天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第185話 姉弟の考え方。


ーーーーーー


ーー雪弥は、その力に只、驚かされるばかりであった。


  反乱を始めてからは、姉である麻耶が何とかキリハラの攻撃を押さえつけていた。

  雪弥も麻耶も、共に『ヘリスタディ帝国』においては、十本の指に入るほどの強者と位置付けられていた。

  だが、キリハラの圧倒的『異能』の前には、その力も無力に等しい物となった。

  それでは、今、目の前で血を流して苦しみの表情を浮かべる男は、一体、何者なのだろう......。

  雪弥は混乱した頭の中で、少しだけ、その事について考えを巡らせる。


ーーしかし、その男は、雪弥自身が紛れもなく「絶対に勝てない」と位置付けた、キリハラそのものなのだ......。


  森山葉月は、反乱の決行を告げた麻耶に対して、こんな事を口にしていた。


ーー「全てを無にする程の力を持った者が、あなた達を助けてくれるはずです」ーー


  雪弥は、その言葉に対して、半信半疑であった。

  これまでずっと、イワイ・シュウスケを始めとする国王や幹部の力を目の前で見せつけられていたから......。

  確かに、雪弥と麻耶にとって森山葉月は、命の恩人である。

  まだこの国に来て暫くが経過した頃、二人は密偵を言い渡され『ヘリスタディ帝国』の南に位置する国にて、見たことの無い程の巨大なバハムートに遭遇した際、深傷を負いながらも、命からがら逃げて来た事があった。

