天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第181話 命を張っての時間稼ぎ。


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  すっかり辺りが真っ暗になった時、キリハラからの攻撃の応酬を前に耐え続けた麻耶は傷だらけになり、膝をついて血を吐いた後、『サンドリウス』の中心部にある噴水の前にて、両手に火の『異能』を打ち出そうと構えたまま固まって動かない彼の方を睨みつけた。

「やはり、ギリギリまで持ちこたえるのも辛いものがあったな......。」

  彼女はそう呟くと、仰向けになって駆け寄って来た部下からその場で治療を受けた。

  そんな、今にも気を失ってしまいそうな麻耶を見た雪弥は、苦笑いをしながら彼女に説教じみた事を言う。

「危なかったらすぐに、奥の手の『魔法』を使ってくれと言ったじゃないっすか。幾ら、効力が半日しか持たないとは言え、後一発食らっていたら、死んでいたところでしたよ......。」

  それを聞いた麻耶は、一言謝罪を述べた。

「それは、申し訳ないと思っているよ......。でも、少しでも時間を稼ぎたかったんだ。何よりも、これは一度しか使えない手だからな......。相手に手の内がバレれば警戒されてしまう......。他の都市にもイワイ・シュウスケの側近が現れたと言っていた。正直なところ、負けてしまうかもしれないと思ったが、ここまで粘れれば、もう少しだけ期待しても良さそうだな......。」

  彼女はそう呟くと、もう一度キリハラの方へ視線を向けた。

  彼は今、人殺しの顔をしたまま固まっている。

  彼女がこの『魔法』を発生させられたのは、何年にも及ぶ研究があっての事だ。

  今までずっと、どうにかイワイ・シュウスケを打倒しようと、国家を欺いて秘密裏に行って来た実験。


ーーそれが、静止の『魔法』である......。


  キリハラや、それと同じくこの国で権力を持つ後の二人に関しても言える事なのだが、彼らには、強大な『異能』がある為に、今までの戦いは圧倒的な力を持ってして一瞬で終わらせてしまっていた。

  よって、『魔法』など発動させる隙を与えずに敵を倒す。

  これが、彼らのいつものやり方だった。

  それに着目した結果が、静止の『異能』を完成させる原動力となったのだ。

  不幸中の幸いとして、キリハラは柄にもなく、ジワジワと彼女を殺そうとしていたらしい。

  それが功を奏して、彼女は身を持って時間稼ぎを成功させたのだ。

  流石に彼らも馬鹿ではないので、一度見た事がある既存の『魔法』に関しては、簡単に解決してくるであろう。


ーーだからこその、新種の『魔法』なのだ。


  だが、この『魔法』には、一つの欠陥がある。

  それは、静止した相手から半径五メートル以内の間合いに入ると、その効力は途切れてしまうという事だ。

  キリハラ程の男となれば、その間合いに入った途端、襲って来た者や『異能』を瞬時に跳ね除けて倒す事など、いとも容易く出来てしまう。

  つまり、今は一つも触れる事なく、彼の動きを止める事が精一杯なのだ......。

  しかも、その『魔法』の効力は半日......。


ーーもし、それまでに佐山雄二が来る事なく、ヤツが目を覚ました時は......。


  麻耶はそう考えると、一瞬だけゾッとした。

  その後で、再び冷静を装って、雪弥にこんな問いかけをした。

「他の都市の状況はどうなっている。」

  麻耶がそう問いかけると、雪弥はニコッと笑ってこう答えた。

「あちらの方も、とりあえず成功みたいっすね!! 姉ちゃんより少し前に、制止の『魔法』を掛けられたと言ってたっすから!!」


ーーそれを聞いた麻耶は、ホッと一安心をした。


  その後でこう続ける。

「ならば、各ブロックの者にこう指示を出してくれ。『今すぐにその場から退避して、サンドリウスに向かえ』と......。」

  それを聞いた雪弥は、それに大きく頷く。

  麻耶は、ボロボロになった体に痛みを感じながらも、命を持った時間稼ぎに成功させた。

「後は、佐山雄二、お前が来れば全ては完了する。お前は、葉月さんのお墨付きなんだろう......? 」

  彼女はそう呟いたのを最後に、部下によって医務室へ運ばれて治療に専念する事となった。


ーータイムリミットは、後半日である。


ーー佐山雄二よ、早くたどり着いてくれ。


麻耶はそう切に願いながら、この国の行く末を案じたのであった。

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