天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第202話 転移のキッカケ。


ーーーーーー

  教室の片隅で、彼は窓の外を眺めながらため息をつく。

  クラスメイト達は青春を謳歌しながら意気揚々と喜怒哀楽を表現する中、彼は表情を変える事なく窓際の一番後ろの席にて憂いていた。


ーーこの世界とは、なんて退屈なのだろう......。


  そんな中、ふと、隣の席にて座っていた少女の頭には、丸められた紙屑が当たった。

  それに気がついた少女は、目を見開きながらも、俯いている。

  それと同時に、クラス中からは、ヒソヒソと笑い声が聞こえて来たのだ。

  彼は、そんな事案に対して、もう一度ため息をつく。


ーーまた、いじめか......。


  すると、それを皮切りに少女の机に向けては、「帰れ! 」などと言う醜いコールが響き渡った。

  その声は、彼にとっては非常に耳障りなものだった。

  だからこそ、彼は机の上に「バンッ!! 」と勢い良く手を叩きつけると、おかげですっかりと静まり返った教室を後にした。


ーーやっぱり、人間なんて、クズばっかりだ......。


  そんな事を思いながら。

  その後、彼は少しの苛立ちを感じながらも、ゆっくり家への道を歩いていると、先程いじめを受けていた少女は、彼の元へ駆け寄って来た後で、深々と頭を下げた。

「今日は、助けてくれてありがとね。私を庇ってくれる人なんて、今まで一人も居なかったから、本当に嬉しかった......。」

  それを聞いた彼は、如何にも興味がなさそうな素っ気ない表情で、彼女にこう告げた。

「別に、助けたつもりなんかねえよ......。」

  彼がそう呟くと、少女はニコッと笑いながらもう一度頭を下げて、その場を後にした。

  遠くへと消えてゆく彼女を見た時、彼は少しだけ思った事がある。

  そんなにイジメが嫌なら、はっきりと言えば良いのにと......。

  それから数日間、登校するたびにクラスでの彼女の扱いは酷い物となって行った。

  首謀者の斎藤を始め、多くの人間が彼女をおもちゃにして遊び続けた。

  次第に増えて行く痣、真っ青になって行く表情......。

  それは、目を覆いたくなる程に卑劣な物だった。

  彼は、それを傍観者として見つめ続けた。
 
  生憎、彼自身は成績は常にトップで運動も桁外れに出来た。それでいて、気の強い所があったのでイジメを受ける事が無かったが、学校では外れ者として扱われていた。

  それから数週間、彼女は学校に来なくなった。

  彼は、不登校と化した少女に対して喜ぶクラスメイトとは対照的に、あの日の出来事を思い出す。


ーー「今日は、ありがとね。」ーー


  その言葉が耳元でこだまするたびに、彼は少しずつ怒りにも似た感情を覚えた。

  こんなにも、理不尽な行為をして、尚、悪びれる様子もないなんて、こいつらは悪魔か......?

  普段は何事にも興味がない筈の彼が唯一抱いたその感情は、次第に増幅して行った。


ーーそして、その三日後、少女は遺体で見つかったらしい。


  彼は、その事実を知ると、愕然とした。

  別に、少女がどうなろうとどうでも良かった。

  だがそれよりも、人の命を殺める様な卑劣な事をしておいて、普通に生活をしている皆に対して、激しい殺意を抱いた。

  元々人嫌いだった彼は、その出来事がキッカケで、更に人間という生き物が嫌いになって行った。

  こんな連中がいる世界でなんて、生きたくなんかない。

  そんな事を思いながら、彼は再び別の人間をイジメ始める皆を横目に、帰って行った。

  普段と変わらぬ景色。

  近道となる商店街を歩くと、自分語りをする中年主婦に、愛想笑いで頷く若い女性。

  それが象徴するように、この世は偽りで出来ているのだ。

  彼は、そんな事を思うと、激しい衝動に苛まれる。


ーーこんな世界、ぶっ壊してしまいたいと......。


  少女の言葉を思い出しながら、彼が止められぬ感情を抱いて商店街を抜けて土手に辿り着いた時、川に架かる大きな橋の下から、見たことの無い『歪み』を帯びた場所を発見した。

  彼は無意識にその場所へと向かう。

  すると、ちょうど橋の下に辿り着いた時、そこには真っ黒なタキシードにシルクハットを被った一人の中年男性が無機質な笑顔で彼を見つめていた。

  彼が一瞬、その余りにも不自然な姿に唖然としていると、男性は彼に向けて唐突にこんな提案をした。

「我輩が、貴様の抱く願望を叶えてあげよう。世界が壊したいのだろ......? 」

  それを聞いた彼は、不思議と落ち着きを感じるその男性に対して、小さく頷いた後で、こう返答をした。

「お前が誰かはわからない。しかし、何故か安心するよ。人間が大嫌いな俺でも......。」

  彼がそう呟くと、男性は周囲に夥しい量で現れている『歪み』へと誘った。


ーー「我輩と共に、全てを壊そうではないか。」ーー


ーーそんな言葉と共に......。


  その時、イワイ・シュウスケは異世界に転移する事となったのだ。

  大嫌いな人間を潰す為にも......。


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