたくない様な複雑な気持ちにさせられる。

  俺がそんな風に口ごもっていると、ゲレイラの隣にいるキュアリスは、今にも泣き出しそうな顔をしていたのだ。

  きっと、『師匠』と慕う程に敬意を示す彼女が苦しむ程の事案に対して、余程心を痛めているのであろう。

  俺達はそんな風にゲレイラの発言からめっきり沈黙になると、暫くそのまま音のない時間が続いた。


ーーすると、ゲレイラはその状況に痺れを切らしたのか、俺達に対して、こんな事を問いかけた。


「君達、『シュワール国』と言う国の名を知っている? 」

  その国名を聞いた俺は、小さく首を傾げた。

  俺は、この国や周辺国以外の知識は、一切無い。

  よって、その国の名にピンとくる事はなかった。

  そんな最中、左隣に座る森山葉月は、ゆっくりと発言をした。

「その国の事なら、お話を聞いた事があります。ですが、私の知っている『シュワール国』は、神々の協定によって世界で唯一、神が直接干渉する事を許された国と聞いております。」

  森山葉月がそう探り探りな口調でそう言うと、ゲレイラは小さく微笑んで答え合わせを始めた。

「流石は、軍帥ね。その通りよ。あの国には、三つの神聖な場所が点在するの。それが故、各宗派によっていざこざが何千年もの間続けられて来た。それに痺れを切らした神々は、数百年程前から手を取り合い、その場に止まって人々の統率をする事で争いを終わらせたの。それから目覚ましい発展を遂げた国よ。」

  それを聞いた森山葉月は、小さく頷いた後で、疑問を口にする。

「確かに、その様な話は聞いた事があります。私の聞いた『シュワール国』は、世界で最も成功した国と聞いておりますよ。神のご加護の下に、勤勉だと......。ましてや、地獄なんて......。」

  そんな風に呟いた森山葉月の言葉に対して、ゲレイラは苦笑を浮かべながらこう答える。

「まあ、確かに世間的に見れば、そうかもしれませんね。綺麗な街並みに、勤勉な国民、それに、犯罪率ゼロの理想国家......。でも、もし仮に、その影で多くの間引きが行われていたとしたら、どうしますか......? 」

  俺は、彼女の口から出た『間引き』という言葉に強く反応した。

「それはつまり......。」

  俺がそう口を開くと、ゲレイラは真剣な眼差しで俺に、

「少しは分かったかしら? 私の言う理想国家『シュワール国』の裏の姿を......。神はそれを許容しているの。いや、『間引き』を神聖な儀式と銘打って、神自らが大規模に行なっているのよ。数百年もの間......。私は、国の外れのある街でその現実を思い知った。」


と、説明を付け加えた後で、彼女は少し儚げな表情を浮かべる。

  そして、俺はその後で、彼女の口から出た余りにも衝撃的な一言を耳にしたのである。

「実は、たまたま私が訪れた街と言うのは、彼方の国では『最期の地』と言われて恐れられているの。その場所にいる人々は、全て間引きの対象。決して何をしたわけでもない。少しでも反乱の対象と断定された時点であっさりと殺されて行くの。国民はそれを許容し続ける。そして、おだて続ける。神と言う名の『悪魔』に睨まれぬ様に......。」

  俺は、そんな彼女の発言を聞くと驚きを隠せなかった。

  本来、人々に幸福を与える筈の神という存在。


ーーだが、結果的にその場所の神々は、最悪の形で綺麗な国を作り続けたのである。


  俺はそんな見ず知らずの遠い国で起きている悲劇を聞くと、怒りで体が震え出したのだ。

「人々を助ける筈の神が自ら......。」

  俺がそう憤っていると、ゲレイラは再び俺の手を取った。

「私はそんな事実に耐えられず、その街で焦燥感に溢れた人々を助ける為、暴れまわって見せたの。でも、ダメだった。神という圧倒的な存在を前にすると、太刀打ちできる筈もなかったの......。情けない話だけど、命からがら逃げて来たのよ、私は。だからこそ、あの最強と謳われた『イワイ・シュウスケ』をも倒したあなたの力が必要なの! 今、初めて会った君に頼むなんて、おかしな話だとは思っている。でも、私は見捨てられない。世界で最も不幸なあの国を......。」

  俺は、その言葉を聞くと、一度周囲を見渡した。


ーー桜、優花、森山葉月、そして、キュアリス......。


  彼女達は、俺が視線を向けると、真剣な眼差しで大きく頷いていた。
 
  それを見た俺は、彼女にこう告げる。

「事情は分かった。俺達もちょうど、これから世界を救おうとしていた所だ。明確な目標が出来て、逆に感謝するよ。でも、まずはこの国の事を終わらせてからだ。それが全て済んだ時、もう一度ここに訪れる。その時まで、待っていてくれるか? 」

  それを聞いたゲレイラは、俺の手を握る拳の力を強めた。

「分かったわ。私はここで待つ。それに、今すぐどうこう出来る話ではないし......。」

  俺は、そんな彼女からの返答に対して、自信を持ってこう宣言した。

「大丈夫だ! 『シュワール国』は、必ず俺が救ってみせる! 」


ーーそう叫んだ俺は、少しだけ震える手にグッと力を込めたのであった。

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