天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第189話 巨大な化け物。


ーーーーーー

  数百メートルは優に超える『異能』とも言い難い程に巨大な存在は、優花の体よりも大きい真っ赤な目を二人の方へギラつかせる。

「貴様らの様な存在は、悪のほか何者でもない。二人を叩き潰し次第、すぐにでも『ロウディ』に向かって、残る仲間も全員殺してやる......。」

 灰色の巨体から繰り出された卑しくも低いその声は、話し出せば、たちまち周囲は衝撃にも近い突風が吹き荒れる。


ーーそれは、真っ黒な炎のオーラと結合して熱風となり、慌てて地面に降り立って避けた優花と雪弥の背後からは、炎が煌々と燃え上がっている。


「なんなの......? あの存在は......。」

  優花は焦りから息を切らして雪弥にそんな問いかけをした。

  それを聞いた雪弥は、相変わらず恐怖心に支配されながら、その巨体についての説明を始めた。


「あれは、奴らの最終手段なんですよ......。この国には、四人の『悪魔』が存在するんす。それは、イワイ・シュウスケとキリハラ、サナダ、トリヤマに一人ずつ使役していて、憑依した時、その者の『異能』を命を落とす最大限まで引き出す事が出来るんすよ。その結果が、あれです。前にたった一度だけその能力を使った事があると言っていましたが......。」

  雪弥がそう呟いていると、その巨大な存在は、

「悪は裁くべし!! 」

と、叫びを上げながら地面にいる二人にその怪しく赤黒いオーラを纏った腕を思い切り振り下ろした。

  優花は急いで雪弥を掴むと、それが地面に到達する直前で氷を張り、そこに風を作用させて急発進をして回避した。

  だが、マンション程の規模がある右腕が地面に到達すると、そこからは爆風が吹き荒れ、回避をした優花も、吹き飛ばされてしまった。

  何とかギリギリで氷のバリアを張ったものの、それはいとも簡単に溶かされてしまい、二人は再びゾッとする。

  更に、その爆風は隣接する街である『サンドリウス』全体も、簡単に焦土にしてしまったのだ......。

  優花は、次の攻撃を回避した際、二キロ程のまで吹き飛ばされると、何とか水のクッションを作って衝撃を和らげたが、遠方からでも圧倒的に存在感を示す灰色の巨体に対して、頭を抱えたのだ。

  優花と雪弥は、すかさず街の外れにある茂みに逃げ込むと、一度呼吸を整えた。

「どうすれば、あんな化け物に勝てるの......? 」

  優花は涙目でそう雪弥に呟く。

  雪弥はそれに対して、真剣な眼差しでこう答える。

「僕にも倒す方法は、分からないっすね。しかし......。」

  彼がそう含みをもたせながら口を紡ぐと、優花はその先の話を問い詰めた。

「しかし、何なの?! 」

  彼女が必死の形相でそう質問をすると、雪弥は優花に押されるようにして話を続けた。

「実は、さっき話した一度だけあの技を使ったというのは、二年ほど前、あなた達の国である『ベリスタ王国』を侵略しようとした際なんですよ......。僕自身は他国へと密偵に赴いていたのですが......。その際に、キリハラ達三人と悪魔があの技を出して破壊を繰り返し、侵攻の効率を上げようとしたらしいのですよ。ですがその時、『聖騎士』を名乗るボロボロの『異世界人』によって、その攻撃は阻まれたんっすよ。結局、その男はそこで命を落としたらしいのですが、こちらも戦闘不能なほど弱ってしまったようで......。」

  優花はそれを聞くと、侵略を止めた『聖騎士』が誰であるかをすぐに理解した。

  彼女は出兵する前に、雄二からその『聖騎士』についての話を聞いた事がある。

  彼は、誰よりも正義感が強く、誰にも優しく、自分の事など考えずに人々の為生きてきた男だった。


ーーそして、その男の事を、優花はよく知っている。


「浩志兄ちゃん......。」

  優花はそんな風に呟くと、以前、佐山浩志がかつて彼らと戦った事を理解した。

  それと同時に、ある事実に気付かされる。


ーーつまり、今暴れている彼らは、佐山浩志を殺した張本人なのだ......。


  それに気がつくと、優花は唇を噛み締めた。


ーーあいつらが、大好きなお兄ちゃんを殺したんだ......。


  それから彼女は、何も言葉を発する事なく静かに茂みから出て行った。

  そんな優花に、雪弥は必死で制止しようとする。

「策なしで出向くのはまずいっす!! 相手もまだ、僕達の居場所に気がついてないみたいですし。ここは一旦、作戦を練り直して......。」

  そんな風に叫びながら腕を掴む雪弥に対して、優花はそれを振り返った後で、目に涙をいっぱい溜めて、こんな事を口にした。

「ごめん、その提案に乗る事は出来なくなった。だって、今この瞬間、この戦いは私にとって特別なものになっちゃったから......。」

  彼女はそう呟いたのを最後に、全身から水のオーラを作り出し、その場にいる雪弥を置き去りにして数百メートルを超える灰色の化け物の元へと目にも留まらぬ速さで突っ込んで行ったのだ。

  雪弥は、それを只、呆然と見つめる......。

  そして、再び彼らの元へ優花が辿り着くと、化け物は笑い声をあげながらこう言ったのだ。

「わざわざ自分から死にに来るなんて、潔い。やっと、自分の犯した罪に気がついのだな。」

  それを聞いた桜は、涙を拭った後で首を横に振り、こう宣言をした。

「兄ちゃんの仇、ここで晴らすと決めたから、戦うと決意した。」

  彼女はそう言うと、水の『異能』を溜め込んで、そこから百メートル程の巨大な青い龍を作り出したのだ。

  浩志お兄ちゃん、待っててね。


ーー私がケリをつけるから。


  彼女はそう決意すると、その龍に乗っかった後で、灰色の化け物へと牙を向けるのだった。

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