天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第183話 キリハラの必殺技。


ーーーーーー

  すっかり治療を終えて傷の癒えた麻耶は、噴水前にて相変わらず固まっているキリハラのすぐ前であぐらをかいて、彼の卑しくと憎い表情で固まった顔を見ていた。

  もう既にすっかりと日差しが街一帯を照らしている。

  あれから、もう随分と時間が経過した......。

  そんな中、彼女は時折、時計に目をやりながら貧乏ゆすりを繰り返す。

  まだ来ないのか、佐山雄二......。

  もうすぐ、『魔法』の効力は途切れてしまう......。

  
ーー  そうなってしまった時は......。

  
  そんな風に麻耶がソワソワしていると、雪弥はそれを心配したのか、彼女の肩に手を当ててこんな事を口にした。

「焦りはあるかもしんないっす。でも、信じるんすよ!! だって、ここまで時間を稼げたのは、姉ちゃんのおかげなんすから!! 次は、僕が守ってみせるっす!! 」

  雪弥が笑顔でそう伝えると、麻耶は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後で、フフッと小さく微笑んだ。

「雪弥は、昔から変わらないね......。強い男だ......。」

  彼女はそう呟くと、その場で立ち上がり、周囲で緊張する部下に対して、こう指示を出した。

「もうすぐ、キリハラが目覚めてしまう!! そうなった時は、全員死ぬ覚悟でヤツを食い止めるんだ!! 」

  それを聞いた部下達は、辿々しい口調で返事をした。
 
  それは、彼の目覚めに対する不安が強く伝わった。


ーー誰も望んでいない者の目覚めなのだから......。


  そして、その厄介な相手は、ゆっくりと目を覚ましたのだ。


ーーキリハラは、麻耶へとトドメのつもりで振り上げた両手を空振りすると、「ハッ! 」とした表情を一瞬浮かべた後で、周囲を見回した後で、みるみるうちに怒りの表情へと変わって行った。


「お前......。何か余計な事をしやがったな......。」

  キリハラがそう呟きながら風の『異能』を全身に纏う摩耶にそう怒りを露わにすると、麻耶は薄っすらと汗をかきながら微笑んでこう彼に伝えた。

「貴様こそ、長い休憩だったな......。まさか、『魔法』に引っかかるほどズボラな人間だとは思わなかったよ......。」

  それを聞いたキリハラは、こめかみの辺りをピクッとさせた後で、鬼の形相となって、その場の全員に向けてこう告げたのだった。

「舐めやがって、クソガキが......。お前ら全員、ぶっ殺す......。」

  彼はそう言うと、体全身から膨大な量の炎を有り余るほどに湧き上がらせ、それは瞬く間に全長五十メートルはあろうイフリートの形へと変化して行った。

  その巨大な『異能』の塊を目にした麻耶は、一瞬だけゾクッと体を震わせた。

  この化け物は、キリハラが数多の戦争で圧倒的な力を見せつけたイフリート......。


ーーやはり、ヤツには勝てないのかと......。


  だが、そんな時、目の前を鳥の形をした雷の塊が、彼女の横を通り過ぎて行った。

  その鳥は、キリハラ目掛けて一直線に突進したのだ......。

  それを、簡単に避けたキリハラは、その『異能』を作り出した張本人の方を睨みながら、こう呟いた。

「お前が先に死にたいらしいな......。」

  麻耶は、そんなキリハラの視線を辿る様にしてその場所を見ると、雪弥が全身に雷を纏いながら、こんな事を口にしていた。

「僕は、元より君らを倒すために来たんだ!! かかってくるがいいっす!! 」

  彼がそう言って身構えると、キリハラは鋭い眼光で彼を睨みつけた後、雪弥の方へとイフリートを向かわせた。

「まず最初に死にたいのは、お前の様だな......。」

  キリハラはそう呟くと、巨大なイフリートを動かして思い切り両腕を振り上げさせた。


ーーそれから、彼の指示が通った途端に、イフリートはその腕を物凄いスピードで振り下ろす。


  そんなキリハラの攻撃に対して、雪弥は雷のバリアを作って持ちこたえようとしていた。

  だが、二つの『異能』が重なった時、イフリート両腕は、そんな雪弥の必死の防御すらも無意味な物として、気がつけば綺麗に敷き詰められた煉瓦の地面は、見るも無残に煙を上げながら焦土と化してしまったのだ。

