天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第188話 悪魔の本気。


ーーーーーー

  『ペリュー』の崩壊する街にて、サナダの繰り出していた業火の如く湧き出す灰色の煙は、時間を置くごとにどんどんと薄れて行く。

  それが次第に薄れて行くのに対して、彼は焦りの色を隠せなかった。

「何故、俺の攻撃が通用しないんだ......。て、てめえ、そこら辺のカスとは違うのかよ......。」

  サナダは優花によって右肩に放たれた水の弾を食らって血を流しながら、優花に向けてそんな事を問い詰めた。

  それに対して彼女は、ニヤッと笑った後で、彼の必死の問いかけに答える。

「私にもわからない事は沢山ある。何故、これだけの力が覚醒したのかもね......。でも、『崩壊の神』は、私に間違いなくこう告げたんだ。「あなたは、『水源の使』だ」ってね......。」

  彼女はそう告げると、激しい破壊によって燃え上がった『ペリュー』の街全体に恵みの雨を降らせた。

  そうしている間も、彼女の付近には真っ青な龍の形をした『異能』が自由奔放に浮遊しているのであった。

  そんな受け入れがたい状況に対して、サナダは歯軋りを立てながら悔しそうな表情を浮かべていた。

「畜生、こんな事、絶対にあり得ない......。」

  サナダがそう呟いている様子を見た雪弥は、狐につままれた様な顔をして一瞬で優位に立った彼女に驚きを隠せなかった。

「あなたは、本当にこの世界に来たばかりなのですか......? それに今、『水源の使』と......。」

  それを聞いた優花は、相変わらず神々しい程に真っ青なオーラを放ちながらもチラッと雪弥を見た後で、その問いに答えた。

「うん、その通りではあるよ。でも、未だに私は分からない。この世界の理が......。『世界を救う』べきな存在が私達なのかもね......。」

  そんな次元の違う話を聞かされた雪弥は、更に動揺する。


ーーこの人達が、世界を救う者......。


  最初は佐山雄二だけが特別な存在なのかと思っていた雪弥は、見せつけられた優花の強さに目を疑うばかりである。

  敵の攻撃すらも無意味な物にする圧倒的な力......。

  先程、彼女はヤマタノオロチを一刀両断すると、その後、サナダの得意とする砂を巻き込んで作り出す風の『異能』によるトルネードを、膨大な水の力によっていとも簡単に消滅させてしまった。

  それから、サナダは何度も優花への攻撃を繰り返すが、何もかも惨めなまでに打ち消されてしまった。

  その様子を只、口を開けたまま眺めていた雪弥は、優花の言った『水源の使』という称号が本物である事を理解した。


ーー世界で一番の水の使い手が、今、ここにいるのだ......。


  雪弥はそんな彼女から滲み出る雰囲気に、目を疑う。


ーー彼女は本当に、さっきまで戦いを恐れていた少女なのかと......。


  優花は、そう考えを巡らせる雪弥から視線を離すと、再びサナダの方を睨みつけた。

「私も、無意味な殺しはしなくない。だから、もしあなたがその気ならば、この戦争から手を切って静かに暮らして貰えないかな? 」

  優花がそう提案をすると、サナダは血の流れた右肩から左手を離すと、ケタケタと品のない笑い声を上げた後で、大きく首を横に振った。

「馬鹿な事を言口にするな!! 前から佐山雄二一行の動向は密偵から聞いていたが、やはり、てめえも例外なく甘いな!! そんなんじゃ、足元すくわれても知らねえぞ!! 」


ーー彼はそう叫ぶと、指笛を思い切り吹いた。


  そんなサナダの様子の変化に、優花は一瞬動揺したものの、更に水のオーラを強めてこれから起きる何かに備える。

  すると、その指笛の音を聞いたのか、彼の背後からは真っ黒な実体の見えない悪魔が現れる。

  それを見た雪弥は、優花にこんな注意をする。

「優花さん、気をつけて欲しいっす!!この合図は、非常に危険だから......。」

  そんな叫び声をあげる彼を気にする事なく、その黒い物体は女の声でこんな事を口にした。

「サナダ......。あんたは、警戒心が弱すぎるわ......。キリハラにしてもそうだけど......。」

  女の声をした黒い物体がそう呟くと、サナダはニヤッと笑いながらそれについて謝罪を述べた。

「すまなかったな......。まさか、こんなに強い奴が来るなんて思ってもなかったからよ......。じゃあ、いつも通り俺に力を貸してくれるか......? 」

  それを聞いた黒い物体は、「わかった。他二人の悪魔にも伝えるよ」とだけ呟いた後で、彼の体の中に入って行った。

  それを目の当たりにした雪弥は、先程の精悍な顔つきも忘れて震えだす。

「遂に始まってしまうんっすね......。『悪魔達』による攻撃が......。」


ーー優花はそんな恐怖を感じる雪弥に、慌てて問いかけた。


「一体、何が起こるの?! 」

  そう思っている矢先、優花が破壊した入口の門からは、爆音が響き渡る。

  それに慌てて彼女が振り返ると、そこにいたのは、黒みを帯びた炎を身に纏ったキリハラの姿だったのだ......。

  ヤツは先程、雄二が倒したはずじゃ......。

  更に、前方のサナダも同様に真っ黒な風を体に絡めている......。


ーーしかも、二人とも先程までの黒い目とは違い、真っ赤な眼光になっていたのだ......。


  優花は、そんな二人に対して、本能的な所で危機感を感じる。


ーーこの二人は、危険だ......。


  すると、そんな様子に対して、サナダは先程と打って変わって暗いトーンでこんな事を口にした。

「やっぱり、人間を殺すのは、悪魔の仕事ですから。」

  彼はそう呟くと、ニヤッと悪意に満ちた笑顔で笑った。

  それを見た時、優花は気がついた。

  前方と後方の二人は、悪魔に乗り移られたのだと。


ーーいや、悪魔の力を自ら借りたのだと......。


  優花はそんな状況に、怯えながらも氷の刀を握る力を強めた。


ーー動揺と共に......。


  そんな優花に、サナダに乗り移った悪魔はこんな事を口にした。

「『嫉妬の神』に背く者は、絶対に許さない......。」

  そう言うと、周囲は灰色に染め上げられて行った。

  街全体をすっぽりと覆うほどに......。

  優花はそんな攻撃に対して、水の柱を伝って慌てて上空へと雪弥を抱え込みながら昇って行った。

  すると、その街からは二本の腕が彼女目掛けて伸びてきたのだ。

  それも優花はギリギリで回避すると、街全体からは卑しい笑い声を上げながらこんな言葉が聞こえて来たのだ。

「じゃあ、始めるとしますか。」

  悪魔のそんな合図を皮切りに、街全体を支配した灰色のもやは、みるみるうちに人の形へと変化していき、真っ赤な目に、赤黒いオーラを放った。

  その大きさは、遥か上空に昇った優花と雪弥に手が届く程の規模であった。


ーーそれを見た優花は、唖然とした。


「どうやって、こんな怪物を倒せばいいの......? 」

そんな事を呟きながら......。

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