天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第215話 お師匠。


ーーーーーー

「それにしても雄二、すごく格好悪かったね。」

  すっかりと落ち着きを取り戻した俺達がダイニングテーブルに辿り着くと、キュアリスが用意した鍋料理を囲みながら、桜は俺にニヤニヤとそんな事を言った。

  いやいや、お前だって、滅茶苦茶ビビっていたじゃないか。

  俺がそんな事を思いながら分かりやすく落ち込んでいると、森山葉月はため息をついた後で、桜の一言に付け加える様にしてこう答えた。

「本当に桜の言う通りですよ。死後の世界にまで行った男が、幽霊を怖れるなんて、本当に情けないですね......。まさか、『英雄』弱点が、幽霊だったなんて......。」

  彼女らの辛辣な発言の数々を聞いた俺は、顔を真っ赤にしながらそれに対してこう狼狽えた。

「し、仕方ないだろ?! だって、小さい頃のトラウマなんだからよ......。」

  それに対して、優花は俺の言葉の理由を説明した。

「確かに、一回だけあったよね! お兄ちゃんが大騒ぎしながら部屋を出てきた時、『幽霊だ! 幽霊が出た! あれは間違いなく本物の幽霊だ! 』とか震えながら叫んで、浩志お兄ちゃんに抱きついていた事......。」

  俺は、そんな恥ずかしい過去を晒して来た優花の口を右手で無理やり塞ぐと、取り繕う様にして高笑いを決め込んだ。

  それを見た森山葉月は、ニコニコと笑いながら、

「まあ、可愛らしい一面もあったんですね。」

などと言い放ち、その一言が、俺を余計に辱しめた。

  しかし、そんな中でも、少し気になる事がある。


ーーその、俺が幽霊と勘違いをした女性は今、キュアリスと話し込んでいるのだ。


「昔の君は、少し厳しく指導するとすぐに泣き出してしまってたのに、今はすっかり勇敢になったものね。」

「もう! 昔の話はやめてよ! 全く、お師匠は相変わらず意地悪なんだから......。」


ーー『師匠』と謳っていた彼女に対して、キュアリスは童心に帰ったかの様に夢中で多くの事を語っていた。


  それはまるで、俺達がこの場所にいる事に気づいていないかの様に......。

  そんなキュアリスの話に対して、女性はチャチャを入れながら会話を続ける。

  その姿を見ていると、キュアリスがどれだけその『師匠』とやらを信用しているのかが、強く伝わって来たのであった。

「あっ! 紹介が遅れたね! この人は、私に『異能』や『魔法』など、戦闘におけるいろはを教えてくれた師匠、『ゲレイラ』だよ! それでね、お師匠! ここにいるのが、今、私が共に戦う為の大切な仲間たちなんだ! 」

  キュアリスは俺達の視線を感じ取ると、慌ててそう紹介をした。

  それに促される様にして、俺達は小さく会釈をする。


ーーだが、それにしても、この『師匠』とやらは、何故、この家にいたのであろうか......?


  俺はそこに疑問を感じると、彼女に向けてこう質問をした。

「キュアリスが慕っている辺り、本当にお前が彼女の『師匠』である事はよく分かったよ。でも、分からないな。どうしてお前は、この家にいたんだ? 」

  それを聞いたゲレイラは、ニヤッと微笑みながらその問いに答える。

「まあ、確かに廃村であるはずのこの村に人がいれば、幽霊と勘違いされるのは仕方のない事よね。それに、私は単純にキュアリスの所へ顔を出しに来ただけよ。でも、なかなかキュアリスが戻って来ないので、寝て起きてを繰り返しているうちに、気がついたら半年程住み着いてしまったって訳ね。」

