天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第199話 最高のお膳立て。


ーーーーーー

  俺は、強固な蔓に拘束されて身動きの取れない状態の中で、神の『試練』を受けた時に『知の神龍』言った言葉を思い出していた。


ーー「冷静になればすぐに分かる事でも見落としてしまう。」ーー


  確かに俺は一瞬、熱くなりすぎた。

  それが発端となって、今は目の前で勝利を確信しているトリヤマに殺されそうになっている。

  しかも、その蔓は少しずつ両腕を締め付けていくのがわかった。

  生憎、光のバリアを纏っているおかけでそこまでの痛みは感じられないが、どうやらその先からは延々と毒を送り込み続けている様だ。

  今のところ、四肢の自由が奪われただけには収まっているものの、この状況が危険な事など、誰がどう見てもすぐに分かる事だ。


ーーこのまま行けば、どちらにせよ俺はここで死んでしまう事であろう......。


  ゆっくりと近づいてくるトリヤマの姿を只、見つめる事しかできない俺は、それに対して悔しさを滲ませる。

  何度、同じ過ちを犯せば良いんだ。

  今までだってそうだ。

  戦いにおいて、感情的になりすぎる。

  どんなに強力な力を持っていても、その性格は常に足を引っ張り続ける。

  過去の親友の名を出された時、俺は怒りに身を任せてしまった。

  それは、なんて浅はかな行為なのであろうか......。

  俺は、ずっと一人だった。

  いや、人を信用する事を決してしなかった。

  ずっと卑屈だった。

  だが、この世界に来て始めて人の大切さに触れた。

  それは、俺自身によって気づいた訳ではない。


ーーキュアリスによって気付かされた事だ......。


  それから沢山の人々と触れ合う事で、徐々に大切な物が増えて行った。

  だからこそ、絶対に守りたいと思う。


ーーたとえ、この命に代えてでも......。


  俺はそんな事を考えながらも、ゆっくりと緑色の刀を振り上げるトリヤマを見つめながらこう思った。

  俺はまだ、死ぬ訳には行かないんだ。

  そう思うと、俺は、争うように全身に力を込めようとした。

  しかし、その瞬間、突然、俺とトリヤマの間からはいつかに見た『歪み』が現れた。

  それが現れると、トリヤマは一度振り上げた刀を仕舞うと間合いを取った。

「何が起きたんだ......? 」

  そんな事を呟きながら......。

  すると、その『歪み』が綺麗さっぱり無くなった時、俺を守る様にして目の前に立っていた人物を見て驚愕した。

「キュア......リス......? 」

  何故か、俺の前には先程眠りの作用を受けて優花に匿われていたキュアリスが、真っ赤に燃えるオーラを纏いながら、トリヤマの事を睨みつけていたのだ。

  キュアリスは、俺がそう呟くと、一瞬振り返った後で、こんな事を言った。

「さっきは心配させちゃってごめんね......。私も軽率だったよ。でも、もう大丈夫。仲間も来てくれたから......。」

  彼女がそう呟くと、俺の背後からは眩い光のレーザーが四本放たれて、強固な蔓はいとも簡単に破壊されたのだった。

  俺はそれに対して驚くと、慌ててそのレーザーを放った者の方へと振り返った。


ーーすると、そこには社、アメール、そして、この一連の戦争の指揮をとっている筈の森山葉月の姿があったのだ......。


「お前ら、どうして......? 」

  右手をかざして俺を助けた社の姿を見ると、俺は絞り出した様な声で彼女らにそう問いかけた。

  それを聞いた社はニコッと笑いながらこんな返答をする。

「葉月がどうしても心配だから、『ロウディ』に向かってくれとしつこく言うもんだから来たんだよ。まあ、『神の使い』であるあたし達が他の神を崇拝する国家において干渉できるのはここまでなんだけどな......。」

  そんな社の発言に対して、俺は森山葉月の方へと呆然としながら視線を移す。

「包囲されていた国境の方はほぼ片づいたので、『時空の歪み』を使用して駆けつけました。指揮はポルに任せております。これで、心置き無く戦えるでしょう......。」

  彼女がそう言うと、俺は、有り難さから泣きそうになった。

  俺は今、トリヤマによって殺されかけていた。

  だが、そんなピンチを救ってくれたのは、森山葉月だった。

  俺は、自分が力に過信していた事も、感情的に戦い続けていた事も、反省をする。

  でも、それと同時に違う感情が湧き上がる。

  俺の部下である『特殊異能部隊』の者達も、果敢に戦って勝利したんだ。

  今だって、キュアリスは必死に俺を守ろうとしている。

  上空を見上げると、桜と優花も同様に......。

  そこにいる全員が俺を味方してくれている。

  ならば、報わねばならない。


ーーこれだけみんながお膳立てをしてくれたんだ。


  俺はそう考えると、目の前で構え続けるキュアリスの耳元でこう囁いた。

「申し訳ない。この場所は、お前に任せてもいいか......? 」

  俺がそう伝えると、キュアリスは笑顔で頷いた。

「分かった。絶対に倒してね。諸悪の根源を......。」

  キュアリスがそう返答すると、俺は光の道筋を王宮へ向けると、最後にこう呟いてその場を後にしたのだった。

「ありがとう。必ず倒すよ。イワイ・シュウスケを......。」

  もう、絶対に隙なんか見せない。

  俺にしかできないこと。

  この国を救うこと。

  絶対に成し遂げてみせる。


ーーみんなの為にも......。


ーーーーーー

  俺がいなくなった王宮の手前にて、トリヤマは始めて怒りを露わにした。

「まさか、『神の使い』と軍帥が現れると言うのは想定外だったよ。まあ、どちらにせよ、お前らは『神々の協定』によって、これ以上の干渉は不可能だ。そうなれば、容易い物だよ。この世界の女を殺すなどな......。」

  そんなトリヤマの発言を聞いたキュアリスは、全身に炎を纏いながら、こう答える。

「さっきは失敗しちゃったけど、私はあなたを倒す! 雄二と約束したんだ。『絶対にこの国を救おう』ってね!! 」

  彼女はそう叫ぶと、一度森山葉月の事を見つめると、謝罪を口にした。

「ごめんね、私のワガママを聞いてもらっちゃって......。」

  それを聞いた森山葉月は、ため息をついた後で、微笑んでこう答えた。

「全く......。眠らされて戦闘不能になったと思ったらすぐにこれですから......。うちの『聖騎士』には、気を抜けませんね......。でも、絶対に勝ってください! 私も、精一杯のサポートをしますから! 」

  彼女がそう発言すると、キュアリスは精悍な顔つきで頷いた後、トリヤマの方へと真っ直ぐに向かって行った。

  それに対して、トリヤマも全身から紫色のオーラを放って臨戦態勢に入った。

  キュアリスは、その時、不思議と自分の体が軽い事に気が付く。

  それを感じると、トリヤマを倒すべく、戦闘を開始したのであった。
 

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