天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第206話 やっと二人に。


ーーーーーー

  イワイ・シュウスケは、闇によって生成された右腕をゆっくりと俺の方へ向けると、ゆっくりと掌を開いた。

「お前は、少しだけ骨がありそうだな。
それならば、今から見せてやろう。俺の本当の力を......。」

  彼はそう呟くと、その手の中に巨大な鎌を作り出した。

  それと同時に、夕暮れ時の筈の空中は、真っ黒な雲とも形容出来る闇が『ロウディ』の街全体をすっぽりと覆い隠した。

  それと共に、周囲の景色はぼんやりしたものになって行く。


ーーまるで、この世の終わりの様に......。


  すると、そんな中、地上で行われていた筈のキュアリスとトリヤマの戦いは終わった様で、完全に爆音が止んでいたのを確認出来た。

  それに気がついたイワイは、一度地面を睨みつけた後で、こんな事を呟く。

「またひとり、この国の重要人物が倒されて様だな......。」

  その、余りにも冷静にそう言った彼の言葉を聞くと、俺はキュアリスが勝った事を確信した。

  長い時間の戦闘であった為に、彼女の身を案じる所ではあるが、俺にはそれ以上に心配なことがあった。

  それは、イワイ・シュウスケの作り出した闇が空を網羅しているという事実である......。

  俺は、そんな状況の中で、何とか地上にいるキュアリスや桜、優花に森山葉月へ弊害が起きぬ様にと、全身から光を繰り出すと、それを巨大化させて空へと放ったのだ。

  だが、余りにも広範囲で分厚いその闇を前には、俺の光は無意味のものと化したのだった。

「お前の考えはよく分かるよ。下にいる仲間に被害が及ばない様にしようとしたのだろう? でも、それは無駄かもしれないな。俺は、お前達を全員殺すつもりでいるのだから......。それならば、手始めにあいつらから殺してやろうか。」

  彼はそう宣言すると、上空に広がる闇で数十発のメテオを彼女らがいるであろう坂の下の辺りに際限なく放ったのだ。

  俺は、そんな彼の攻撃に対して、慌てて高速移動して地面に降り立つと、戦いを終えたばかりで森山葉月から治療を受けているキュアリスの前に立って、アーチ状に広がる分厚い光のバリアを作った。

  そのメテオが俺のバリアにぶつかると、激しい轟音が辺りを破壊しながら響き渡った。

  俺は、何とか彼女らを助けられた事を確認すると、焦りを見せる桜の方に目をやった。

「なんか、おかしいよ。いきなり、お空が真っ黒になっちゃって......。折角、キュアリスが何とかトリヤマを倒したばかりなのに......。」

  俺は、そんな風に涙目で訴えかける桜の方に一瞬目をやると、少し先で倒れるトリヤマの存在を確認した。

  彼は焦げ付いた体で気絶しているものの、何とか俺のバリアの範囲内にいたのが相まって、メテオを受けずに済んでいた。

  例え敵とはいえ、仲間に殺されるなど、酷だと思っていたので、俺はそれに一安心をする。

  すると、そんな風にバリアを張りながら安心している俺に対して、森山葉月はこんな問いかけをした。

「今は一体、どの様な状況なんですか......? 私自身も、これ程に広範囲で『異能』展開する人物など、今まで見た事がありません......。」

  そんな風に気を失っているキュアリスに治療を続けながら俺の方を向く彼女と、その背後で涙目になっている優花に目をやると、俺はこの場で彼女達が留まることは危険という判断をした。

「すまない、どうやらイワイ・シュウスケは、今まで戦った敵の誰よりも強いみたいなんだ。それも、段違いに......。だから、お前達は全力で逃げてくれ!! 俺は大丈夫だから!! 」

