天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第210話 戦争の終焉。


ーーーーーー

  俺はさっき、目を覚ました所だ。
 
  本来ならば、先程の攻撃を受けて死んでいた。


ーーだが、今、俺は生きている。


  それは、人間では到底及ばない程の存在によって、生かされたとも言えよう。


ーー俺は今、生きている。


  しかし、今はそれに喜びを感じている余裕は無かった。

  何故ならば、今まで見たことのない程の強者と戦っているからだ。

  その強者は、鋭い眼光を光らせて、俺の事を睨みつけている。


ーー茜色に染まる王都の中で......。


  しかし、恐怖は全く無い。

  怖いという感情よりも、正義感が先行するからだ。


ーーイワイ・シュウスケは、最強だ。


  先程、俺を殺した膨大な闇の攻撃だって、誰も太刀打ち出来ないであろう。

  でも、今目の前にいるイワイは、血まみれになって肘の付け根から先のない右腕を左手で掴みながら、俺を睨みつけている。

  俺は、彼との激しい攻防の中で、たったの一発だけ、彼の太ともを掠める事に成功した。

  だが、優位になった今でも、俺は少しだけ疑問系になる。

  この男を苦しめているのが、本当に俺自身なのかと......。

  俺は、自分の右手に光る『異能』を見つめると、そんな非現実的な状況を驚くのであった。


ーーまた、力が強くなった。


  あの理想の世界を捨てて、この場所へ戻って来てから......。

  それは、茨の道であると、『崩壊の神』は口にした。

  実際に、これまでだって、さっきだって、ずっと俺は傷つき続けている。

  これからもきっと、俺は辛い思いをする事であろう......。

  そう考えているうちに、俺は次第に笑みをこぼした。

「でも、ここに戻ってきて良かったよ。俺はまた、戦えるんだ......。」

  それを聞いたイワイは、口から血を吐くと、思い切り俺を睨みつけた。

「一体、何が起きたんだ......? 闇を発すれば発する程に、体内からは激痛が走る......。そんな事は、今まで一度もなかったよ......。」

  そう言って、もう一度闇のオーラを纏おうとしたイワイは、再び身体の中から襲い来るその激痛によって、叫びを上げて跪いた。

「何なんだ、これは......。」

  俺は、そんな苦しみを抱える彼に対して、得意げにこんな答えを出して見せた。

「さっき、お前は闇の『異能』を俺の体内に埋め込んで苦しめていたな。俺は、その攻撃を受けた時、気がついたんだよ。それならば光の『異能』だって、伝染するんじゃないかってな。まあ実際、さっきまでの俺の力では、お前に攻撃を当てる事なんて到底出来なかったが......。

  それを聞いたイワイは、息を荒げながらも、そんな話をする俺に対して、少し微笑を浮かべ、こう呟く。

「だからって訳か......。どうもお前、生き返った後からやけに力が増大していたのは、理解してはいたが......。使い慣れた闇の『異能』が使えないとなると、俺としても太刀打ちは出来ない。だが、俺はここで死ぬわけには行かないんだ......。」

