天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第187話 優花の初戦。


ーーーーーー

  王都である『ロウディ』の周囲を囲むようにして聳えるのは、四つの街だった。

  彼女が先程までいた『サンドリウス』も、その一つである。

  そこから沿うような形で、まるで城壁を彷彿させる様なその佇まいは圧倒的であり、まさに、その全体が王都を守る為の防波堤にすら思える。

  優花は、『サンドリウス』を抜け出してすぐに再び見えたその巨大な門を前にすると、一度立ち止まったのだ。

「雪弥、ここが『ペリュー』で合っているの? 」

  それを聞いた雪弥は、俯き様に真剣な表情を覗かせた後で、その門に一つ手を当てると、小さく頷いた。

「はい、ここで間違いないっす。ここには、サナダがいます。今ちょうど聞こえている爆音も、彼の手によるものでしょう......。部下達には退避を命じたのに、無謀にも戦うなんて......。」

  優花はそんな彼の言葉を聞くと、街の中で響き渡る余りにも悲惨な音に、胸が竦む。

  彼女は今、少しだけ戦争というものの恐ろしさを理解した。


ーー私にとって、初めての戦い......。


  それは、平和な日本にいた時の生活とは打って変わったものだ。

  今も街中からは、反乱に協力したであろう『異世界人』達の悲鳴が絶え間なくこだましている。

  その音だけでも、彼女がこれから戦うという事を痛感させられるのである。


ーーそれに、もしかしたら私だって......。


  優花はそんな事を考えながら、自分の想像を遥かに超えた悲劇がたった一枚の壁の向こうで起こっている事に非現実的な感情を抱く。

  それが現実のものとなってのし掛かった時、彼女は足の指先から込み上げる恐怖というふた文字に、震えが止まらなくなったのだ。


ーーこわい......。


ーーあれだけ覚悟したはずなのに......。


  雪弥はそんな怯えた様子を見せる優花の方を振り返ると、小さく微笑んだ。

「全く......。きっと、優花さんは転移して来たばかりなんすね。」

  そう話す雪弥に対して、優花は相変わらず恐怖に身を震わせながら、こう問いかけた。

「素性を話したわけじゃないのに、なんで分かるの......? 」

  彼女が恐る恐る聞いたその問いに対し、雪弥はニコッと笑いながらこう答えた。


「そんなのすぐに分かるっすよ。だって、今の優花さん、僕や姉ちゃんが初めて戦地に派兵された時と、同じ顔をしてますもん......。」

  優花は彼の言葉を聞くと、今度は違う疑問を抱く。

  だって、幾ら頭の中で理解したとしても、いざその場所で感じる戦慄に、恐怖を覚えぬ者など存在するのだろうか......?

  ましてや、雪弥は優花の同年代。


ーーならば、五年も前から殺し合いしたから、それに慣れてしまったのであろうか......?


  優花は精悍な顔つきでこちらを見る雪弥に、そんな詮索をしつつも、弱々しい声でこんな問いかけをした。

「あなた、戦うのが怖くないの......? 」

  そんな優花の質問に対して、彼は一瞬だけ空を見つめた後、もう一度彼女の方へ視線を戻すと、こんな返答をしたのだった。

「怖いに決まってるっすよ。当たり前じゃないっすか!! でも、大切な物を失う事の方がもっと怖いっす......。正直、先程のキュアリスさんの話で、余り周りが見えていなかったのに気付かされたのですが......。まあ、矛盾するかもしれないっすけど、僕は姉ちゃんを守る為だったら、恐怖は全て忘れちゃいましたね!! 」

  それを聞いた優花は、一度、二人の兄の事を思い出す。


ーーずっと守ってくれて、優しかった浩志。


ーーそれに、そんな彼の意志を継いで躊躇する事なく前に進み続ける雄二......。


  彼女はそんな二人の姿を想像する。

  二人には、ずっと笑顔でいて欲しかった。


ーー浩志兄ちゃんは死んじゃったけど、その気持ちは変わらない......。


  しかし、それは今、雪弥の言葉を聞いて気付かされた。

  では何故、私は今ここに立っているのだろうか......?


ーーそれは、私自身の為?


ーーいや、違う。さっきだって、自分で言ってたじゃないか。


ーーこれは、雪弥と麻耶の為。


  『家族』に死別なんてして欲しくないから......。


ーーならば、同じじゃないか。


  私が二人の兄に抱く思いと......。

  最初から分かった上で来たんじゃないか。

  みんなに幸せになって欲しいから戦うなんて......。


ーー少し、動揺しすぎちゃったかな......?