  それを聞いた俺は、幽霊の件に胸を痛めながらも、キュアリスが『師匠』と慕うゲレイラに対して、一つの気持ちを抱いた。


ーーこの女、変わり者だ。


  だって、人を待っている内に半年もの間、廃村で生活しようなど、誰が思うだろう。

  だが、どんなに変わり者だとしても、キュアリスにとっては『師匠』である事に変わりない。

  そう考えると、俺は彼女に対する疑惑を胸の中に仕舞って、明るく振る舞った。

「そ、そうだったんだな! ならば、余程ここが居心地良かったのか......。」

  しかし、俺がそうフォローしている間に、いつの間にかゲレイラはキュアリスの作った料理を無邪気に頬張っていた。

  多分、俺のフォローは一切聞こえていない様子で。

  やはり、こんな人は、とても『師匠』という柄にも思えない。

  そんな風に俺がウンザリとしていると、キュアリスは気になる事を口にした。

「それにしても、お師匠がそんなに長い間、同じところにいるなんて、私を『聖騎士』にする為、指導して以来じゃないかなぁー? それ以外の時は、常に旅に出ているし......。」

  それを聞いたゲレイラは、ニコッと笑いながら一度器を置くと、口元を布巾で拭った後、その問いに答えた。

「まあ、ここからはだいぶ遠くの国へと行って来たからね......。」

  俺は、そんなやり取りを繰り返す二人を見た時、ゲレイラが旅人である事を理解した。

  それも、多分、その旅の先は、隣国の類ではなく、俺の想像する遥か彼方である......。

  だが、キュアリスの『師匠』は、何故、旅に出ているのであろうか。

  俺は、そんな事を疑問に思う。

  そこで、少しの興味がわいた俺は、それについての質問をした。

「一つ疑問があるのだが、お前は何故、旅をしているんだ? 」

  それを聞いた彼女は、一度首を傾げた後で、その問いにゆっくりと答える。

「なんでかって聞かれると些か疑問だけど、強いて言うならば、世界の現状をこの目で見たいからかなぁ......。」

  そんな様子で首を傾げるゲレイラに対して、俺は世界の話を問いかけた。

  だって、俺が課せられたのは、世界を救う為の『英雄』になる事なのだから......。

  現に旅をする人間からの情報は、少なからず掴んでおきたいところだ。

「お前の目から見た世界は、どうなっているんだ? 」

  俺がそう問うと、ゲレイラは何かを察した様にニコッと笑った後で、こう答えた。

「そうね......。まあ、一言で言うならば、今、世界は危機に直面していると言う事かなぁ。どの国に行っても、戦争、戦争、戦争......。それに疲れちゃったって言うのも、この場所に半年も滞在していた理由になるかもね。」

  彼女の言葉に俺は、再び気持ちを引き締めた。

  どうやら、やはり世界は今、危険な状態にある事を強く理解したからだ。

  すると、そんな風に俺が考えを巡らせていると、キュアリスは誇らしげな顔をして、こんな事を口にした。

「やっぱり、どの国も危険な状態なんだね......。でも、『ベリスタ王国』に関しては、もう大丈夫だよ! だって、ここにいる雄二がイワイ・シュウスケを倒す事で救ってくれたから......。」

  そんな、何気ない一言を呟いたキュアリスに対して、ゲレイラは突然表情を変えた。

  その後で、俺の事をマジマジと見つめる。


「あのイワイ・シュウスケを......。本当に君が、この国を救ってくれたの......? 」

  俺は、その余りにも真剣な眼差しを見ると、困惑しながら小さく頷いた。

「一応、そう言う事になるのかな......。」

  俺がそう返答すると、突如としてゲレイラは俺の両手を強く掴むと、こんな事を口にしたのだった。

「そうだったのか......。やはり、『英雄』は現れたのね......。それならば、たってのお願いがあるのだが......。」

  俺は、途端に必死の形相へと変わったゲレイラに対して、少しの疑問を持つ。


ーー何故、この人はこんなに焦っているのかと......。


  そして、その『お願い』とやらについて、俺は問いかけた。

「そのお願いとは......? 」

  それを聞いたゲレイラは、その問いにゆっくりと答えたのだ。

「君に、ある国を救って欲しいんだ......。」

  そんな突飛押しのない嘆願に、俺は驚いた。

  ゲレイラの必死さも相まって......。

  しかし、そんな中で最も驚いているのは、キュアリスであった。


「お師匠は凄く強いし、他人に頼る様な人じゃないよね......? 」


ーーそんな事を呟きながら......。

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