天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第195話 彼女を救った救世主。

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「状況に関しては、全く理解できないっすけど、僕は正直、かなり驚いているっす......。『悪魔』が加担した状態のサナダとキリハラの二人をあっさりと倒してしまうなんて......。」

  雪弥はまだ少しだけ煙だってあるものの、座るには暑さを感じなくなった瓦礫の上に腰掛けて、少し取り繕った様な声で優花にそう声を掛けた。

  雪弥のそんな気遣いに対して、優花は哀愁を漂わせて死んだ魚の様な目をして俯く。


ーー先程感じたばかりの絶望に苦しみながら......。


  そんな状況からか、二人の間には沈黙が訪れる......。

  只、何を話せばいいのかも分からずに......。

  雪弥はその沈黙の中、チラッと優花の方へと目をやる。

  彼女はさっき、自ら命を絶とうとしていた。

  その理由について、雪弥はある程度の想像がついた。

  きっと、悪魔が得意とする精神汚染の『魔法』によって、心の深い部分が傷つけられたのであろう。

  雪弥はそれに気がつくと、少しだけ居た堪れない気持ちにさせられる。

  何故なら、彼と同年代である彼女が、果敢にも異世界に転移して早々、戦争をする事になり、しかも、こんなにも傷つけられているからだ。

  雪弥は、何も話さない沈黙の中でも、その痛い程に伝わってくる哀しみに心を痛める。

  それに、初めて顔を合わせてからずっと、彼の胸の奥からは、今まで感じた事がない感覚が支配している。


ーーこのチクチクと突き刺さる様な胸の痛みは、一体、何なんっすか......?


  それに、まだあったばかりなのに、何故かこの子だけは絶対に放っておけないって心から思うっす......。

  雪弥はそんな疑問を抱えながらも、相変わらず黙り込んだままの優花に対して、再び心配を口にする。

「きっと、『魔法』があなたをそうさせたんっすね......。悪魔はいつも、そうやって人を追い詰めていくので......。」

  彼がそう呟くと、優花は焦燥感にも似た表情を浮かべながらも、その気遣いに対してボソッと小さな声でこう返答をした。

「私は、ワガママな人間だから、死ぬしかなかったの......。」

  それを聞いた雪弥は、少しだけ泣きそうになった。

  彼女はどんな人生を歩んで来たのだろうか。

  どうして、彼女はここまで自分を卑下してしまっているのだろうか。


ーーさっきまで、あんなにも覚悟していたのに......。


  そんな疑問に苛まれた雪弥は、哀しみに暮れて落ち込む優花に対して、こんな事を問いかけた。

「もし嫌じゃなかったら、優花さんの身に何があったかを教えてくれませんか......? 」

  彼がそう真剣な表情で問いかけると、優花は、相変わらず枯れ果てた視線を雪弥の方に移すと、諦めにも近い微笑を浮かべながらこう話し始めた。

「私は、自分勝手な理由で二人の兄を傷つけてしまった。いや、今だって傷つけ続けているの。『魔法』とか関係なく、そんな事にだって気付けなかったなんて、最低だよね......。」

  彼女はそう切り出すと、転移する前から今までにあった出来事をゆっくりと語り出した。

  浩志が目の前で消えた事、その真相を追い求めた結果、次第に孤独になった事、結局、この世界で浩志が死んでしまった事に、たまたま戻って来た雄二にお願いをしてこの世界で戦う事になった事......。

  正直なところ、信じられない様な事案も沢山あった。

  でも、雪弥はその全てが真実であると、すぐに理解した。

  悲しみながら話す彼女のその口調からは、一つの嘘も感じられなかったから......。

「でも、それは全て、私自身の為だったって気づいてしまったの......。そこに、本心なんか無かったって......。結局のところ、私は自分のプライドや寂しさを埋める為だけに、二人のお兄ちゃんを巻き込んじゃっただけなんだってね......。」

  優花はそう呟くと、再び俯いてしまった。

  それに、少しだけ涙を流していた。

  肩を震わせながら体育座りをする優花を見て、雪弥は一つの疑問を口にする。


「今、一通り優花さんの話を聞いたんすけど、それって、本当にワガママってなるんですかね......? 」

  雪弥は腕を組んで首を傾げながらそう呟く。

  それに対して優花は、顔を彼の方に一つも向ける事なく、抵抗をする。

「何を言っているの......? だって、私は自分勝手過ぎる。雄二お兄ちゃんだって、きっとウンザリしているはずよ。こんな出来損ないでぼっちな妹がへばりついて来たって......。」

