天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第203話 彼の右腕の秘密。


ーーーーーー

  俺は、闇に支配されかけた王宮の庭にて、イワイ・シュウスケを攻撃し続けていた。

  しかし、その闇は思いの外視界を遮り、目の前の景色は一寸先も見えぬ程に暗がりとなっていた。

  それは、俺の光すらも飲み込む程に膨大である。


ーーまるで、この世界にたった一人取り残されてしまった様に......。


  俺はそんな状況に焦りを抱くと、一度間合いを取ろうと、その闇の中から体を解放するため、光の道筋を立てようとした。

  だが、そんな時、俺の左足には何らかの鋭利な刃物が突き刺さった。

  俺はそれを感じると、痛みを感じながらも必死でその者を掴み、思い切り殴りつけた。


ーーすると、俺に対する攻撃は一度止んだ。

  
  それに対して、俺は慌てて光の道筋を立てて、闇の外へと逃げたのである。

  上空高くに舞い上がると、夕暮れが広がっていて、巨大な王宮はすっぽりと闇の中に隠れてしまっていた。

  俺はそれに対して、少しだけ懸念をする。

  このままでは、攻撃のしようがない......。
 
  しかも、左の太ももの辺りからは血が滴っていた。

  そんな攻撃の跡を見ると、俺は更に痛みを感じる......。


ーーすると、その傷口からは、今も闇を少し帯びていて、体全体に広がって行った。


  それと共に、体全体は内部から激しい痛みを伴った。


ーー闇が俺を支配していく感覚に苛まれる......。


  しかし、それに抗う事は出来ず、段々と俺の周囲からは真っ黒の闇のオーラが現れて行った。

  その時、俺は以前キュアリスが説明していた言葉を思い出す。


ーー「この世界の人間が闇の『異能』を受けると、精神を崩壊させて死んでしまう。」ーー


  俺は、『異世界人』の筈だ......。

  だが、今あるこの感覚は、きっとキュアリスが前に受けたであろう闇の作用そのものだった......。

  痛み、苦しみを感じ、それと同時に、過去のトラウマが走馬灯の様に蘇る......。
  
  俺は、闇の作用によって動かなくなった体を必死に下に向けて王宮へ続く坂の下に目をやると、炎を帯びた真っ赤な『異能』と、毒を帯びた紫の『異能』は、夥しい程の爆音を上げながらぶつかっていた。

  キュアリスだって今、国の為に戦っているんだ。

  なのに、俺は今こんな状況で良いのだろうか......?


ーーそんな事を一瞬考えたその時だった。


  キュアリス達が戦っている場所の辺りからは、緑色の球体がこちら目掛けて勢い良く向かってきた。

  俺は、闇の作用によって体の自由が利かずに、只、それを見つめる事しか出来なかった。

  だが、その存在が何であるかを考える余裕は少しだけあった。

  そして、その緑色の物体が俺の右太ももの傷口にぶつかった時、俺の体内からは闇が取り除かれていく。


ーーそこで、俺は確信した。


  森山葉月が俺を助けたという事に......。

  どうやら彼女は、キュアリス達の爆音によって俺からは見えない場所から、こちらにも警戒をしてくれていたらしい......。

  以前、キュアリスを闇から助けられなかった事があって、彼女が体内の闇を取り除く為のヒールを研究していると聞いていた。

  つまり、俺の体に自由が戻ったと言うのは、それに成功した事を意味するのだ。

  俺はそれに感謝すると、すっかりと自由になった体でもう一度周囲への警戒を強めた。

  頭で考える事をやめて、感覚で奴が何処にいるかを感じ取ろうとした。

  ヤツは、何処から俺に攻撃を仕掛けてくるかを......。


ーー気を感じ取るんだ......。


ーー『異能』だけに頼らずに......。


  そう思いながらその場で目を閉じていると、俺はある存在を身近で感じ取った。


ーー背後から、強い殺気を感じる。


  それに気がつくと、俺は目を開いて光の刀をその場所に向かって思い切り一振りした。

  すると、『時空の歪み』から現れて不意打ちをしようとしていたイワイ・シュウスケが、俺の高速の攻撃を避けきれず、右腕に俺の太刀を思い切り受けたのだ。

  彼は俺の攻撃をギリギリで避けた様で、右腕を切り落とされていたものの、それ以外は無傷な様子だ。

  それを見た俺は、すぐにある事に気がつく。


ーー腕からの出血がない......。


  それに、下を向いても切り落とされた筈の右腕も何処にも見当たらない......。

  俺がそれに焦りを見せると、イワイはニタっと笑った後で、こんな事を告げた。

「残念だったな......。」

  彼はそう呟くと、すっかりと闇のオーラを消して、俺に右腕を見せた。

  それを見た俺は、驚愕を受ける。


ーー何故なら、彼には元々、右腕が無かったからである......。


  つまり、先程まで見えていたものは、無い腕を闇の『異能』で再現していただけなのだ......。


「何故、俺の腕が無いか分かるか......? 」

  焦る俺に対して、イワイは笑顔でそう問いかけた。

  そんな問いに対して、俺は暫く考えた後で、答えを見つけ出せずに困惑していた。

  すると、しびれを切らしたのか、彼はゆっくりとその理由を説明した。

「俺の腕が無い理由、それは、元国王にあるのだよ。」

  彼がそう言うと、肘の辺りに力を込めて、真っ黒な闇でもう一度腕を作り出した。

  それからイワイは、呆然とする俺を見ながら更に話を続ける。

「俺は、元国王の命令で、数多の戦争に駆り出された。『異能』の構造など全く理解していない状態でな......。その結果、俺は多くの傷を負ったんだ。その中でも、この腕が一番のダメージ......。その時、思ったよ。この国の国王も、他と変わらず欲に塗れているんだってな。やっぱり、人間なんか根本は同じなんだよ......。そこで、俺はこの国を侵略する事を、本当の意味で覚悟したんだ。」

  俺はそれを聞くと、脳内で否定を重ねた。

  奴は、元々この国を支配する為に転移して来たと聞いている。

  それに、湖畔で出会った元国王は言っていた。


ーーこの国の未来の為に、イワイ・シュウスケを倒したいと......。


  だからこそ、俺は語尾を強めた。

「そんな訳が無いだろ?! 元国王は、国民思いの非常に出来た人間だと聞いている! 」

  それを聞いたイワイは、ため息をつきながらこんな事をボヤいた。

「結局、みんな人間の上辺しか見ていないのだよ。根底には浅はかで、強欲な気持ちが常に眠っているんだ。ならば、これを見てもそう言えるか......? 」

  彼はそう言うと、依然として現れ続けている『時空の歪み』から神の物と思しき手鏡を取り出して、こちらに向けて投げた。

  俺は、それを受け取ると、そこに映像が映し出されている事に気がつく。

  それを見た時、俺は唖然とした。

  そこに写っていた人物は、本当にこの前出会った元国王なのかと......。

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