  俺がそう提案をすると、森山葉月は一瞬だけ考える表情を見せた。

  その後ですぐに微笑むと、小さく頷いた。

「まあ、どちらにせよ、彼を倒さない限りは、この戦争に勝利したとは言えません。絶対に勝ちましょうね! 」

  森山葉月がそう答えると、俺は微笑み返した。

  桜と優花に関しても、少しだけ心配そうな顔つきをしながらも、それに賛同してくれた。

  そんな時、仰向けで倒れているキュアリスは虚ろな表情で目を覚ますと、ニコッと俺に向けて笑った。

「雄二......。私、頑張って戦って勝ったよ......。」

  俺はそんなキュアリスの一言を聞くと、相変わらず降り注ぐメテオの中で、一瞬だけ泣きそうになった。

  それと同時に、出会いからの日々が走馬灯の様に蘇る......。

  数奇な運命によって導かれた彼女との日々を......。

  彼女は、一人ぼっちで、弱々しい存在だ。

  でも、人一倍正義感が強い。

  これまでも今も、俺の心の支えは、ずっとキュアリスなのだ......。

  そんな彼女は、『異世界人』でもないのに、圧倒的なトリヤマを倒したのだ。


ーー自分の命も顧みずに......。


  俺は、そこまでして支えてくれる彼女を見ている内に、自然とボロボロで意識が虚ろな彼女の頬に手を伸ばした。

「本当にありがとう。俺は、キュアリスのおかげでここまでやって来れたのだと思う......。俺はきっと戻って来る。そうしたら、今度デートでもしようぜ! 」

  彼女は、弱り切った視線で俺を見つめると、小さく微笑んだ。

「デートか......。なんか、それだと恋人みたいだね......。でも、楽しみにしてるね。だから、絶対に勝って......これは、約束だから......。」

  彼女はそう答えると、震える体で右手を俺の方に向けると、ゆっくりと小指を立てた。

  俺は、そんな彼女の小指を見ると、それに自分の小指を重ねた。

  すると、それを最後に再びキュアリスは気を失うのだった。

  俺は、そんな彼女を見ると、泣きそうな気持ちをグッと堪えた後で、メテオを放ち続けるイワイの反対の方へと、バリアでコーティングした光の道筋を立てた。

「じゃあ、後は頼んだぞ。極力遠くまで逃げてくれ。ヤツの攻撃が影響を及ぼさない範囲まで......。」

  俺がそう言うと、森山葉月は頷いた後で、キュアリスを背負った。

  続けて優花が完全に気を失っているトリヤマをその場所まで引きずってくると、桜は必死にそれを手伝っていた。


ーーそして、全てが揃った時、去り際に桜が笑顔で俺にこう告げた。


「桜は、雄二とキュアリスが大好きだよ。だから、絶対に死んだりしないでね! 大切な『家族』なんだから!! 」

  その言葉を最後に、彼女達は光の道筋に入り、消えて行った。


ーーそれにしても、イワイの攻撃は余りにも安易過ぎやしないか......?


  奴が接近して来たことも考えて、警戒はしていたのだが......。


ーーそれってつまり......。


  俺は、どんどんと小さくなって行くその姿を見ながらそう考えると、再びイワイ・シュウスケの方へと目をやった。

「なんか、こんな状況じゃなかったら、俺は、お前と仲良くなれたのかもしれないって思ったよ。」

  未だにメテオを放ち続けるイワイ・シュウスケは、俺の口から出た予想外の言葉に対して、少しだけ首を傾げた。

「それは一体、どう言う意味だ......? 」

  彼がそう問いかけると、俺はニヤッと笑いながらその意味を説明して見せた。

「だって、今の状況ならば、俺たちを殺す事なんていつでも出来たはずじゃないか。まずそもそもが、これだけの『異能』を展開出来る人間が、接近もせずに只、回避が出来る安易な攻撃を続けるなんて、考えづらいからな。」

  そんな俺の見解に対して、イワイはメテオを放つことをやめた後で、否定をした。

「よく分からないな。俺は元よりずっと、お前達を殺すつもりでいた。」

  そんな風に否定を続ける彼に対して、俺は万遍の笑みでこう言って見せたのだ。

「実はお前、人恋しいだけなんじゃないか......? 」

  それを聞いたイワイ・シュウスケは、みるみるうちに怒りの表情へと変わって行った。

「お前、俺を馬鹿にしているのか......? 」

  怒りに震えるイワイを見ると、俺は、得意げな顔でその問いにこう答えた。

「怒っているあたり、どうやら真理だったみたいだな......。」

  イワイは、俺のそんな言葉を聞くと、目にも留まらぬ速さで上空から俺目掛けて鎌を突き立てた。

  突然のイワイの攻撃に、俺は慌てて光の刀を作り上げて何とかその鎌を抑えた。

  接近してきたイワイは、鬼の形相で俺を睨みつけながら、こんな風に怒りを露わにした。

「お前、二度とそんな事を口に出来ないように、殺してやる。」

  俺は、そんなイワイの怒りに対して、こんな風に返答した。

「まあ、どちらにせよ、決着はつけなければならないからな......。」

  俺は、そう呟くと、一度彼から間合いを取った後で、全身に力を込めた。

  それを見たイワイも、同様に街全体を闇に包み込んで行く。


ーー俺は、それに負けぬ様に全力で光を広げて行き、闇をかき消した。


「じゃあ、やっと二人きりになった事だし、全力を出すとしようか。」

  俺はそう宣言すると、更に広範囲に光を作り出した。

  気がつくと、街は綺麗に光と闇に二つに分かれていた。

  そんな中、俺はよく分かっていないことがある。

  普通に考えれば強大な力を持った彼を前にして絶望的だった筈の先程とは打って変わって、今は自信が体内から押し寄せている。

  それに、何故かは分からないが、全身から力がみなぎってくるのだ。

  理由は分からないが、これでやっと五分五分になった。

  俺はそう確信すると、決着を付けるために戦いへ身を投じたのであった。

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