天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第194話 彼女の目的。


ーーーーーー

  そう言えば、『崩壊の神』からの試練をうけてる時に、桜が操作されて雄二お兄ちゃんの事を襲ったのは『魔法』によるものだったっけな......。

  優花は真っ暗闇でこだまする自己否定の言葉を傍らに、そんな出来事を思い出していた。


ーー戦争が始まる前にも、お兄ちゃんにあれだけ『魔法』には気をつけろと言われていたのに......。


  彼女は、そんな雄二の注意を無視してこんな状況を作ってしまった事に、至極後悔をしていた。

  その結果が、彼女を苦しめる。

  当然の様に否定的な返答を繰り返す自分の声に、精神を削られつつも。


ーー結局、今まで私は何をしていたの......?


  優花にとって、その疑問は常日頃から抱いているものだった。

  あちらの世界で、存在すらも消え去り、最初からいない事になってしまった兄。

  それを追いかけた結果、彼女は妄言を放つ不審人物と、世間から認定を受けた。

  それまで幸せであった筈の日々が一転した。

  ずっと友達だと思っていた人々も、親も、次第に彼女から距離を取る様になった。

  その時、彼女は生まれて初めて孤独を味わった。

  兄の存在を信じれば信じる程に、頭がおかしくなった。

  実際に、本当は自分がおかしいだけなのではないかと疑う事もあった。

  顔は笑っていても、心はずっと泣いていた。

  優花は、そこで初めて貴重な青春を棒に振ってしまった事に気がつく。

  何も起きない、非現実的な存在に魅了されていただけだったのだろうか......?

  だからこそ、何もない空虚な日々は続いて行ったのだろうか。


ーーでも、その間にも身近で消え行く人々......。


  それは、彼女を再びあらぬ気持ちへと引きずり込んで行った。

  毎回、優花の認識していた人間は例外なく『初めからいない存在』となった。

  世間はそれに気がつかない。


ーーそれは例え、肉親であったとしても......。


  手がかりなんて、何処にもなかった。

  見つけようにも見つけられる筈もなかった。

  だって、元々いなかったのかもしれないのだから......。


ーーあの日起きた出来事も全て、夢だったんだ。


ーー兄の殴り書きした日記だって......。


  優花は、小学校五年生から中学校二年生までの約三年の間で、信頼も何もかもを失った。

  幼稚なりに手がかりを追い求めても、誰かに話を聞いても、その答えには辿り着けない。


ーーでも、それって誰の為にやって来たことなの......?


  優花は変わらない景色の中で、ゆっくりと目を開いて深く考えた。

  すると、そんな難解な問いに答えをもたらす様に、目の前には小学生の時の自分が薄暗い光を放ちながら現れ、無味乾燥な表情を浮かべてこう告げる。

「そんな答え、もうとっくに出ているじゃん。あなたは、自分のわがままで何もかもを失ったんだ。やっと所在の分かった兄だって死んでしまい、挙句の果てに雄二の忠告も無視してこんな状況まで引き起こして......。本当に最低だね。あなたは。」

  それを聞いた優花は、自然と頬から涙を流した。

  どうしようもなく無駄な時間を過ごしてしまった事への後悔。

  いっその事、二人の兄の事など忘れて友達に囲まれた普通の生活を送ればよかったのだと......。

  下手なプライドなんか捨ててしまえば良かったんだ。

  彼女がそんな風に思いながら頬から伝う涙を拭う事なく呆然としながら幼い頃の自分の姿に視線を向けると、それは無表情になってこう告げた。

「あなたは最低な人間。だから、もうここで死んでしまった方が良い存在。周囲に妄言を漏らして、兄は助けられず、残ったものは何? きっと、雄二だって迷惑な筈。無能で能天気に忠告を無視して、結果、足を引っ張っている。きっと、これからだってずっとあなたは人に迷惑をかけ続ける。疎まれて、蔑まれて生きて行く。やっと分かったでしょ? あなたがどれだけ自分勝手で邪であるかを......。」