  彼はそう言うと、全身に眩い真っ白な光を纏おうとした。

「どうしても闇が使えないと言うならば、お前のその力、利用させてもらおう。」

  彼がそう叫ぶと、俺は少しだけ構えた。

  もし仮に、イワイが光の力を利用した場合は、俺の方が経験の差で勝てる。


ーーそんな事を考えながら......。


  だが、そんな保険も、全く無意味なものであった。

  何故ならば、彼は、光の『異能』を利用しようと全身に纏った途端、叫び声を上げながら再び口から血を吐いたのだから......。

  どうやらイワイは、光の力を使う事は出来なかったのであろう。

  それは、この世界の人間が闇の力の強力さに打ちひしがれるのと同様に......。

  その後も、彼は痛々しいまでに他の『異能』の力に頼ろうとしていた。

  だが、それも全て無意味な物になった。

  どんなに足掻こうと、体を支配する光が彼の動きを邪魔し続けた。

  その結果、彼はどんどんと弱って行った。


ーー痛々しいまでに......。


「何故、『異能』が使えない......。これでは、俺の使命は果たせないじゃないか!! 」

  イワイは、血みどろになった口周りを左手で拭いながら、そんな風に怒りを露わにした。

  何度膝をついても、立ち上がり俺を睨みつけた後で......。

  俺はそんな状況に対して、一瞬だけ同情を抱く。


ーー哀れな男だと......。


  俺はそう考えると、一度周囲を見渡した。

  彼の周りには、この戦いで死んで行った多くの兵達の亡骸が点在していた。

  その後も、兵器として死体は利用され続けた。

  そんな現実を思い返すと、俺はすぐに同情する気持ちを封じ込めた。

  どんな事情があろうと、イワイという男が極悪人である事には変わりない。

  如何に今まで悲しい思いをしても、元国王によって苦しめられたとしても、多くの人々を殺した事実は拭えないのだから......。


ーーそれに、俺は大切な人を守りたい。


  だからこそ、もう振り向かない。

  どんなに惨めだって、どんなに情けない死に方をしたって、助けたい存在がいる。

  俺は、この世界に来て変わった。

  これは、俺一人の気持ちでは無いのだ。


ーーきっと、世界を救ってみせる。


  そう考えると、俺は右手に思い切り光の『異能』を込めてイワイの元へと走り出した。

  それを見たイワイは、苦しみながらも、最後の力を振り絞って、

「俺は、ここで死ぬわけには行かないんだ!! 」

と叫んだ後、自分の体も顧みずに無理やり光を蹴散らし、闇の『異能』で右手に込めた。


「やっと力が戻った!! 俺は、お前を殺して念願を叶えるんだ!! 」

  彼はそう叫ぶと、向かい来る俺の方へと走り出した。

  それから二人が拳を突き出した時、光と闇は交錯したのだ。

  その後、長い間、光と闇のオーラはぶつかり合った。

  だが、俺が光を込める度に、イワイの闇はどんどんと薄れて行った。

  そして、イワイから力が感じられなくなった時、俺の拳は彼の右頬を殴打したのであった。

  それと同時に、周囲は目を覆いたくなるほどの眩い光が包み込む。

  イワイは、その攻撃に耐えられる事なく、そのまま王宮の方へと突き飛ばされて行ったのだった。

  余りにも強大な力によって突き飛ばされ薄れて行く意識の中で、ふと、イワイは走馬灯の様に過去の事を思い出す。

  小学生の時に事故で死んだ父と母、邪魔者扱いをしてたらい回しにされた親戚、簡単に人を貶める同級生、自分の欲望に走って自分を利用した元国王......。

  彼は、人間の汚い部分を嫌という程見て来た。

  それが故、人が大嫌いになった。

  人間なんか、全て死んでしまえと思っていた。

  でも、いつも心の奥で邪魔する事がある。


ーー彼は、人を殺せば殺す程に、抑えきれぬ程の切なさや寂しさが込み上げて来るだ。


  彼は、『嫉妬の神』によって、この世界で暴れまわる事を運命付けられた。

  だが、ずっと思っていた。分かりきっていた。

 
ーー彼は、心の底から人間が大好きなのだ。


  しかし、それはすぐに浮かんでは消える曖昧な感情である。

  あの日、あの時、自殺してしまったクラスメイトの少女が笑顔で言った言葉が脳内で木霊する。


ーー「助けてくれて、ありがとう。」ーー


  彼は、その言葉と共に、自分の仕出かしてしまった事の大きさに後悔をした。

  人を愛し過ぎたのかもしれない。

  だから、独り占めしたかったのかもしれない......。

  そんな捻くれた感情が彼を支配した時、イワイはもうすぐ終わってしまう人生を悟った時、彼の目の前には『歪み』が現れた。

「何をやっておる!! 貴様は我輩の念願を叶える為に、この世界に来たのではないか!! ならば、もう一度生き返ってもらおうではないか!! そうすれば......。」

  『歪み』の先からそう必死に説得をする『嫉妬の神』に対して、イワイは動かなくなった体で弱々しくこう呟いた。

「もういいんだよ......。俺は、全てを間違えていたんだ......。本当は誰よりも人を恋しく思っていた......。それを否定する為に取った行動によって、俺は沢山の人々を殺めたんだ......。」

  俺は高速移動して仰向けに倒れているイワイのそんな言葉を聞くと、トドメを刺そうと構えていた刀を納めてそれを静かに聞いていた。

  そんな俺に気がついた様で、イワイは小さな声で俺に向けてこう言った。

「死ぬ間際までそれに気づけないなんて、俺は本当に愚かな人間だよ......。結局、一番人間らしいのは、俺だったんだ。自分の感情に忠実になって......。」

  俺はそれを聞くと、説得を続ける『歪み』を無視してゆっくりとイワイの方へと向かっていった。

「確かに、お前の取った行動は、最低な物だ。でも、これで終わりだよ。お前はやっと、素直になれたんだ。俺は、お前を一生忘れない。こんなに哀れで惨めな人間を忘れられる訳がないだろう......。」

  俺がそう言うと、イワイは小さく微笑んだ後で、こんな事を口にした。

「随分言ってくれるな......。でも、お前には感謝したいよ......。このまま俺が馬鹿な考えを持って進み続けたとした、多分、この世界は滅びていたであろうから......。その時、後悔した筈だ......。『なんて愚かな事をしてしまったのだろうか』ってな......。」

