天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第182話 かつての謀反者。


ーーーーーー

  『サンドリウス』からは、キリハラを始めとする現国王の側近の動きを止める事に成功したと言う報せがあった。

  その数時間程前には、錦雪弥から最悪、彼女達が奥の手と位置付けた静止の『魔法』を、麻耶の救出の為に使うかもしれないと聞いていた。

  だが、それから麻耶の命を張っての時間稼ぎによって、多少の前後はあるものの、佐山雄二の到着予定時刻に近づけたと言うのだ。

  そんな二転三転する話に対して、森山葉月は、一喜一憂する事なく、淡々とこれからの作戦を脳内で練っていたのだ。

「いやあ、それにしても大誤算でしたね......。まさか、イワイ・シュウスケの側近が現れるなんて......。それに、どうやら情報は漏れていた様ですし。」

  彼女はポルにそう呟くと、地図にある自国の国境を辿る様に指で伝うと、続けてこんな事を口にした。

「やはり、『特殊異能部隊』や軍本部所属の指揮官を各地に派遣した事は、正しかった様ですね。もう既に、各地から優勢と言う報せが続々と届いているみたいですし......。」

  森山葉月が強い目力を込めながらそう微笑むと、ポルはたどたどしい口調でそれに答えた。

「ま、まさか、皆さんがここまで相手を圧倒するなんて、思っても見ませんでした。で、でも、その中でも、一番驚いたのは......。」

  ポルはそう言うと、『ベリスタ王国』の地図の最西部にある、森林に隣接する都市を見つめた。

  そんな視線に気がついた森山葉月は、再びニコッと笑う。

「まあ、それに関しては、私自身も驚いていますよ......。だってまさか、『メルパルク山脈』での開戦の時は敵だった矢立駿が、ここまで国の為に戦ってくれるとは夢にも思っていませんでしたからね......。」

  森山葉月はそう呟くと、総攻撃決行の一週間前、国の重要な者が収監される檻の中に閉じ込められた状態でずっと俯いていた矢立駿の場所へと赴いた。ーー


ーー「あなたは、どうしてそんなにも落ち込んでいるのですか......? 」

  森山葉月がこの世の終わりの様な表情を見せる矢立に対してそう問いかけると、彼は相変わらず下を向いたままの状態でこんな返答をした。

「状況が分かっているんだろ......? 俺は、佐山雄二と二度戦った事で、痛感させられたんだよ......。自分の間違った正義と、それに、犯してしまった罪の重さについて......。」

  彼がそう呟くと、森山葉月は真剣な表情になる。

「しかし、何故そう言い切れるのですか......? 確かに、あなたが間違った道に進んでしまったのは、事実です。あなたがこの世界にとって『異世界人』である事により、辛い経験も沢山したのでしょう......。何もかもがどうでも良くなってしまう程に......。」

  森山葉月の発したその言葉を聞くと、矢立駿は、絶望とも捉えられる笑顔を見せて、こんな本音を漏らした。

「まあ、結局のところ、俺は自分を信じられなかったんだよ。『ヘリスタディ帝国』の奴らに『魔法』で操られてその事も痛感した。我に帰ってからは、自分が全く信用出来なくなった。何もかもを否定ばかりした。見るもの全てが憎いとすら思えた。それは、この世界に転移した事が原因だってな......。今ある環境は、全て悪意。そんな風に自分を省みずに俺は、何もかもを壊す事だけを考えてあの国に加担したんだ。」

  そんな彼の言葉に対して、森山葉月は少しだけ彼に賛同する部分を見出した。

  正直なところ、森山葉月自身も、浩志が戦争で命を落とした時、一瞬ではあったが何もかもがどうでも良くなった時がある。


ーー彼は今、自分の起こしてしまった罪の重さに悶え苦しんでいる事が良く理解出来た。


  そう思いながら、悲壮感に満ち溢れた彼の姿を見ていると、矢立はその会話をこう締めくくった。

「佐山雄二は、傷ついても苦しんでも、真っ直ぐだった。俺みたいに弱い気持ちを出す事なく、常に『世界を救う』と叫び続けて戦っていた。二度目に奴に負けた時、俺はやっと気がついたんだ。俺がこの世界でやりたかった事は、奴と同じだった事にな......。」

