天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第212話 彼の国のこれから。


ーーーーーー

  ヘリスタディ帝国の王都から少し離れた場所にて出発前に俺たちは、まず始めに指揮代行であるポルに向けて、勝利の報告をした。

  マジックアイテムを通して伝えられたそれは、代表して森山葉月が行う。

「は、葉月さん。そちらの方は如何ですか......? お怪我はありませんか......? 」

  ポルの不安に押しつぶされそうな声を聞いた森山葉月は、ペンダントに口元を近づけると、ニコッと笑った後で、そんな彼女に向けて、ゆっくりとその問いに答えたのだ。

「うん、無事ですよ。私達はみんな......。」

  それを聞いたポルは、驚いたような口調で、もう一度問いかけた。

「と、言う事はつまり......。」

  森山葉月は、そんなポルに対して、高らかにこう言った。

「はい、『ベリスタ王国』は、勝利しました!! この、長い戦争に終止符が打たれたのです!! 」

  その報告を聞くと、ポルの背後からは割れんばかりの歓声が聞こえて来たのであった。

  喜びに満ち溢れた声を聞いた俺は、胸を撫で下ろす。

  だって、これだけ願って来た勝利なのだから。


ーー今まで何千、何万では効かぬ程の犠牲があった戦争......。


  それは、哀しみを生み出す他、何者でもなかった。

  戦争とは、人から大切な物を簡単に奪ってしまう。


ーー住み慣れた家も、見慣れた風景も、大切な人の命も......。


  俺は、そんな苦しみから『ベリスタ王国』の人々を本当の意味で解放できたことに、改めて安心した。

  すると、アイテム越しに湧き出す歓声を横目に、ポルはグスっと小さく涙声を出すと、それを堪えた後で、森山葉月にこう言った。

「本当に、本当にお疲れ様でした。余りにも強大で、太刀打ちする事など出来ないと思っていた『ヘリスタディ帝国』を倒してしまうなんて......。こんな歴史的な瞬間が今起きている事に喜びしかありません。帰りの道中、ゆっくりとおかえりください。国民の皆様からの祝福があるでしょう。」

  そんな、ポルの言葉を聞くと、森山葉月はそれに返事をした後で、通信を終わらせた。

  そして、俺達が『ヘリスタディ帝国』を後にしようとした時、背後からは物凄い勢いで走る足音が聞こえてきた。

  俺はその足音を聞いた時、もしかしたら敵国の残党である事を懸念した。

  そこで、光のオーラを全身に纏って勢い良く振り返る。


ーーもしや、まだ敵が......?


ーーだが、その足音の主は、

「待ってくれ!! 」

と、必死の叫びを上げて、土下座をしたのだ。

  そこにいたのは、紛れもなく麻耶だった。

  突然の出来事に動揺した俺は、焦りながらも彼女を見つめた。

  背後にいる生き残った部下達も、彼女同様、頭を地面に付けていた。

「もう、大丈夫なのか......? 」

  俺がそう問いかけると、麻耶は顔を上げる事なく頭を横に振った。

「体は、もう大丈夫だ。それよりも、一言だけ私に発言させてくれ!! 」

  彼女がそう必死に言っているのを見ると、俺は慌ててこう答えた。

「そ、それは良いが、とりあえず顔を上げてくれ。」

  俺がそう言うと、彼女は目を真っ赤に腫らした顔を見せた。

  その表情を見た俺は、彼女がこの国で経験した葛藤や苦しみをほんの少しだけ理解して、少しだけ泣きそうになった。

  すると、麻耶は俺に対して、どうしても伝えたかった一言をゆっくりと述べたのである。

「この国と、私達を救ってくれて、本当にありがとう!! 」

  彼女はそう言うと、深々と俺たちに向けて頭を下げた。

  それと同時に、部下や、彼女の真横へやって来た雪弥も同時に礼を述べた。

  俺は、そこで初めて自分のやってのけた事の大きさを理解した。

  だが、この戦争を終わらせられたのは、決して俺だけのおかげではない。

  沢山の犠牲者、それに、麻耶達を始めとする多くの『異世界人』や、この世界の人間によって達成したのだ。

  俺は、それを少しだけ手伝っただけであるのだ。

  それに、この国はこれからが大変なんだ......。


ーーだから......。


「気にする必要なんか何もないよ。只、俺から頼みたい事があるんだが......。」

  俺がそう言うと、麻耶は不思議な顔で首を傾げた。

「それと言うのは、一体......? 」

  彼女が問いかけると、俺は麻耶へと嘆願したのだった。

「今、この国はすべて失ったんだ。でも、『ロウディ』に戻ると、これからこの国を立て直す上で重要な頼れる人物がいる。だから、お前達には復興の為の手伝いをして欲しいんだ。」

  それを聞いた彼女は、狐につままれた様な顔をした。

「な、何を言っている......? 私達、『異世界人』は、この国に何をしたか分かっている?! それを考えたら、私達が復興に手を貸すなんて、出来るはずが無いじゃん!! 」

  それを聞いた俺は、ゆっくりと麻耶の元へと近づいて行き、右肩にポンッと手を置いた。

  モールは、心の底から国の事を考えていた。

  俺は、それが嘘偽りでない事をすぐに理解したのである。

  そんな男が、本心でぶつかった時、彼女らを咎めるであろうか......。

  それに、今この国には力が必要だ。

  ならば、『ヘリスタディ帝国』を思い、優しい気持ちを持つ麻耶を始めとした『異世界人』が妥当である。

「彼ならきっと、分かってくれる。この国には今、お前達の力が必要なんだ。だから、頼む。これは、俺からのお願いだ。」

  俺はそう言うと真剣な眼差しで彼女の目を見つめた。

  すると、俺の視線を見た彼女は、一つため息をつくと、小さく頷いた。

「恩人にそこまで言われては、仕方ない。それならば、この国が復興するまでの間、私達はこの国に力を貸そう。誠意を持って......。」

  それを聞いた背後の部下達は、規律正しく敬礼をした。

  そして、今だ背後で煌々と燃え上がる『ロウディ』の方を向くと、そのまま足を進めたのだった。

「皆さん、本当にありがとうっす!! 僕も、優花さんを招待出来るくらい立派な国になる様、頑張るっす!! 」

  それを聞いた優花は、途端に顔を赤くした後で、

「な、なに訳のわからない事を言っているの?! 」

と喚いた後で、顔を真っ赤にして満更でもない顔をしていた。

  桜は、そんな優花を見ると、ニヤニヤとしながら腕を掴み、

「いつから、二人は仲良くなったの~? 」

と、チャチャを入れる。

  それを聞いた優花は、照れながら桜の口を無理やり塞いだのだった。

「もう、何もないから!! 」

  そんなやりとりを横目に、俺は目の前にいる麻耶に向けて、こう言った。

「では、後は頼んだぞ。次にここへ来た時、笑顔に満ちている様な素敵な国になっている事を願っているよ......。」

  それを聞いた麻耶は、ニコッと万遍の笑みを浮かべると、

「任せてくれ。私は、この国の明るい未来の為に精一杯尽力してみせるさ。」

と、力強い口調で意気込みを見せた。

  それを最後に、お互いは逆の道を歩み始めた。

  それと同時に俺は、大好きなみんなに会うのが楽しみになったのだった。

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