  イワイはそう呟くと、最期にこう言った。

「大きな過ちによって、俺は多くの人々を殺してしまった......。きっと、そんな存在は世界中にいる筈だ......。だから、お前が『英雄』としてそんな世界を救ってくれ......。俺みたいには絶対になるなよ......。」

  俺は、死ぬ間際で放たれたイワイの言葉を聞き終えると、大きく頷いて、

「当たり前だ、約束しよう。俺が、この世界を救ってみせるとな......。」

と、宣言をした。

  それを聞いたイワイは、ニコッと笑った後で、

「では、俺は仕出かした多くの罪を償いに行ってくるな......。」

と言って、静かに目を瞑った。

  俺は、それを最期にイワイが死んだ事を悟った。

  不思議と泣きそうな気持ちにさせられた。


ーーあまりにも惨めで、哀れで、同情すらしてしまうほど、残酷な人生を歩んだ彼の亡骸を見ると......。


  だが、そんな中、相変わらず『歪み』の中から怒り続ける『嫉妬の神』は、諦めていない様だった。

「くそ!! こんな所で死んでもらっては困る!! こうなったら、神々の協定には反するが、我輩自らが貴様らを殺してやる......。」

  彼はそう叫ぶと、『歪み』から現れてその姿を初めて見せたのであった。

  シルクハットにタキシード姿の神は、姿を現わすや否や、周囲から闇を纏い出した。

  それはまるで、この世の終わりとも捉えられる程に圧倒的な物であった。

「では、手始めに貴様から殺すとしよう......。」

  彼がそう叫んで闇を全身に纏った時、俺は絶対にこの男には勝てない事を悟った。

  多分、この世界の誰も神には勝てない事も本能的に理解した......。


ーーしかし、そんな時だった。


ーー「『嫉妬の神』よ......。余りにもおイタが過ぎませんか......? 」ーー


  そんな言葉が俺の耳を掠めた後で、ふと、前に視線を移すと、『嫉妬の神』の周囲からは今まで見た事がない程の膨大な『歪み』が彼を包み込んでいた。

  それと同時に『嫉妬の神』は、「やめろ!! やめろ!! 」と、激しい叫び声を上げていた。

  だが、その叫びも虚しく、『嫉妬の神』はみるみる内に『歪み』の中へと誘われて行き、気がつけば目の前にいた筈の彼は綺麗さっぱり姿を消してしまっていたのだった。

  そこからは入れ替わるようにして真っ白な光を纏っている巫女姿の『崩壊の神』が現れた。

  その、余りにも神々しい姿を見ると、俺は見慣れている筈の彼女の姿に見惚れてしまっていた。

  そんな呆然としている俺に対して、彼女は気にも留めることなくこう言った。

「『嫉妬の神』は、神々の協定違反によって、これから尋問を受ける事になります。もう二度と、この世界に現れる事は無いでしょう......。」


ーー『崩壊の神』がそう呟くと、俺は全てを理解した。


  俺がこの世界に来てからずっと、愛する人を苦しめ続けた『ヘリスタディ帝国』。

  その存在が今、この瞬間に消え去った事に......。


ーーそれと同時に、気がついた。


「という事は......。」

  俺がそう呟くと、『崩壊の神』はニコッと笑った後で、その答えを口にした。

「そうですね、この戦争は終わったという事になります。正直、神同士のいざこざに人間を巻き込んでしまった事は、反省しておりますが......。」

  『崩壊の神』が口にした言葉を聞いた俺は、その意味を理解した後で、その場に跪いた。

「戦争は、終わったんだな......。」

  『崩壊の神』は、泣き崩れてそう言った俺に対して、膝をつきゆっくりと頭を撫でると、こう呟いた。

「本当にお疲れ様でした。あなたによって、『ベリスタ王国』と『ヘリスタディ帝国』は救われたのです。」

  俺は、はっきりと彼女の口から出た言葉に対して、涙が止まらなかった。

  ようやく終わったんだ。


ーーこの戦争は......。


ーーようやく......。


  そして、俺がその余韻に浸っていると、『崩壊の神』はゆっくりと立ち上がると、俺にこう告げた。

「両国が救われたのは事実です。しかし、あなたは自らこの世界に残り、『英雄』になる事を選んだ。これで終わりではありません。まだ世界中には、多くの悪意が点在しております。これからも、その強大な力に立ち向かうと約束してくれますか......? 」