  麻耶により、その寸前で風を送って雪弥を飛ばし攻撃を回避したものの、彼は、キリハラの強さに改めて気づかされて微笑んだ。

「助かりました、姉ちゃん!! それにしても、やっぱり強いっすね、キリハラは......。」

  雪弥がそんな事を口にすると、麻耶は隣にやって来て風の刀をキリハラに向けた。

「さっき散々、私に説教しといて、雪弥だって大概だ......。後少しで死んでいたぞ......。」
  
彼女はそう言うと、雪弥に微笑み返す。

  すると、そんな二人のやり取りを見たキリハラは、高笑いをしながらこんな事を言い出した。

「お前らの茶番を見ていると、滑稽で仕方がないなぁ!! 結局の所、雑魚が幾ら集まったって、全く意味は無いんだよ!! 」

  彼はそんな風に二人を嘲笑うと、周囲から、彼と同じ背丈程のイフリートを百体程作り出した。


ーーそれを見た部下達は、恐れおののき始める。


「遂に始まってしまった......。」

  そんな事を口にしながら......。

  麻耶はキリハラのイフリート達を見つめると、舌打ちをする。


ーーそれは、絶望にも似た気持ちで......。


  この百体のイフリートによる総攻撃は、彼の最大の技といえる。

  その一つ一つは、炎をも焼き尽くす程の高温で、それに加えて、キリハラはそれを全て器用に操るのだ。


ーーまるで、百体のイフリートが意志を持って動いているかの様に......。


  だからこそ、今、五十人ほどの部下達は怯える。

  以前、キリハラはこの技によって、たった一人で隣国を降伏させてしまった事があるからだ。

  正直な所、麻耶と雪弥に関しても、その技が出た時点で、これ以上の時間稼ぎは不可能だと理解した。


ーーいや、時間稼ぎどころか、このまま一瞬で死んでしまう可能性があることを理解した。


  だからこそ、麻耶はゆっくりと前へ進む。


ーーそう、自分の意志で最後まで戦い抜く事を覚悟して......。


  そして、麻耶は全身から風を巻き起こし、周囲に数多の竜巻を起こすと、風の刀を思い切り振り下ろした。

  すると、そこから山を真二つにする程の規模の斬撃が、地面を割りながらキリハラ目掛けて飛んで行ったのだ。

  だが、そんな側から見たら圧倒的な斬撃は、数体のイフリートが口から吐き出した高温の炎によって、綺麗さっぱり消え去ってしまった。

  それを見た雪弥はすかさず上空から何十発もの雷を彼に向けて叩き落とした。


ーー何度も何度も、轟音が響き渡る。


ーーしかし、その攻撃すらも、周囲のイフリートは簡単に打ち消してしまったのだった。


  そして、キリハラは彼らの攻撃が一度止んだとき、相変わらずニヤニヤしながらこんな事を言った。

「もう、終わりでいいかな......? 」

  彼はそう言うと、一際大きなイフリートに加え、百体を超えるそれを全て彼女達の方に向けると、一斉に攻撃に向かわせた。

  それを見た麻耶と雪弥は、何とかキリハラに近づこうと、そのイフリート達に斬りかかった。

  だが、一体倒してもまた一体と、それは何度でも復活する。


ーーしかも、千度を超える高温によって、二人はどんどんと体力を奪われていった。

  
  背後の部下達も、イフリートを必死に倒そうとするが、力及ばずに煌々と燃え上がって倒れていく。

  麻耶はそんな状況に、とうとう痺れを切らして思い切り叫ぶと、更に加速しようと足の辺りに風を起こして突進しようと試みた。

  だが、その時、背後のイフリートの数発放った火の弾は、麻耶の左肩と両脚を貫通して行った。

  それと同時に、麻耶はその場に膝をつく。


ーー今までに経験した事のない程の、熱さと痛みを感じながら......。


「姉ちゃん!! 」

  雪弥はそんな彼女を助けようとするが、周囲のイフリートが邪魔をして、近づく事は出来ない。


ーーどうすれば......。


  雪弥がそんな風にイフリートの攻撃を回避しながら考えを巡らせていると、キリハラは動けない麻耶の方へゆっくりと近づいて行く。

「全く......。お前のやった事は、国王への冒涜だ。それに反省をしながら死んで行くといいさ......。」

  彼はそう言うと、右手から火の『異能』を作り出して、彼女へと向けた。

  麻耶はそんなキリハラの動きに狼狽えるものの、体が動かない事で、悔しさを滲ませるだけになってしまった。


ーー私は、ここで死ぬのだな......。


  彼女はそんな事を思いながらも、無念さだけが心を支配して行っていた。

  自分の力不足を悔やんだ。


ーーごめんなさい、雪弥、葉月さん......。


  彼女は死期を悟ってゆっくりと目を瞑ると、キリハラは馬鹿にした様な口調で彼女にこう告げた。

「じゃあ、死んでもらおうか......。」


ーーだが、そんな時だった。


「ドォーーーン!!!! 」

  彼女の目の前では、物凄い爆音が響き渡ったのだ。

  それに対して、麻耶はゆっくりと探る様に目を開ける。

  すると、先程までキリハラが居たはずの目の前には、誰も居なくなっていた。


ーーいや、誰かの力によって、キリハラが吹き飛ばされたのだ......。


  それに驚くと、彼女は周囲を確認した。

  みるみる内に消えて行くイフリート達。


ーー麻耶が死ぬのを理解して涙を流し跪く雪弥......。


「一体、何が起こったんだ......? 」

  建物の外壁に吹き飛ばされたキリハラを一瞬見た後で、麻耶はそう呟いた。

  すると、噴水の奥の道の方からは、見た事のない、疎らな背丈の四人の人影が彼女の方へと近づいて来たのだ......。


ーー彼女は、それを見た時、小さく微笑んだ。


「やっと来たか......。」

  彼女がそう呟くと、キリハラは怒りに体を震わせながら立ち上がり、その四人にこう叫んだ。

「てめえが佐山雄二か!! ぶっ殺してやる!! 」

  そんなキリハラに対して、佐山雄二は光のレーザーを放って彼の右肩を貫通させると、摩耶に向けてこう微笑みながら呟いた。


「ごめん、遅くなったな。後は俺たちに任せておけ......。」


ーーそれを聞いた麻耶は、小さく微笑み返すと、

「全く......。遅すぎるんだよ、佐山雄二......。」

と言って、その場に倒れ込んだ。

  それを見た桜は、慌てて麻耶の元へ駆け寄り、薬草を手から取り出す。

  佐山雄二はそんな桜を確認すると、殺気立った目で睨みつけるキリハラに向かって、こう叫んだのだ。

「随分と仲間を痛めつけてくれたな!! 俺がお前を倒してやる!! 」

  佐山雄二がそう宣言すると、キリハラはニヤッと笑った後で、再びイフリートを作り出したのだ。

「死ぬのは、てめえの方だ......。」


ーーそして、彼らは戦闘を始めたのであった。

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