  しかし、二人のダメージは想像以上に大きく、丁度、『ベリスタ王国』と『ヘリスタディ帝国』の国境付近で力尽きて倒れてしまったのだ。

  その時、雪弥は只、弱り切った声で謝り続けて涙を流す麻耶を横目に、少しずつ目を閉じて行った。

  ああ、僕も姉ちゃんも、もう死ぬんすね。結局、どの世界に行っても、僕は姉ちゃんを守る事なんか出来なかったんっすね......。

  そんな気持ちを抱いた雪弥は、後悔をしながらすっかり動かなくなった体の力を抜いた。


ーーだがその時、彼は森山葉月に助けられた。


  たまたま通りかかった彼女は、二人に向けて緑色の『異能』を駆使して治療を行った。

  その効力は、目を疑う程で、彼女が傷口にそれを当てると、みるみるうちに彼らは回復した。


ーーあまりにも一瞬にして......。


  その縁もあってか、麻耶と森山葉月は、連絡を取る間柄になった。

  森山葉月の包容力によって、麻耶は心に秘めている思いを、彼女には何でも話す様になった。


ーー弟にすら、出来ない話だって......。


  麻耶自身も彼女と話して行くうちに、昔の暗い彼女とは違った、明るい一面を見せる様になった。

  雪弥はずっと、それに対して嫉妬していたのは事実だ。

  しかし、それ以上に、姉である麻耶が元気でいてくれる事が、雪弥は何よりも嬉しかった。

  そして、麻耶は遂に反乱を決意してしまったのだ......。

  麻耶は常々、この国の異様性について否定的な言葉を口にしていた。


ーー元々平和に生きていた現地人を殺し、『異世界人』が支配を続けるこの国に......。

  
  だからこそ、雪弥はいつか、その日が来てしまうと自覚していた。

  麻耶からは死ぬ程の覚悟を感じられたから......。

  雪弥は、麻耶の提案を聞いた時、笑顔で首を縦に振った。

  姉の提案には従い続けていたから。


ーー本当の気持ちを隠しながら......。


  正直な所、雪弥は森山葉月の言っていたことをずっと信用出来なかった。

  死ぬ寸前で助けてくれた事は、勿論感謝をしている。

  だが、それよりも彼は、世界でたった一人の姉が死んでしまう可能性があるという事だけが嫌なのである。

  彼らはその頃、『ヘリスタディ帝国』では重宝されている存在だった。

  確かに、この国がおかしい事も、充分に理解している。

  でも、転移する前のあの日、麻耶がこの世の終わりの様な表情を浮かべながらマンションから飛び降りた映像が、克明にフラッシュバックしてしまう。


ーーもう、あんな思いはさせたく無い......。


  雪弥はそんな想いの中で、森山葉月を否定していたのだ。

  ましてや、あんなに強い奴らに勝てる者など、現れるわけがない......。


  雪弥はそう考え続けていた。


ーー今の今までは......。


  傍らで真剣な表情を浮かべてその圧倒的な戦闘を見つめるキュアリスに対して、雪弥はこんな問いかけをした。

「あなた達は一体、何者なんですか......? 」

  それを聞いたキュアリスは、ニコッと彼に笑いかけると、こんな返答をした。

「何か、特別な事がある訳ではないよ。只、彼は少しだけ想いが強いだけ......。」

  それを聞いた雪弥は、腫らした目を一度擦った後で、首を傾げてもう一度質問をする。

「その、想いとは......? 」

  そんな狐につままれた様な顔をした雪弥に対して、キュアリスは笑顔でこう答えた。

「雄二は、誰よりも優しい人なの。だからこそ、平和を勝ち取る為に戦い続ける。例え、自分の命が危ぶまれても......。それが、雄二の強さなんだよ。」

  それを聞いた雪弥は、衝撃を受けた。

  それと同時に、自分の心の奥に秘められた余りにもちっぽけで、卑しい気持ちに恥じらいを覚える。


ーー誰もが覚悟していた事に対して、踏み出せていなかった自分に対して......。


  姉である麻耶だった、その覚悟をした上で、反乱を起こした。

  だが、それに比べると、雪弥は愛する家族の事しか考えていない。他の人はどうでも良くて、姉だけが助かれば良いと思っていた。


ーーそんなの、虫が良すぎるじゃないっすか......。


  そして、佐山雄二がキリハラに向けて数十発のレーザーを放ち、光のオーラを纏った右手が思い切り彼の顔面を殴打した時、雪弥は立ち上がった。

「ならば、僕にも協力させて欲しいっす!! まだ、二つの都市にはイワイ・シュウスケの右腕であるサナダとトリヤマが依然残ってるんすよ!! 僕は、彼らの戦法を知っています!! それに、イワイ・シュウスケは、確実に何かを企んでいます!! だから、早く『ロウディ』に向かってください!! 僕一人では、大した時間を稼げるかはわかりませんが......。少しでも足止めをしたいんすよ!!だから、後衛は僕に任せてください!! 」

  彼がそう叫び、佐山雄二に頭を下げると、彼はキリハラが完全に動かなくなったのを確認した後で、雪弥に微笑みながらこう答えた。

「それは、大変助かるよ......。ならば、周辺都市については、君に任せてもいいか? 」

  佐山雄二がそう返答したのに対して、雪弥は覚悟を決めた顔をして、大きな声でお礼を言った。

  すると、そんな顛末を見ていた優花は、雪弥の元に近づいてきた後で、佐山雄二にこう嘆願をした。

「お兄ちゃん。それなら、私は彼と一緒に行動してもいい......? 」

  それを聞いた佐山雄二は、少しだけ首を傾げた。

  そんな兄の様子を見た優花は、その理由について、話し出した。

「ここにいる彼の姉を想う気持ちは、痛い程伝わってくるから、絶対に死なせたくないの......。もし、あそこで気を失っているお姉ちゃんが目を覚ました時、弟がいないなんて、考えたくない......。」


ーー佐山雄二は、優花の話すその理由を聞くと、暫く考えた後で、小さく頷いた。


「わかった。ならば、お前達二人には、隣接都市である『ペリュー』と『シャビン』にて、サナダとトリヤマを倒してもらおう。でも、本当に危なくなった時は、俺達の行く『ロウディ』に必ず来てくれ。お前達には、絶対に死んでほしくないから......。」


  優花と雪弥は、そんな佐山雄二の返答を聞き終えると、お互いが顔を合わせて笑顔になった。

「『英雄』の仲間がいてくれると、本当に心強いっす!! 僕も死ぬ気で戦うので、宜しくお願いします!! 」

  そんな雪弥の言葉に対して、優花は明るい口調でこう答えた。

「そうだね。ちゃんと生きて帰って、お姉ちゃんに元気な姿を見せてあげてね!! 」

  そんな優花の言葉の後で、雪弥は一つの決意をした。

  姉ちゃん、やっと僕もあなたの考えている真意に辿り着くことが出来ました。


ーー僕も、この国を救う為に戦います。


ーーこの世界の人々の為にも......。


  彼がそう決意を固めると、佐山雄二と観音寺桜、それに、キュアリスの三人は『ロウディ』へ。

  優花と雪弥の二人は、サナダとトリヤマが控える『ペリュー』と『シャビン』の方面へと、向かうのであった。

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