  はっきりと告げられた昔の自分の言葉に、黙り込んだ。

  きっと、安いプライドが私をこうさせた。


ーー正直、浩志お兄ちゃんが生きていたとして、果たしてそれを望んでいたのだろうか......。


  雄二お兄ちゃんにだって、強引な嘆願によって、この世界に連れて来てもらった。

  きっと、孤独に耐えられなかったのが一番の理由だ。

  二人の兄は、私に振り回され続けている。


ーーなんてわがままな人間だ。


  彼女はそう思うと、子供の頃の自分に向けてこう呟いた。

「今やっと、自分がどれだけ最低な人間かって事が分かった。だから、あなたの言う通りに、私は死んで詫びるよ。」

  それを聞いた幼少期の優花は、ニヤッと笑いながらそれに頷いてこう答えた。

「やっと気がついたんだ!! じゃあ、今すぐにでも......。」

  優花は、そう促した昔の自分の言葉を遮る様にして、水の刃を胸元に思い切り突き刺した。

  それを食らった子供の頃の自分は、彼女を睨みつけながら静かに消えてゆく......。

  そして、それが終わった時、彼女の視界は元に戻って、目の前には悪魔に乗り移られたキリハラとサナダが、驚きの表情を見せながら彼女を見つめていたのだ。

「何故、『魔法』を解けた!! 意識を失っている間もずっと、強固な水の兜が邪魔をするしだな!! 一体、どうなっているんだ!! 」

  サナダに乗り移っている悪魔はそう狼狽えている。


ーーその言葉に対して、優花はこう呟いた。


「おかげさまで、自分の人生が如何に浅はかだったかを痛感したよ......。それに、自分が死ぬべき存在である事だって......。」

  それを聞いた悪魔は、ニヤニヤと笑いながら、

「やっと分かった様だな。如何に、貴様がこの世にそぐわない人間であるかを......。」

  そんな彼女の言葉に、優花はかつてないほどに膨大な水のオーラを体から発したのだ。

  それは、巨大な灰色の化け物の内部から、全てを包み込む程に......。

  優花の姿を見て焦りを感じている悪魔は、何が起きているのか分からないといった表情を見せている。

  そんな振る舞いに対して、優花は二人をギロッと睨みつけた後で、こんなことを口にした。

「私は、死ぬ覚悟が出来た。でも、こんな私でもたった一つだけやり残した事があるの......。それは、兄への仇。ただ、それだけだよ。」

  優花はそう宣言すると、周囲を埋め尽くした水の『異能』によって、先程まで苦戦を続けて来た灰色の化け物を、一瞬にして打ち消したのだ。

  そんな状況に慌てふためく二人の悪魔を目の前に、優花は青い刀を作り出してこう覚悟を決める。


ーー今まで振り回してしまって、ごめん。


  雄二お兄ちゃんの気持ちも、浩志お兄ちゃんの気持ちだって、分からないまま私は迷惑をかけ続けた。

  最後に私が出来る事だって、本当に最低だと思ってる。

  多分、優しい浩志お兄ちゃんだって望んでないよね。

  殺された相手に復讐をかけるなんて......。

  でも、これは私自身の、最期のわがままだから許して。


ーー全て終わった時、私は静かに死んで行くから......。


  彼女はそう考えると、恐怖で体を震わせる二人をいとも簡単に真っ二つにして見せた。

「あの時と同じ様に、また我々は負けてしまうのか......。」

  悪魔はそんな事を口にしながら、生き絶えていったのだった。

  悔しそうな表情を浮かべながら......。

  優花は、感じた事のない程に強い力によって、あっさりと倒してしまったのだ。

  それが終わると、爆風によって原型が無くなった街には、太陽の光が躊躇なく照りつける。

  彼女はそんな風景に少しだけ微笑んだ後で、右手に持っている青い刀を自分の胸の辺りに突き立てのだった。

  雄二お兄ちゃん。最低な妹に付き合ってくれてありがとう。私は、もうここで人生を辞めます。みんなの為にも......。

  彼女がそう心に思いながらその刀を刺そうとした時、慌てた素ぶりで駆け寄ってくる人物がいた。


「待って欲しいっす!!!! 」

  その声に、手を止めた優花は、その声の方を向くと、そこには涙目で息を切らす雪弥の姿が近づいて来たのだ。

  優花はそんな彼の姿を見ても、何の感情も湧かなかった。


ーー只、自分の浅はかな人生を悔いていたから......。


  その優花の姿や表情を見た雪弥は、焦土と化した『ペリュー』の街に腰を落とすと、彼女の状況を察したのか、こんな提案をした。

「戦闘中に何があったのかは分かりませんが、思い悩むのを待って欲しいっす!! 少しだけ話をしないっすか......? 」

  それを聞いた優花は、暫く考え込んだ後で、青い刀を消して、彼の座る瓦礫の前に座り込んだ。

  何故、その時雪弥の言うことを素直に聞けたのかは、彼女自身も理解していない。

  しかし、その純粋な目つきを前にした彼女は、只、その提案に頷くのであった。

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