  彼女が震え声で自暴自棄になっていると、雪弥は、耐えられなくなってうずくまる優花の右肩に手を当てた後、力強い口調でこう言った。

「だから、僕からすると、優花さんの行いは素晴らしいって思うんすよ! 僕だって、あなたと同じ状況になったら、きっと同じ行動を取ると思うっす!! そこまで愛されている二人の兄は、本当に幸せだと思いますよ! そこまでしてくれている妹に対して、ウンザリするなんてあり得ないっす!! 」

  そんな風に耳元には少し騒がしい声を聞いた優花は、真っ赤に目を腫らしながら、キョトンとした表情で雪弥の方へ顔を上げた。

  それを見た雪弥は、何故かいつにもなく熱くなりすぎた自分を恥じると、目を逸らしながら、こう続けるのであった。

「それに、僕だって、優花さんに助けられたんっすから......。あなたが共に戦ってくれると言った時、どれだけ心強いと思った事か......。しかも、あんなに圧倒的な力で幹部の二人を倒してしまうなんて......。僕では絶対に出来ないっすよ......。」

  雪弥が恥ずかしがりながらそう呟くと、優花は相変わらずキョトンとしている。

  だが、先程と違って、表情は少しだけ柔らかくなったと、雪弥は感じたのだ。

「本当に、私のやって来たことは間違いないの......? 」

  優花はそんな彼に対して、そう問いかけた。

  それを聞いた雪弥は、逸らしている視線を再び優花の方へ戻すと、ニコッと笑いながらこう答えた。

「当たり前っす。僕はあなたの覚悟や意思を凄いって思ってるっす。だから、もう自分を責めたり死のうなどと考えるのはやめてください。後、僕を助けてくれて、本当にありがとうございます......。」

  そんな雪弥の表裏のない言葉を聞いた優花は、目の前で励ます雪弥に対して、小さく微笑んだ後で、こう宣言をした。

「ありがとう、雪弥。私、少しだけ自分を見失ってしまっていたみたい......。やっぱり私は、お兄ちゃんを助けたい。それに、この世界で苦しむ人々の事だって、助けたい。だから、もう少しだけ頑張ってみる。」

  そんな事を口にしながら微笑む優花を見た雪弥は、再び、心臓の鼓動が早くなった事で、気がついた。


ーーなるほど、そういう事だったんすね......。


  雪弥はそう思うと、立ち上がった後で、彼女へこう伝えた。

「それならば、これから王都『ロウディ』に向かってください。大好きな兄を救う為にも......。」

  それを聞いた優花は、ニコッと笑った後で、ゆっくりと立ち上がった。

「うん。私は雄二お兄ちゃんを支えたい。」

  雪弥はそんな彼女の一言に微笑むと、こう返答をした。

「はい。頑張って欲しいっす。僕も、一度姉ちゃんの様子を見たらすぐに『ロウディ』へ向かいます。絶対に勝ちましょうね! 」

  優花は彼がそう励ますと、深々と頭を下げた後でお礼を言って、水の龍を作り上げると、それに跨って手を振った。

  そんな去りゆく優花を目の前に、雪弥は最後にどうしても言いたかった一言を伝えた。

「後、どうやら僕は、優花さんに一目惚れしてしまったみたいなんっす!! だから、もし、あなたが危機に遭遇した時は、命をかけても戦うと誓います!! 」

  それを聞いた優花は、一瞬呆然とした顔で彼の方を振り返ると、次第にその意味を理解したようで、顔を真っ赤にした。

「い、いきなり何を言っているの?! 」

  彼女がそう叫ぶと、雪弥はニコニコと笑顔で手を振って、その場からすぐに去ってしまった。


ーーもう、一体何なのよ......。


  優花はそんな彼の遠くなる後ろ姿を恥ずかしがりながら見つめると、小さく微笑んだ後で、

「私を救ってくれてありがとね、雪弥。」

と、小さな声で呟き、王都『ロウディ』へと飛び立って行ったのであった。


ーーーーーー

  すっかりと優花の消えた瓦礫だらけの街の中で、雪弥はふと立ち止まると、彼女がいたであろう場所の方へと振り向いた。


ーー「どうやら僕は、優花さんに一目惚れしてしまったみたいなんっす!! 」ーー


  彼は、自分が発した本心から出る大胆な発言に対して、激しい恥じらいを感じた。

「何で、あんな事を言ってしまったんっすかね......。」

  そんな事を思いつつも、すぐに微笑んだ彼は、こんな事を思った。


ーーまあ、僕にとっての初恋です。


ーー二度と言えないよりは、はっきりと言えた自分に誇りを持ちたいっすね!!


  そう考えた雪弥は、再び、姉である麻耶の元へと走り出した。


ーーこれも、目が覚めた姉ちゃんに話さないとですね......。


  雪弥は、思い切った発言をした自分に喜びを感じながらも、前に進む度に姉の動向を気にしたのだった。

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