天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第211話 私にとって。


ーーーーーー


  私は今、目を覚ました。

  最後の記憶は、私がトリヤマを倒した後の事だ。


ーー「俺は必ず戻って来る!! 」ーー


  私にとって一番大切な彼の口から出たその一言が脳内で木霊する。

  そういえば、「デートをしよう」とか言ってたっけ......。

  その言葉の意味を理解した時、仰向けで動けなくなった体の私は、顔を赤らめた。

  私と雄二って、一体どんな関係なんだろう......。

  そんな事を思っているうちに、私は頭がこんがらがっていった。


ーーでも、この胸の鼓動はきっと、彼に対するものなんだろうな......。


  私はそう思うと、真剣な表情で遠くを見つめる葉月の方に視線を移した。

  良く周りを見渡すと、その隣には桜と優花も同じ方を向いている。

  私はそれに気がつくと、その視線の先に目をやった。


ーー遠くに見える『ロウディ』の街は、見事な規模で闇に埋め尽くされていた。


  その光景を見た時、私は彼の状況を理解する。


ーーそっか、今雄二は戦っているんだっけ......。


  どうやら、雄二は苦戦している様だ。

  それは、葉月らの表情を見れば一目瞭然だった。

  皆、今にも泣き出しそうな顔をしている。

  それはつまり、イワイ・シュウスケの闇が雄二の光を侵食しているという事だろう......。

  もしかしたら、みんなその圧倒的な劣勢である光景を前に少しだけ不安を感じているのかもしれない......。

  でも、私はそんな状況の中でも根拠のない自信を感じていた。

  いや、これは自信ではない。


ーー確信である。


  私はそう思うと、無理やり体を起こした後で、唇を噛み締めて只、呆然としている三人の方へと歩き出した。

  そして、悲壮感の漂う三人に向けて、私はこう言って見せたのだ。

「雄二なら、大丈夫。だって、約束してくれたんだよ。『必ず戻って来る』ってね......。」

  それを聞いた葉月、桜、優花の三人は、一瞬だけ驚いた表情で私を見つめた後、ニコッと笑顔を見せた。

「そうですね......。私達が信じなくて、誰が彼を信じるのか分かりませんし......。」

  葉月がそう呟くと、桜は私の手をゆっくりと握りしめた後で、こう言った。

「うん。雄二は絶対大丈夫。だって、もうとっく桜にとっての『英雄』だもん! 桜を救ってくれた強い雄二が負けるはずなんかない!! 」

  桜が小さく震える手でそう言うと、私は彼女の手を強く握りしめた。

  優花も、桜を抱き締めながら精悍な顔つきで兄の姿を眺めている。

  私は、そんなみんなに対して、ふと、彼との日々を思い出す。


ーー彼は、天才だ。


  私が想像すらできないような事を、簡単にやってのけてしまう。

  頭も良くて、『異能』や『魔法』も群を抜いている。

  でも、彼にはその才能をふいにする欠点がある。

  それは、誰よりも人間らしい事だ。

  困っている人の事を、決して放っておけない性格なのだ。誰よりも優しくて、寂しがりで、涙脆い。

  それは、只、戦うだけの人間にとっては、弱点の他何者でもない。

  きっと、本当は一人で世界を変えられる程の力を持っている。

  でも、心が邪魔をした結果、彼は誰よりも弱い。沢山傷ついて、辛い思いをしている。

  だから、私はそんな雄二のそばにいたい。

  励ましてあげたい。

  労ってあげたい。

  いっぱい褒めてあげたい......。


ーーあの日、あの時、あの場所で雄二と出会ったのは、きっと運命なんだ。


  それこそが、私の使命なんだ。

  私は、人情深い、人間らしい雄二が大好きだ。

  だから、信じる事にしたんだ。


ーー世界中の誰よりも......。


  私がそんな事を思っている時、遠くで怪しく黒光りしていた闇は、激しい爆音と共に消え去って行った。

  そのかわりに、燦然と眩い光が『ロウディ』の街を照らしている......。

  それを見た時、私は確信した。


ーーこの戦争が、終わりを告げた事を......。


  それを見て呆然としている三人に目をやった私は、ぼーっとした表情で皆にボソッとこう呟いた。

「ほらね、雄二は最強なんだから......。」

  それを聞いた皆は、 相変わらず狐につままれたような顔をしている。

  きっと、現実味が無いのだろう。

  だって、私達はみんな、ずっと戦って来たのだから......。


ーー私もそう。


  周辺国家との戦争が激化した事で、私は青春を捨てた。

  同年代の友達が学舎で明るい日々を送っている間も、私はずっと戦い続けた。

  正直、「なんで私だけ、普通になれないの? 」なんて思い続けていたっけ。


ーー『聖騎士』なんて称号に、誇りなんて持った事は一度もなかった。


  その称号を捨てた後、一人で生きて行くって決めたんだ。

  でも、やっぱり一人は寂しかった。