  彼女はそんな風に考えると、体の震えを止めるかの様に、全身に力を込めた。

  怖がる必要なんてないんだ。

  私は、兄と同じだ。

  麻耶も雪弥も、キュアリスも、桜も、それに、雄二も守りたい......。


ーー明るい未来の為にも......。


「勇気付けてくれてありがとう、雪弥......。」

  優花は、俯きながら彼にそう呟くと、体から膨大な水のオーラを作り出した。

  それを見た雪弥は、ニコッと笑いながらそれに答える。

「いえ、あなたは僕によく似ているんすよ。だからこそ、大切な物の為に戦いましょう......。」

  彼がそう言ったのに対して、優花は小さく微笑んだ後、その膨大な水を高く聳え立つ門に向けて勢い良く放ったのだ。

  すると、硬く厚いその壁は一瞬にして木っ端微塵に吹き飛び、戦火の激しい街が顔を出したのだ。

  それに気がついたのか、サナダは彼女の破壊した門の前へやって来ると、二人を睨みながら水のオーラを纏った彼女に低いトーンでこう凄んだ。

「てめえ、邪魔するんじゃねぇよ......。」

  それを聞いた優花は、中二病ポーズを取りながら高らかに笑い、こんな返答をした。

「邪神である我の行く道は一つだ!! 悪である貴様を、奈落の底に葬り去ってやる!! 」

  彼女が自信満々にそう宣言したのを背後で見ていた雪弥は、一瞬、苦笑いをした後で、ニコッと笑ってこう呟く。


ーー姉ちゃん、僕はあなたの分も戦います。


ーー優花さんという、不思議な魅力の女の子と共に......。


  そして、あなたが目を覚ました時、必ず勝利を報告してみせます......。

  彼はそう誓うと、相変わらず中二病ポーズで静止している優花の真横に立って、禍々しい程、周囲を灰色に染めるサナダに向かって、こう叫んでみせたのだ。

「僕も、あなたを倒すと誓いました! そして、この国を元に戻します! 」

  それを聞いたサナダは、殺意に満ちた目で彼を睨み付けると、小さく呟く。

「やっぱり、てめえらクソガキが差し金ってのは本当だったんだな......。まあ、今となってはどうでもいい。何故なら、てめえらは全員死ぬんだからよ......。」

  彼はそう呟くと、灰色がかった周囲に風を起こした後で、それを上昇させた。

  それに伴って、彼を取り巻く辺り一帯には暴風が吹き荒れる。

  そんな状況に対して、優花は雪弥を守る為にも水のバリアで何とか吹き飛ばされぬ様に堪える。

  すると、サナダは上空から灰色をしたヤマタノオロチを作り出すと、バリアを張っている優花に向けて、思い切り噛みつく様に指示を出した。

  それを見た優花は、慌ててバリアを解いて、ヤマタノオロチから距離を取る。

  地面に降りて来たそれは、恐怖を覚える程、獰猛な動きを見せている。

  優花は、そんな化け物を見ると、先程の中二病を忘れて我に返り、一瞬だけ再び震えた右腕に真っ青な水の『異能』を作り出して微笑んだ。

「うん、面白そうじゃない......。」

  それを聞いたサナダは、無表情でこんな事を口にした。

「佐山雄二の仲間である事は間違いないだろうが、てめえも身の程知らずな様だな......。」

  優花は、そんな彼の一言にこう言った。

「それは、あなたの方かも知れないね......。」

  彼女はそう呟くと、体全身に水の鎧を作って装備した。

  それから水の刀を作り出した後、風の『異能』を駆使してそれを冷やして凍らせる。

  彼女は氷の刀を両手で強く握り締めると、目の前に聳えるヤマタノオロチの方へと真っ直ぐに進んで行ったのだ。


ーー雄二兄ちゃん、私、今初めて戦う。


ーーサナダはきっと、強いやつだ。


ーーでも、私負けないよ。


ーーだって、誰も悲しませたくないもの......。


  彼女はそう思いながら、襲い来るヤマタノオロチに氷の刀を横に振る。

  すると、その化け物は見事に真っ二つに分かれて消え去ったのだった。

  それを見たサナダは、血管をピクッとさせた後で、小さく笑みを浮かべてこう呟いた。

「てめえ、少しはやるじゃねえか......。」

  その言葉がきっかけで、優花は初めての戦闘に挑むのだった。
 

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