天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第213話 始まりの村。


ーーーーーー

  行きの緊張感とは違い、俺達はそれなりに明るい気持ちで帰還をしていた。

  帰りに関しては、隠れて遠回りする必要もなく、一直線で帰る事が出来た為、時間的には短縮出来たと言えよう。

  しかし、そんな中で、俺は通り過ぎる街々にて、現国王『イワイ・シュウスケ』を打倒して新たに元王子であったモールが新国王になったという情報を広めたのであった。

  俺は少なからずその報告をした際、暴動が起きる事を想定していたのだが、驚く事に彼らは予想と反して歓喜の声を上げた。

  中には、涙を流して喜ぶ者も多くあったのだ。


ーーそれも、その筈だ。


  何故なら、『ヘリスタディ帝国』から遠く離れた地方都市の人間は、王都『ロウディ』にて、元国王によって実行された粛清から逃れてきた現地の者も多くいたからである。

  彼らが実際に体験したふたりの王の恐怖。

  それが終わり、『異世界人』に支配された国家における恐怖が常にあったのであろう。

  少なからず管轄と称した『異世界人』はいたものの、その者たちは俺が少し話をすると、あっさりと身を引くのであった。


ーー俺の光のオーラを見るとすぐに......。


  そのように、この国にもやっと平和が訪れた事を理解した人々の中には、復興の為にと『ロウディ』を目指す者も多くいた。

  俺はそれを見ると、安心する。


ーーこの国の人々は、強い。


ーーもう、大丈夫だと......。

 
  そうしている内に、結局『ベリスタ王国』の国境へ到着したのは、三日程の時間が掛かってしまったのだ。

  行きよりも一日遅れて......。

「どちらにせよ、『ヘリスタディ帝国』の方々に終戦を知らせるのは、必要不可欠でしたからね。」

  国境を越えた光の道筋の中で、森山葉月はニコッと笑いながらそう俺に言った。

  それを聞いた俺は、一安心する。

  元の元気を取り戻してじゃれ合っている桜をと優花の明るい表情を見ながら......。

  桜が雪弥との事でチャチャを入れて優花が顔を真っ赤にしていた。

  兄としては、それをあっさりと容認する事は出来ないのだが......。

  そんな時、ふと、キュアリスの方を見つめると、彼女は光速で移動する道筋の中で、少しずつ近づいてくるある一点をずっと見つめていた。

  俺はそれに気がつくと、彼女の視線の先の方へと目をやる。

  すると、そこにあったのは、ある古びた廃村だった。

  俺はそれを見ると、再び彼女を見た。

  きっと今、キュアリスは昔の事を思い出しているのであろう。


ーー孤独と戦っていたあの日々を......。


  戦争の為に『ロウディ』向かっていた際も、彼女はあの村をずっと見つめいた。

  少しだけ切ない表情を浮かべながら......。

  俺は、そう考えながらも、キュアリスに対してこう提案をした。

「もし良かったら、寄っていくか......? 」

  俺がそう問いかけると、キュアリスはぼんやりした表情からハッと我に帰った後で、真剣な顔をした。

「でも、良いの? 早く戻らないと、みんなが心配するし......。」

  そう不安げに話すキュアリスに対して、俺はニコッと笑ってこう返答した。

「良いんだ。俺も、訪れたいと思っていたんだ。俺にとって、始まりの村に......。」

  俺はそう呟くと、森山葉月の方をチラッと見た。


ーーすると、彼女は小さく頷いた。

 
  それを合図に俺は一度、光の道筋をその村の方へと向けた。

  そして、俺達は何もない廃村へと降り立ったのである。

  俺が、初めてキュアリスと出会ったその村に......。

ーーーーーー

  その村は、約一年前に俺が転移した時とは裏腹に、雑草が生い茂り、木造の家々は朽ち果てていた。

  以前来た時は、そんな印象を感じさせぬ程に綺麗であったのは、多分、村の内部をキュアリスが丁寧に整えていたからである事が容易に想像が出来た。

  それとは違い、その村は、今となっては見事なまでにもぬけの殻となって自然の力に負け、少しだけノスタルジックな気持ちにさせられる。

  キュアリスは、そんな村の変わり様に少しだけ悲しそうな表情を浮かべると、ゆっくりと入り口を入って行ったのだった。

「もし良かったら、私の家に招待するよ。少しではあるけど、料理も振る舞う。まあ、日持ちする物が無いから、簡単な食事になるかもだけど......。」

  彼女は無理やり笑顔を作ってそう促すと、雑草が生い茂る道を丁寧に掻き分けながら、一軒の家へと俺たちを招待したのだった。

  俺は、その懐かしさすら感じさせる家の前に立った時、改めて不思議な気持ちにさせられた。

  何故なら、あの日、あの時転移しなければ、こんな嘘みたいな日々は永遠に訪れなかったのだから......。

  もし仮に、この世界に来なかったとしたら、俺はどんな日常を送っていたのだろうか......。


ーー世間から嫌われ続けた時間を過ごしていたのだろうか。


  未だに変わらず、真っ暗な日々であったのだろうか。

  今もなお、孤独に怯えていたのだろうか......。

  俺は、そんな今となっては想像でしか語れない失われた時間に対して、ゾッとする。


ーーだって、昔の俺は、自分の落ち度を反省する事すら出来ない浅はかな人間であったのだから......。


  実際は誰のせいでもなかった。

  捻くれて自ら塞ぎ込んだ自分が一番悪かったのだ......。

  そんな風に自分への戒めをしていると、キュアリスはゆっくりと家のドアを開いた。

  少しだけ埃がかったそのドアが開いた時、俺はハッとこの非現実的な現実に引き戻されたのだった。

「じゃあ、中に入って......。」

  キュアリスがそう促すと、俺達は玄関の方へと足を踏み入れた。


ーーはしゃぎ倒している桜と優花を横目に。


  その間も、相変わらずキュアリスは神妙な顔をしていた。

  何か悲しい過去を断ち切りたいとでも思っているかのように......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く