天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第198話 感情と過信。


ーーーーーー

  優花がキュアリスと桜を連れてその場から去った後、俺はトリヤマを上空から睨みつけた。

  どうやら彼は、地上に何らかの細工を仕掛けている。

  それがあからさまに分かった状況では、地面に降り立つのは危険だと判断すると、俺はそのまま空中からの攻撃に徹するのがより良いと考えた。

  それにしても、彼から感じられる雰囲気は殺意に満ち溢れている。


ーー逆を言えば、それ以外の感情は無さそうだ......。


  俺は、だいぶ前に矢立駿と戦った時、同じ理由を聞いた事がある。

  だが、その時の彼は考えに基づいて戦いに身を投じていた。

  しかし、トリヤマはそれとは多少の齟齬がある事がすぐに分かる。

  人付き合いに関しては、てんで駄目な自分から見てもそう感じられる。


ーーそれ程の殺意がある。


  そこに恨みの感情などは、一切感じられない。

  そんな彼に対して、俺は少しだけ恐怖を抱いた。

  トリヤマはふと、俺の方へ目をやると、挨拶と言わんばかりにサッカーボール程の大きさをした紫色の塊を、俺に向けて放ったのだ。

  俺は、それを見ると光のレーザーで破壊した。

  ところが、その紫色の塊にレーザーが当たった途端、五つ程に分散をして、俺の頭上に勢い良く浮き上がり、各方位から向かってきたのだ。

  それに対して慌てた俺は、急いで高度を下げた。

  しつこく追いかけてくるその紫色の塊から避ける為に、高層ビルの中間付近まで......。

  すると、そこまで下降した時、ビルの外壁からは、俺の事を簡単に丸呑みできてしまう程に大きな食虫植物が夥しい数で現れ、こちらを狙ってきた。

  俺はそんな食虫植物達に向けて、炎の波動砲を何度も放ったものの、それは消えてはすぐに復活する。

  上空には先程の紫色の塊がこちらを睨みつける様に点在している。

  そんな状況に焦りを感じた俺は、止む終えずに地面へと降り立ったのだった。

  光のバリアを凝縮して体に纏う事で、敵の猛毒を受けぬ様にして......。

  そして、地面に足をつけた時、案の定、足下は怪しい泡立ちが立っていた。

  もし仮に、光のバリアを纏わずに降りていたらと思うと、少しだけゾッとする......。

  そんな中、目の前にいるトリヤマはこちらを睨みつけるでもなく、只、無表情でマジマジと俺の様子を眺めている。

「その、世にも珍しい光の『異能』とやらは便利だな......。俺の毒が通用しなかったのは、生まれて初めてだよ......。」

  彼はそう呟くと、一度首をかしげる。


ーーどうやら、自分の攻撃が俺に通用しなった事に疑問を感じている様子だった。


  俺は、そんな彼から初めて殺意以外の感情を感じ取れた。


ーー疑問......。


  だが、今、この状況において好奇心を抱いていると言うのは、それだけ余裕を持っているという裏付けである。

  俺は、それに気がつくと、戦いに夢中になって忘れていた『結界』を辺り一帯に張って見せた。

  それが発動されると、彼の体に掛けられていた『魔法』は、ほんの少しの煙を立てて消え去る。

  それを確認したトリヤマは、再び首を傾げた。

「これが、大河原から聞いていた『結界』か......。確かに、これだけ沢山の能力を持っている男を前にしたら、奴では手も足も出ないはずだよ......。」

  彼が悠馬の名前を出すと、俺は少しだけ動揺をする。

「お前、悠馬に何か仕掛けたりしたのか......? 」

  それを聞いたトリヤマは、無表情で吐き捨てる様にこう答える。

「まあ、くだらない話だよ。使えない者は処理する。イワイが甘いが為に、こんな大ごとになってしまったがな......。本来は、奴が『メルパルク山脈』での攻勢が失敗した時点で殺しておくべきだったんだ。しかも、よりにもよって指揮を任せるなど......。」

  俺は、そんな風に悠馬を物として扱っていたトリヤマの発言を聞くと、沸沸と怒りが込み上げる。

  結局のところ、この国の幹部達は、その他の『異世界人』の事なんか、何とも思っていないのだ......。


ーーそれに対して俺は憤りを感じながらも、分かっているはずの問い掛けを彼にぶつける。


「あいつだって、お前達の仲間な筈だろう......? 」

  俺がそう問うと、彼は、うんざりした雰囲気を醸し出しながら、冷静な口調でこう答えた。

「最初から大河原の事なんか、何とも思っていないよ。大体、謀反を企んでいたのも分かっていたにも関わらず、何故、そんなに奴に機会を与えるのか、意味不明だ。あんな使えないゴミ屑のに対して......。」

  俺は、そんなトリヤマの言葉を聞いた時、自分の中のリミッターが外れた事を自覚した。


ーー悠馬は確かに、過ちを犯した。


  それも、『ヘリスタディ帝国』の指示によって......。

  だが、奴らは彼の事を仲間どころか、人とすら思っていなかったのだ......。


ーーそれでは、あいつが報われないじゃないか......。


  俺はそう思っているうちに、湧き上がる怒りに身を任せて右手に作った光の刀を持ってそのままトリヤマの方へと走り出していった。


ーーだが、そんな時だった。


「だから、感情的な奴は駄目なんだ......。」

  彼がそう呟くと、足元から突然生えてきた強固な蔓によって、俺の両腕と両脚の自由は奪われた。

  あまりにも不意の攻撃であった為に、俺はそのまま動けなくなる。

  そこで、慌てて光のフレアを爆発させたり炎を乱射したりしたのだが、体に巻きついた蔓はよほど強固な物なのか、決して壊れる事は無かった。

  それを見て、俺が焦りの表情を見せていると、余裕のトリヤマは初めて笑顔を見せた。

  そして、悪意にも似た笑みを浮かべると、彼は身動きが取れない俺に向けて、こんな事を言った。

「だから、自分の力に過信してはいけないんだよ......。」

  彼はそう呟くと、手元に緑色の刀を作り出すと、ゆっくりと俺に突き立てたのだった。

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