天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第216話 ゲレイラが見たもの。


ーーーーーー

  彼女は足を進め続けた。

  幼い弟子を故郷に残して。

  元々、放浪癖のあった彼女は、旅をする事に生きがいを感じていた。


ーー理由は、実に簡単な事だった。


  それは、未だ見ぬ未開の地への期待、それだけである。

  だからこそ、彼女は徒歩や馬など『異能』の類を一切利用する事なく、現地の雰囲気を感じ取りながら極力長い時間を掛けて東へと進んで行った。

  最初の一ヶ月で、『ベリスタ王国』を通り過ぎて東の隣国『クリス』に辿り着いた。

  常に『ヘリスタディ帝国』への脅威によって緊迫した状況にあった祖国とは違い、その場所は貧しい国家でありながら、人々の幸福度は非常に高いと感じ取れた。

  ふと、その国の首都と思われる街に辿り着くと、丁度、国家の建国記念の祭典が開かれていた。

  余り豪華とは言えない王宮からは国王が顔を出し、国民目線での演説が執り行われている。

  それに対して、民衆は心の底から歓声を上げながらその国の記念すべき日を祝福している様子であったのだ。

  彼女はその状況を見た時、思った事がある。


ーーなんて、素晴らしい国なのであろう......。


  これが、我が祖国の隣国なのかと。

  実際に現地で知り合った人々と会話を交わしても、その者達は口を揃えて国への誇りを語っていた。

  それはまさに、彼女にとって理想の環境であった。


ーー戦争のない、質素ながらも笑顔の絶えない生活。


  そう思うと同時に、旅立ちを決意した自分の行いが間違っていない事を自覚した。

  泣き喚きながら必死に彼女を引き止めた弟子を心配しながらも......。

  次の一ヶ月で理想国家の隣国へと辿り着いた。

  どうやらその国は、緊迫した雰囲気を感じ取れた。

  国民の話によると、見たことの無い力を使う者達によって、国家が脅かされていると聞いた。

  その者達によって、民衆は恐怖に怯えて生きていると言う。

  彼女はその話を聞くと、一つ前に訪れた国との差に驚いた。


ーー隣国同士でも、ここまで状況が違うのかと......。


  それから、彼女がその国を離れてすぐに国家は崩壊したと言う情報を手にしたのだった。

  その時、彼女は少しだけ不安を感じる。

  私が旅を始めたのは、間違いだったのかと......。

  その後、彼女は約一年掛けて十ヶ国の国家を渡り歩いた。


ーー『異能』を一切使う事なくひたすら徒歩で......。


  しかし、最初に訪れた『クリス』の様に、平和で、暖かい雰囲気の国は一つ足りとも無かった。


ーーその時、彼女は気がついた。


  逆を言うと、『クリス』の様な国家の方が異質であると言う事実に......。

  足を進めれば進める程に、安心して眠りに就く事すら出来ない、祖国など簡単に凌駕する程に荒れ果てた場所ばかりだった。

  その辺りで彼女は、旅をする意味について自問自答を繰り返した。

  私は、何の為に旅を続けているのであろうかと......。

  それを象徴する様に、ある街の料理店で食事をしていると、強盗と思われる三人組の男が、いとも簡単に店内にいる人々を殺害すると、禍々しい程の『異能』を発しながら店長へと金銭を要求していた。

  その国は、王族が国民を放置する形で安全な他国へと逃げてしまった事で、主導権を握る者がいなくなった結果、犯罪が蔓延していたのである。

  そんな中、ふと、周囲を見渡すと、見事なまでに入店した時と変わり果てた店内の様子が見えてきた。

  隣のテーブルで仲睦まじく食事をしていた四人組の家族は、火の『異能』によって頭を撃ち抜かれ、フロアを血塗れにしながらピクリとも動かない。


ーー生憎、彼女は強かった。


  しかし、余りにも唐突なその悲劇に対して、身動きを取れなかった。

  だからこそ、後悔をする。


ーー私なら、助けられた筈なのに......。


  それから彼女は、供養の意味合いを込めながら、あっさりとその強盗を殺すと、店長に一つ頭を下げた後で、再び足を進めた。

  正直なところ、彼女はその時、心底後悔をしていた。

  私が見たかった世界は、こんなものじゃない。

  そんな事を思いながら......。

  そして、旅立ちから一年半、遂に彼女は辿り着いてしまった。


ーー世界で最も不幸な国と言われているその場所に......。


  その場所で目にした現実を見て、彼女は絶句した。


ーーここは、私達と同じ人間の生きる場所なのかと......。

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