  道の端に咲く綺麗な花も、燦然と輝く太陽も、挨拶したって返事は無かった。

  辛かった、哀しかった、意味もなく泣きたくなった。


ーー時には死にたくなる時もあった。


  ずっとその気持ちが私を支配していた。


ーーだからね、雄二。


  私はあなたに数え切れないほどの感謝をしているの。

  あなたのおかげで、初めて「生きてて良かった」って思えたの。

  私を暗闇から引っ張り出してくれたあなたに......。

  そんな時、『ロウディ』から一直線に、私達目掛けて真っ白な光の道筋が伸びて来た。

  私はそれを見ると、少しぼんやりとした『勝利』のふた文字が次第に現実の物となって行く事に気がついた。


ーーそっか、戦争はこれで終わりなんだ......。


  私はそう思っているうちに、段々と表情を歪ませて行った。

  だって、これで本当に『ベリスタ王国』は救われたんでしょう......?

  沢山の人々が犠牲になって、悲劇を続けて来たその戦争が......。

  そして、ようやく待ち構えた雄二は姿を現わすと、ボロボロになった体とは裏腹にハニカミながらこんな事を呟いたのだ。

「これで終わりで良いんだよな......? 」

  私は、そんな彼の一言を聞いた時、湧き出す感情を抑えられなくなった。


「雄二!! 」

  私はそう叫ぶと、彼を正面から思い切り抱きしめた。

  それと同時に、優花、桜も彼に駆け寄ったのだ。

  私は、彼の体から刻まれる鼓動と体温を感じると、堪えられない涙を我慢する事もなく彼が生きている事への喜びに浸る......。

  だって、間違いなく雄二は今、生きているんだ。

  雄二は、この戦争を終わらせたんだ。


ーー私の大好きな佐山雄二が......。


  それから私は、彼の胸の中で泣き続けた。

  すると、その時、雄二は私の頭を撫でたのだ。

  それと同時に私は顔を上げる。


ーー涙で視界が朧げな彼に目をやると、雄二は私にこう言ったのだ。


「キュアリス、俺は、この世界に来て初めて変われたんだ。それに、お前に出会えた。俺は臆病で情けない男かもしれない。これからだって、もしかしたら迷惑をかけるだろう......。だから、お前の存在が必要なんだ! だから......。」

  それを聞いた私は、一度目元をこすると、そんな彼の発言に対して、ゆっくりとこう返答をした。

「当たり前でしょ。私は、どこまででも付いて行くよ。命を懸けてでも、雄二を守る。だから、一緒に救おう。世界を......。」

  雄二は私の言葉を聞くと、途端に顔を赤くした後で、視線を逸らして、

「ああ、これからもよろしくな......。」

と、言ったのであった。

  そんな私達のやり取りを泣きながら見ていた桜は、ニコッと笑いながらこんな事を言った。

「うん、桜も雄二とキュアリスと一緒に世界を救いたい。それに、二人には......。」


ーー桜はそう言うと、ニヤニヤとしている。


  私は桜が言いたい事を理解すると、途端に恥ずかしくなって、

「や、やめてよ......。」

と、彼女を無理矢理制止した。

  そんな中、ふと、雄二の方に視線を移すと、彼は顔を赤くしながら笑っていた。


ーー私は今、青春をしている。


  失われた時間を紡ぐ様にして......。

  それは、余りにも歪で、非現実的なものだ。

  でも、これからも私は彼と共に戦う事を決意した。


ーー大好きな彼の為にも......。


  そう思っていると、葉月は私達に向けて、こう言った。

「雄二さん、キュアリスさん、桜さん、優花さん。本当にありがとうございました......。ようやくこの国の長い長い戦いは終わったのですね......。」

  彼女はそう言うと、その場に膝をついて泣き崩れたのだ。

  そう、この目の前にいる森山葉月。

  彼女は、『ベリスタ王国』の為に、誰よりも努力をし、悩み、苦しんだ人物なのだ。

  愛する人も失い、それでも彼の意志を継ぐ為に哀しみを心の奥に沈め......。

  それは、私なんかでは決して想像出来ない事柄である。


ーー『軍帥』としてこの世界に生きた日々は......。


  そんな葉月を見た雄二は、ゆっくりと彼女の元に近づくと、目の前にしゃがみこんだ後で、こう言った。

「お前がいなかったら、俺はここまで来れなかったよ。兄貴だってきっと喜んでいる筈だ。だから、この戦争の一番の功労者は、お前なんだよ。俺はそれを少しだけ手伝っただけだ。」

  それを聞いた葉月は、嗚咽を漏らして泣き叫んでいた。

  葉月、本当に良かったね。

  後、本当にありがとね。


ーー私は、あなたに感謝してもしきれないほどの恩があります。


  そして、雄二は立ち上がると、私達にこう宣言したのだった。

「じゃあ、帰ろうか!! 『ベリスタ王国』に......。」

  その言葉を最後に、私達は『ヘリスタディ帝国』を後にした。


ーー長い悪夢から目覚める様にして......。

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