天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第209話 彼の目指すもの。


ーーーーーー

  胸元が貫通して大の字で仰向けになり、生き絶えた様子で目を瞑る佐山雄二の姿を見ると、イワイ・シュウスケは己の勝利を確信した。

  ピクリとも動かない彼の表情は、無表情ながら、何処か悔しさを滲ませている様にも思える。

  そんな彼に対して、イワイ・シュウスケはゆっくりとこんな事を口にした。

「この男との戦いは、俺にとっても苦痛でしかなかったよ。あれだけ人を殺して来た俺でさえ、何処か躊躇してしまうほど、この男の意志は真っ直ぐだった。」

  イワイがそんな事を呟くと、彼の隣からは再び『歪み』が現れる。

「イワイ、らしくない事を言うではないか。貴様は人間が嫌いで、この世界に転移して来たのであろう。それは、紛れも無い事実。だから、余計な雑念を抱くであるまい。まさか、まだ貴様はこの男を利用する気持ちでいたのか......? 」

  それを聞いたイワイは、深くため息をついてこう呟いた。

「俺は、故郷へ帰れない。それはそうだ。覚悟を持ってこの世界に転移して来たはずだった。だが、どうも最近の俺はおかしい。元いた世界の人間の顔を、ふと、思い出すのだよ。しかも、それは人を貶める悪意ばかり。お前はもう、俺を転移させる力を使い果たしたと言っていた。ならば、この男を利用して元の世界から破壊しようと考えていたのは、紛れも無い事実だ。」

  『歪み』の中でそれを聞いた『嫉妬の神』は、姿を現わす事なく彼の話に苦笑いした様な口調でこう反応する。

「それを言われるのは、少し酷な話だ......。我輩も古参としてこの世界に長くいた者。それにも関わらず、神々の協定によって力を制限されてしまっている事が歯痒いのも事実だ。だから、こうして貴様らの力を利用しているのではないか。それに、元々の契約では、この世界の人間を貴様が殺す意志があったからこそ、成り立っているはず。今更それを覆して元の世界を破壊しようなど、言語道断ではあるまいか......? 」

  そんな発言をした『嫉妬の神』に対して、彼はほんの少しだけ怒りを露わにする。

「そうやって、常に自分の事だけを考えているお前の態度は昔から気に食わないんだよ。俺の成し遂げようとしているのは、本当の意味で世界を救う事。人間という者は、世界にとって害。それによって、今までどれだけ世界が犠牲になってきたかを考えると、ヘドが出る。」

「ならば、もし仮に貴様がそれを成し遂げた時、どうするつもりなんだ......? 」

  食い込み気味に『嫉妬の神』がそう問いかけると、イワイは精悍な顔つきでその問いに答える。

「その時は、仲間を殺した後で、俺も死ぬつもりだ。」

  それを聞いた神は、彼の考える異常性に対して引き気味にこう言った。

「相変わらず、お前の考えは人には到底理解出来ない。まあ、どちらにせよ我輩は我輩の目標を達成できればそれで良いのだが......。」

  神がそう呟くと、イワイは再び死んでいる佐山雄二の方へ視線を移した。

  その後で、まだ周囲に点在して闇を纏う兵の亡骸達に闇の力を込めさせた。

「とりあえず、この男を完全に消滅させなければならないな......。」

  彼はそう言うと、禍々しい程の闇の『異能』を、操る兵達と共に彼の遺体に向けると、トドメを刺すべく放つ準備を始めた。

「大丈夫だ。お前も、お前の仲間も、全て俺が平等に葬り去ってやるから......。」

  そう言ったのを最後に、彼はその膨大な闇を、四方から彼に向けて勢い良く放ったのだった。

  これで、俺の念願を最も邪魔する男の人生は、終わりだ......。

  そう思うと、彼は佐山雄二に向けて無限に闇を放ち続けた。

  彼の亡骸が完膚なきまでに砕け散るまで......。

  そして、イワイがその手を止めて彼の遺体がある場所を見つめると、そこは陥没し、地面奥深くまで穴が空いていた。

  そこからは煙が立ち、少しだけ焦げ臭い匂いが漂う。

  それを見て、彼は確信した。

  これで、余りにも厄介な相手である佐山雄二を供養して見せたと......。

  そう考えると、彼はその穴から背を向けた後で、彼の逃した仲間達を殺す為に、『ロウディ』を後にして光の道筋を辿ろうとした。


ーーだが、その時だった。


  彼の背後からは、眩い光が差し込める。

  それに気がついたイワイは、慌ててそちらの方に目をやった。

  すると、その光によって照らされた兵の亡骸たちは、ドサドサと音を立てて倒れていった。

「一体何が......? 」

  イワイはそう呟くと、その光の源と思われる空の方に目をやった。

  そして、彼はその正体を見て驚愕した。

  何故ならそこには、念には念を押して殺した筈の佐山雄二が光を放ちながらこちらを睨みつけているからである......。

「ど、どうしてだ......。お前は今、この俺が殺した筈では......。」

  彼がそう動揺していると、佐山雄二は何も言葉を発する事なく辺りに漂う闇に向けて膨大な光を放って見せた。

  それと同時に、街全体を支配していた筈の闇は、木っ端微塵に消え去って、夕焼け空が顔を出したのだ。

  佐山雄二は、そんな風に動揺を隠せないイワイ・シュウスケを見ると、ニコッと笑った後で、こんな事を呟いた。

「もう絶対にお前には負けない。俺は、世界を救う為にここへやってきたのだから......。」

  イワイ・シュウスケはそれを聞くと、視界の開けた王都『ロウディ』を見渡すと、彼と同じ様に笑顔を見せた後で、こう返答をした。

「どうやら、お前は余程神に愛されている様だな......。」

  イワイ・シュウスケはそう言うと、彼の強い気持ちに立ち向かう為にも、体に力を込めるのであった。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    ゆうじが死んだ時点でイワイの思い通りで簡潔でよかったと思うのだけど。

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