  俺は、そんな彼女の言葉に対して、涙を拭ってゆっくりと立ち上がると、最高の笑顔でその問いに自信を持ってこう答えた。

「分かっているさ!! いつか俺は、この世界を救う!! だから、その時まで、宜しく頼んだぞ!! 」

  『崩壊の神』は、俺の自信に満ち溢れた言葉を聞くと、ニコッと笑った後で、

「期待しています。これからも私を楽しませ続けてください。」

という言葉を残してその場から去っていった。

  俺は、すっかりと『崩壊の神』が消え去った後で、その場に立ち尽くしてもう一度余韻に浸った。

  俺が、俺達がこの国を救ったんだ......。


ーー他の誰でも無い、俺達が......。


  そう思うと、俺はその喜びを胸に、歩き出した。

  大好きな仲間達の元へと......。


ーーしかし、そんな時だった。


「ハハハ!! 良くやったぞ、佐山雄二!! これで、もう一度我らの王位復帰は現実のものとなった!! 」

  俺の背後からはそんな卑しい口調の男の声が聞こえた。

  その声に反応した俺は、慌ててそちらの方を振り返る。

  すると、そこにはイワイの遺体の顔を踏み躙りながら悪意に満ち溢れた笑顔を見せる元国王の姿があった。

  俺は、激しい戦いの中で、すっかりとその存在を忘れていたのだ......。


ーー俺を騙し、欲に塗れた軽蔑すべき存在を......。


  彼はそんな俺の憎々しい程の怒り顔を見ると、余裕の表情を浮かべた後で、こう言って見せた。

「まあ、お前に出会ってオーラを見た時点で分かっていたよ!! イワイのクズをぶっ殺してくれる事くらいは......。だからこそ、我は嘘の計画をお主に教えた。これから、我々の最終兵器によってお前をこの場で命を落とすであろう......。」

  彼がそう宣言すると、合図とばかりに王宮の周囲は崩壊して行く。

  それと同時に、亡骸であるイワイはゆっくりと目を開いて立ち上がったのだった。


ーー膨大な闇を纏いながら......。


  どうやら何らかの細工を仕掛けた様で、イワイの力は先程よりもずっと強大な物になっていた。

  それを象徴する様に、俺の光は、見事に闇に埋もれて消えて行ったのだ。

  元国王は、ハナから俺がイワイを殺す事を想定していた。

  きっと、俺が『ロウディ』辿り着くずっと前から彼はこの場所にいたのであろう......。

  そんな中で、機を見計らっていたのかもしれない。

  俺がイワイを倒すその瞬間を......。

  だが、そんな悪意に満ち溢れた彼の行動に、俺は全く恐怖を感じなかった。

  むしろ、この場所でこの男を倒す事に息巻いていた。

  この国を潰した全ての元凶である彼を見ると......。


ーーしかし、そう決意を固めた時、元国王の背後からは鋭利な刃物が胸元を貫いた。


  それと同時に元国王は苦悶の叫びをあげながらその場に倒れた。

  真っ赤な血を流しながら元国王がその場に倒れると、周囲の闇は次第に消えて行った。

  俺は一瞬何が起きたのか分からずにその刃物を立てた張本人の方へ目をやると、驚愕した。

「僕はずっと、お父様の事が大嫌いでした。欲望の為なら人を簡単に殺してしまう......。」

  そう言ってこちらにお辞儀をしたのは、紛れもなくあの日、俺が助けた王子、モールであったのだ......。

  その後で、彼の眼差しを見た俺は、モールという男の考えをすぐに理解した。

  彼が、彼こそがこの『ヘリスタディ帝国』に住む国民の事を心から考えている唯一の存在である事に......。

「ありがとな、モール。」

  俺がそう礼を述べると、モールは笑顔でこう答えた。

「お礼を言うのは、こちらの方です。この国を救ってくれたのは、紛れもなくあなたなのですから......。これからはそんな努力に恥じぬ様、『ヘリスタディ帝国』の明るい未来の為に精一杯頑張る事を誓います。」

  それを聞いた俺は、ニコッと笑った後で、王宮を後にした。

「また遊びに行くな。」


ーーその言葉を最後に......。


  ふと、振り返ると、遠ざかっていく彼は、ずっと頭を深々と下げ続けていた。

  俺はそれから、キュアリス達が待つ場所を光の道筋を頼りに目指した。


ーーきっと、この国は平和になる。


  どれだけの時間を有するか分からないが......。

  だが、モールのあの眼差しがある限り、絶対に近い将来......。

  そんな風に考えると、俺は途端にみんなの顔が見たくなった。


ーー大好きなみんなを......。


  そして、ニコッと笑いながら独り言を呟いた。

「じゃあ、帰るとしようかな。『ベリスタ王国』に......。」

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