  矢立はそう言うと、檻の中でため息をついて、森山葉月にそこから立ち去る様に促した。

  しかし、彼女はその場所から去ろうとする事はなかった。


ーー彼の本音を聞いた後で、ある提案をする事が、目的だったから......。


  だからこそ、森山葉月は彼にこう問いかけた。

「では、もし仮に、『世界を救う』というあなたの意志をもう一度叶えられるチャンスがあるとしたら、どうしますか......? 」

  彼女がそう口にすると、矢立は眉間にシワを寄せて彼女を睨みつけた。

「お前、何を言っているんだ......。」

  それに対して、森山葉月はポケットから檻の鍵を取り出した後で、こう提案した。

「あなたには、この戦争を終わらせる為に、共に戦ってもらいたいのですよ。この戦争の中心は、間違いなく佐山雄二さん。もし、あなたにまだその気持ちがあるのならば......。」

  そんな森山葉月の言葉に、矢立は一度、彼女から目をそらす。

「馬鹿なことを言うな。俺は、自分の罪滅ぼしを続けなければならない存在だ。どんな報いだって受ける覚悟は出来ているさ。」

  彼は、そう悲観的な発言をすると、再び俯く。

  だが、森山葉月はそんな矢立を見るや否や、檻の鍵を開いてゆっくりと彼の目の前にやって来たのだ。

  矢立がそんな森山葉月の行動に驚いていると、彼女が彼の目の前に右手を差し伸べた。

「私達には今、あなたの力を必要としています。この国にいる『異世界人』は皆、佐山雄二さんと同じ気持ちですから。矢立駿さん......。共に戦いましょう。悪事を繰り返すイワイ・シュウスケを倒して、世界を救う為にも......。」


ーーそれを聞いた矢立駿の顔つきは、変わった。


「本当に、俺なんかに期待していいのか......? 」

  そんな矢立の確認に、森山葉月はニコッと笑ってこう答えた。

「はい。私はあなたに見えた意志を尊重したいのです。これは、私からのお願いです。どうか、我々に力を貸してください。明るい未来の為にも......。」

  森山葉月はそう嘆願して頭を下げて右手を差し出すと、矢立は暫く黙り込んだ。

  そして、フフッと小さく笑った後で、こんな事を口にした。

「全く......。お前らは揃いも揃って馬鹿ばっかりだよ。仕方ねえな。俺は、佐山雄二に二度も借りを作った。協力してやるよ。」

  彼はそう言うと、静かに立ち上がり、森山葉月の右手をガッチリと掴んだ。

  森山葉月は、彼の前向きな返答に胸をなで下ろすと、彼にこう告げた。

「では、共に打倒しましょう。『ヘリスタディ帝国』を......。」ーー


ーーそんな顛末を思い出しながら、森山葉月は矢立の活躍に少しだけ嬉しくなった。


  すると、そんな彼女の姿にポルは笑顔でこう口を開いた。

「ま、まさか、彼が我々に協力してくれるなんて、夢にも思ってませんしたよ。これも、葉月さんのおかげですね。」

  それを聞いた森山葉月は、

「同様にグリンデルもミルヴィールも各地で活躍してくれているそうなので、本当に安心していますよ。報告で聞く限りでは、今、勝利の女神が我々に傾いているのはよく分かります。何かの拍子で最悪な事態が起きたとしても暫くは、我が国を包囲した敵軍が侵攻してくる事は無さそうですし......。」

と、総攻撃がそろそろ成功する事を確信した上で、彼女は微笑みながら心の中でこう思った。

  佐山雄二さん......。

  攻撃はもうすぐ完結します。


ーー後はあなた、佐山雄二さん次第です。


ーーこの国への感謝の気持ちを込め、『英雄』として、絶対にイワイ・シュウスケに勝ってください。


  森山葉月はそう考えると、慌ただしく移り変わる戦況に注視しつつ、再び各戦地への連絡を密に取る様、部下達に向けて、指示を出したのだった。


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