天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第214話 俺の苦手なもの。


ーーーーーー

「とりあえず、食事の支度をしてくるね! 」

  キュアリスはそう言うと、俺達をダイニングに残してそそくさとキッチンの方へと向かっていった。

  俺はその後ろ姿を静かに見送ると、テーブルに腰掛けて食事を待ち構える桜の方に目をやった。

  キュアリスから感じる雰囲気を打破する様にして......。

  もしかしたら、今、キュアリスは過去の事を思い出して悲しんでいるのかもしれない。


ーーこの場所に連れて来たのは、失敗だったのかな......?


  俺はそう考えると、居た堪れない気持ちになって、この空気を打破せねばと強く思った。

「さ、桜!! キュアリスのご飯、凄く楽しみだな! 」

  俺がそう空元気な口調でそう言うと、桜は純粋な眼差しでそれに答える。

「うん! 桜、楽しみだなぁ!! それに、ここがキュアリスの家なんだね! 」

  桜は明るくそう言うと、撫でる様にしてその家の周囲を見渡した。

  俺は、それに続く様にして周囲を眺める。

  この家に入ってからずっと、俺は気になることがある。

  何故なら、家具を除いて、もぬけの殻となっているこの部屋は、余りにも綺麗だからだ。

  リビングのソファにも、俺たちの座るダイニングテーブルにも、埃一つ存在しない。


ーーこの村には、人がいない。


  それは、村に足を踏み入れた時点で把握していた筈。

  にも関わらず、この家の中だけは、まるで時が止まったかの様に綺麗なのだ......。

  そんな事を考えていると、森山葉月は難しい顔をしてこう呟いた。

「本来なら、あり得ませんよね。廃村でここまで掃除が行き届いているなんて......。」

  俺はそんな風に神妙な口調で分析をする森山葉月の言葉に対して、少しの恐怖を覚える。


ーーだって、この家は余りにも歪なのだから......。


「クハハハ!! もしや、この家にデーモンの類がいるのだな!! 」

  優花はそんな不思議な状況に対して、中二心全開でそう勢い良く立ち上がった。

  少し遠くで調理をするキュアリスは、そんなやり取りをする俺達には気づいていない様子だった。


ーー彼女は、この状況をおかしいと思わないのか......?


  俺はそんな疑問を抱えながらも、この村に来た事に対して上の空になるほどに辛い選択をさせてしまったのかと、再び胸を痛めた。


ーーだが、そんな時だった。


「ガタンッ!! 」

  不意に二階の寝室の方から聞こえたその物音を耳にすると、キュアリスを除く俺達四人はビクッとした。

「お、お兄ちゃん......。今の音って何......? 」

  優花は先程の威勢を忘れたかの様にしょぼくれた口調で俺にそう問いかけた。

  俺は、そんな恐怖を口にする優花に対して、冷や汗をかきながら返答した。

「な、何かの間違いだろ......。」

  俺がそう答えると、ダイニングテーブルには沈黙が訪れた。


ーーなんだ?


ーー今の音......。


  俺は、その並々ならぬ違和感のある音に対して、底知れぬ恐怖を感じた。

  何故なら、この家からは確実に人のいる気配を一切感じなかったからである。

  それに相まって、不思議な程に綺麗な部屋......。

  しかし、俺はその現実から目を背けた。

  正直なところ、俺には唯一苦手なものがある。


ーーそれは、幽霊の類だ。


  この世界に来て、沢山の不思議な物を見た。

  人間の存在を遥かに上回るドラゴンに、人を簡単に貶める事の出来る悪魔......。

  それに何より、俺は死後の世界にだって行った事がある。

  それに関しては、恐怖を感じる事が無かった。

  だが、幽霊に関しては別格で恐ろしい。

  何故なら、彼らは怨念で出来ている。

  人を恨み、時には災いをもたらす。

  俺は小さい頃からずっと、幽霊だけは大の苦手なのだ。

  だからこそ、そんな訳ないと自分に言い聞かせる。

  一度死んだ人間のくせに、幽霊はダメと言うのも、些かおかしい話だが......。

  すると、二階の方からは再び、

「ドンッ!! 」

という音が響き渡った。

  それを聞くと、優花と桜はガタガタと震えながら俺の元へと駆け寄った。

「雄二、怖いよ......。なんか、人じゃない何かがいそうな気がして......。」

  桜がそう恐怖を口にすると、俺は必死に取り繕った。

「な、何を言っているんだ。そんな筈が......。」

  俺がそう否定を重ねた瞬間に、今度は階段の方から、

「ドン、ドン、ドン」

と、一階の俺たちの方へとゆっくり降りてくる足音が聞こえて来た。

  それを耳にした俺は、恐怖に耐えられなくなり叫ぶと、悪魔を封印したマジックアイテムを手に取ると、半ばヤケになって階段の方へと走り出したのだった。

  もう、こんな状況に耐えられない。


ーー滅茶苦茶怖い......。


  そんな事を考えながら......。

  そして、階段で対面したそれを見た時、俺は呆然とした。

  何故なら、目の前にいる幽霊と思われる一人の女性は、黒い髪がボサボサで、白装束を着ているからである。


ーー白装束とか、やっぱり、幽霊じゃないか!!


  俺は、そんな恐怖から、右手に持った魔封じのマジックアイテムを振り回して見せた。

  だが、その幽霊はなかなか封印されなかった。

  しかもその女性は、薄っすらと笑みを浮かべている。


ーーそれが、余計に怖いのだ。


「おい、幽霊!! 早く封印されろ!!」

  俺がそう叫ぶと、マジックアイテムの中からは、こんな怒鳴り声が聞こえてきた。

「やめろ!! 痛いじゃないか!! 狭い空間に封印されている身にもなれよ!! 」

  どうやら、その声の主は、この中に封印されている悪魔の様だった。

  だが、そんな事をお構い無しに、俺はマジックアイテムを振り続けた。

  すると、痺れを切らした悪魔は、俺に対してこう言い放ったのだった。

「目の前の女は、幽霊じゃねえ!! 普通に生きている、生身の人間だよ!! 」

  俺は、そんな悪魔の一言を聞くと、ピタリと手を止めた。


ーーその後で、マジマジと白装束の女性を見ると、呆然とした口調でこう問いかけた。


「それって、本当ですか......? 」

  その質問を聞いた女性は、相変わらず微笑みながら、小さく頷いた。

  俺はそれに安心すると、その場にヘタリ込む。


ーーなんだ、幽霊じゃないのか......。


  だが、なんでキュアリスの家に、人がいるんだ......?

  マジックアイテムの中からガヤガヤと文句を言う悪魔を無視してそんな事を思っていると、背後からは、

「ガシャン!! 」

という陶器を落とした音が聞こえた。

  俺はそれに対して、慌てて振り返ると、そこにはキュアリスが呆然とした顔でこんな事を口にしたのだった。

「お師匠......? 」

  俺は、そんな彼女の一言に驚愕した。


ーー先程まで俺が幽霊だと思っていた白装束の女性は、キュアリスの師匠......?


  俺は、唐突に起きた不可思議な事象を前に、整理のつかない気持ちに焦りを覚えている。

  だが、そんな俺を横目に、平然とした口調で彼女はキュアリスにこう言ったのであった。

「お久しぶりね、キュアリス......」


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