天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第205話 一番の犠牲者。


ーーーーーー

  俺は、その映像を見終えると、イワイに向けて手鏡を投げた。

  イワイはそれを真っ黒な右手で受け取ると、『歪み』の中に仕舞う。

  手鏡が完全に飲み込まれると、その『歪み』は綺麗さっぱり消え去って、彼の姿のみが空の上に明瞭に見えるのであった。

  その後で、俺は少しだけ考える。

  イワイ・シュウスケは、この世界に来てすぐに『ヘリスタディ帝国』の全ての責任を背負わされた。

  その為の代償として、数多の傷を負って、彼はボロボロになって行ったのだ。


ーー元国王の責任で......。


  その国は、たった数名の犠牲者を作る事で巨大化して繁栄を繰り返したのである。

  彼によって見せつけられたその現実を知ると、不覚ながら人に対する不信感を抱く感情を少しだけ理解した。

  つまり、彼はその事案が決定打となって国家の転覆を始めたのだ。


ーーそれは事実。それは事実なのだが......。


「だが、お前は元々人間を潰す為にこの世界にやって来たんだろ......? わざわざ元国王の命令に頷き続ける必要があったのか? 」

  彼は、そんな俺の問いに対して、真剣な眼差しを向けた。

  その後で、こうボソッと本音を漏らす。

「心外ではあるが、俺も人間だからな......。」

  イワイの口から出たその言葉を聞くと、俺は少しだけ彼の心の声を聞いた気がした。

  彼は、この世界に来て、人の浅ましさや、欲深さ、心に潜む悪を強く感じたのであろう......。

  人は、矛盾する生き物だ。

  もしかしたら、イワイは期待していたのかもしれない。


ーーこの世界で変われる事を......。


  しかし、彼は環境が悪かったのだ。

  『崩壊の神』の転覆だけを目的とする『嫉妬の神』、強大な力を手にして欲に負けてしまった元国王......。

  その二人の板挟みにあってしまった結果、こんなにも理不尽な結末が待っていたのだ。

  今の彼は、人を恨んでいる。

  心の底から。

  悪事だって繰り返し続けている。


ーー悲劇は続く。


  そこで、俺は葛藤をした。

  こんなに惨めで哀れな男を、倒してしまって良いのだろうかと......。

  確かに、彼は多くの人々を犠牲にした。

  それは余りにも許されざる行為だ。

  だが、イワイ・シュウスケという男の人格の一部を作り上げてしまったのもまた、この国の人々なのは事実である。

  俺がそんな風に気持ちを揺るがしていると、イワイ・シュウスケはおもむろに全身に闇のオーラを纏ったのだ。

「まあ、そんなに哀れむ必要はない。俺の覚悟はダイヤモンドよりも硬いよ。幾らお前が俺に同情しようと、その結果は永遠に変わる事はない。元より、その為に転移したのは、紛れも無い事実なんだ。だから、はっきりと言おう。」

  彼は、そう前置きをすると、清々しいまでに真っ直ぐな表情で、俺にこう宣言をした。

「俺は、人間を潰す! 例外なく、お前もな! 」

  それを聞いた俺も、少しだけ心に抱いた葛藤を無理やり心の奥に仕舞い込んだ。

  そして、決意を固める。

  俺は、全力でイワイ・シュウスケと戦う事を。

  ある秘策を画策している元国王のやって来る前に倒そうと。

  その後で問おうではないか。

  彼に対して元国王が犯した罪について。

  国家の先の事など、今は誰にも分からない。

  しかし、一つだけ分かることがある。

  きっと、このままイワイが国王を続ければ、彼は突き進むであろう。


ーー最悪の未来へと。


  それに、俺は『ベリスタ王国』の総意も背負ってしまっている。

  もう、余計な事を考えるのはやめよう。


ーー俺は、イワイを倒す。


  只、それだけだ。

  敬意を持って挑もうではないか。

  俺はそんな事を思うと、もう一度、光のオーラを纏った。

「イワイ、お前の中にあった悲劇はよく理解したよ。もし仮に、俺も同じ境遇だったとしたら、お前と同じ道を歩んでいたかもしれない。でも、やっぱり俺は、人が大好きだ。だから......。」

  イワイは、俺の言葉を聞くと、小さく微笑んだ。

「お前みたいな甘い奴がいるから、俺は人が嫌いなんだ......。」

  その言葉を最後に、二人の微妙な間合いには、沈黙が流れた。

  それは、真逆の考えを持った二人の対立を意味する。

  もう二度と分かち合えない現実とともに......。

  そして、本当の意味での戦いは始まった。


ーーお互いの気持ちがぶつかり合う本当の意味での戦いが......。

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