天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第193話 浅はかな人生。


ーーーーーー

  優花は、その襲い来る灰色の化け物に果敢に挑む。

  彼女を容赦無く攻撃するその右腕に対して、先程作り出した真っ青な龍で噛みつく。

  すると、右腕は見事に切断された。


ーーしかし、それは余りにも厄介なのである。


  すっぱりと切断した右腕は、切断された後も掌を大きく広げながら彼女を襲うのだ。


ーーそれもその筈だ。


  何故なら、目の前に聳える大きな人間の形をしたそれは、単純に灰色の風と、纏っている炎だけで出来ている実体の無いもので、使い手の意思通りに動くからである。

  優花は襲い来る右腕に危機感を覚えると、慌てて避けて見せた。

  その後で、強く思う。

  本体であるサナダとキリハラに攻撃をしない限り、ジリ貧になる......。

  だが、その化け物は容易に近づける程、脆弱なものではなかった。

  何故なら、それは、圧倒的な存在感と強さを見せつける。

  今だって、その化け物は空高くにいる優花に向けて左腕を大きく振り上げ、巨大な斬撃を放ったのだ。

  それが優花の横を通り過ぎると、彼女は一瞬だけ体勢を崩した。

  その後、その斬撃は勢い衰える事なく空へと上昇して行き、雲を真っ二つにして見せた。

  そんな状況にあったとしても、彼女は戦闘を始めてから何度もそれに攻撃を繰り返した。

  しかし、遠方から放った水の波動砲も、胸の辺りを突き抜けたとしても、簡単に元の姿へと戻る。


ーー弱点であると考えた真っ赤な目元も同様だった......。


  その巨大な化け物の何処にサナダとキリハラへ乗り移った悪魔は存在するのだろうか......?

  優花は、そんな事を思いながらも、攻撃の手を緩める事は無かった。


ーー全ては、今は亡き兄の為に。


  そんな事を考えた優花は、痺れを切らしてある決意をした。

  こうなった以上は、直接体の内部に入り込んで直接探し出すしかない......。

  彼女はそう決意すると、口を真っ赤に光らせて彼女を狙う化け物の動向を懸念しながらも、真っ青な龍を一度身体に取り込んだ後、それを凝縮して強固な甲冑を身体に纏うと、勢い良くその灰色の化け物の体の内部へと突入したのであった。

  突入するギリギリのタイミングで、優花は今やって来たであろう雪弥の声を、微かに耳にした。

「中に入ってはいけないっす!! それでは奴らの狙い通りになってしまいます!! 」

  だが、その忠告はもう優花を止められる事はなかった。

  いや、もしそれがもっと早く聞こえたとしても、結果は同じだったであろう......。

  彼女はそんな衝動に全身を支配されると、高温で、暴風の絶えないそこに入り込むと、視界の定まらない中で、目的のサナダとキリハラを探し始めた。


ーーだが、そんな時だった。


「やっと、引っかかった......。」

  その灰色の化け物の内部で聞こえたのは、悪魔の卑しい程、悪意に満ちた低い声だった。

  それに対して優花は、右手に手元に真っ青な刀を作り上げると、暴風に目を覆いながら一度目の前に視線を向けた?

  すると、そこには真っ赤な目をして薄っすらと笑みを浮かべるキリハラとサナダが腕を組んで彼女の事を見つめていた。

  そんな二人の存在に気がついた優花は、何の躊躇をする事もなく、その二人の元へと目にも留まらぬ速さで近づくと、そのまま真っ青な刀で斬りかかろうとした。

  すっかりと間合いを詰めて刀を振り上げている優花を目の前に、サナダはニヤッと笑うと、右手を彼女にかざして、こんな事を呟いた。


「作戦成功。」

  彼がそう言ったのを皮切りに、優花の体の力は、みるみるうちに抜けて行った。


ーーその時、彼女は異変に気がついた。


「『魔法』......。」

  優花が眉間にシワを寄せながらそう呟くと、サナダに乗り移った悪魔は大袈裟に笑いながらその一言に答える。

「その通り。元々、悪魔は『魔法』を扱う事を何よりも得意とする者。これからじっくりと『嫉妬の神』に楯突いた事を反省してもらうとしようか!! 」

  悪魔がそう宣言したのを聞くと、優花は無理やり纏っている『異能』を維持し続けた。

「私は、あんたになんか負けない......。浩志お兄ちゃんの為にも......。」

  それを聞いた悪魔は、相変わらずニコニコとしたまま彼女にこう言う。

「たいした者だよ。本来ならば、すぐに精神崩壊を起こしてもいい程に強力な『魔法』の筈なんだけどね......。昔、我々を追い詰めてくれた、あのクズによく似ているね......。」

  そのひと言に対して、優花は苦しみながらも怒りを露わにする。

「浩志お兄ちゃんの悪口は、絶対に言うな......。」

  彼女がそう呟くと、悪魔は余裕のそぶりでこう続けた。

「あの馬鹿は貴様の兄だったのか!! まあ、どちらにせよ関係はない。兄妹共々死にゆくがよい......。」

  悪魔はそう宣言すると、再び何かの詠唱を始めた。

  それと同時に、優花の周囲は深い闇に包まれて行った。

  彼女はそれに対して必死に抵抗をする。

  しかし、決して抗う事は出来ない。

  そんな時、彼女の耳元ではこんな声が聞こえた。


ーー「あなたは、わがままな人間だ......。」ーー


ーー「あなたは、何の為に生きているの? 」ーー


ーー「何を目的に生きてきたの......? 」ーー


  そんな言葉が耳元を掠める度に、その余りにも聞き覚えのある声に怯える。


ーー何故、怯えてしまうのか......?


  それは、紛れもなくその声が、彼女自身の声であるからだ。


ーー「あなたに、生きる価値なんてない。」ーー


  そんな自分からの一言に、彼女は過去の自分の行いを思い出す。

  自分の頭の中でこだまする、自己否定の言葉、自己嫌悪の気持ち......。

  気付かされるもの。

  私は、兄が消えてしまった世界で、彼を探す事に人生を捧げてきた。

  存在すら誰も覚えていない事に、哀しみを感じながら......。


ーーでも、それって結局のところは自分勝手な理由なのではないか......?


  結局、遠い世界で命を救う事が出来なかったのだから。

  何の力にもなれなかったのだから......。

  優花は永遠と鳴り響き続ける自分の言葉に、そんな後ろ向きな気持ちを抱く。

「ならば、私は今まで、何をしていたの......? 」

  優花は暗闇の中でそう呟くと、途端に虚無感を強く抱いた。

  今まで、誰に否定されようと、罵られようと彼女は兄の姿を探し続けてきた。

  でも、それはまるっきり無駄な努力だったのだ......。

  優花はそれに気がつくと、強い絶望を覚えた。


ーーたった一人、何もない暗闇の中で......。
 

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