天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第180話 暗がりで見た謎の物体。


ーーーーーー

  すっかり日が沈んで真っ暗な道中、光の道筋を辿る俺達は、焦りから休む事なく進んでいた。

  今日の早朝、『ヘリスタディ帝国』内部にて『異世界人』による反乱が開始されたという報せが届いてから、俺は少しだけ嫌な予感がしていたからだ。
 
  何故、俺がそこまで懸念をするか。

  それは、イワイ・シュウスケという不吉な存在が、何か罠を仕掛けている気がしてならなかったからだ......。


ーーだからこそ、『サンドリウス』に控える指揮官ほ錦 麻耶と、早く接する事が先決だと考えた。


  どちらにせよ、俺たちが顔を見せて安心させねばならない......。

  そんな風に考えているうちに、気がつくと俺達は、途中休憩を取る事なく進んでいたのだ。
 
  流石に、桜やキュアリス、優花には体の負担を軽減する為にも、道筋内で仮眠を取ってもらっていた。

  光の道筋は、進む先に引き寄せられるようになっている為、自分自身が何か行動を起こすこともない。

  只ひたすらに身を預けるだけという構造になっているのだ。

  しかも、体への負担もほぼない。

  故に、目を閉じていても、特に問題はないのである。


ーーだが、俺に関しては別物だ。


  何故なら、この『異能』を作り出しているのは、紛れもなく俺自身だからである。

  もし仮に、俺が今眠ってしまえば、この道筋は綺麗さっぱり消え去ってしまう。


ーーそれに、敵国の軍が奇襲をかけて来る可能性もあるし、魔獣の類が現れる事だってある。


  だから、俺は周囲を注視しながらも、背後で仮眠を取る三人の方を一度見ると、再び警戒を強めた。

  そんな時、俺がふいに右の方に視線を移すと、遠くの方にあからさまに周囲の景色から浮いた存在である一体の飛行する物体を確認した。

  その物体は、人の様な形をしていて、目が異様な程に真っ赤に光っていたので、暗がりの中でも、すぐに存在がすぐに確認出来たのだ。


「何だ? あの生き物は......。」

  俺がそんな風に小さく呟いてそれを眺めていると、その謎の生き物は、俺達の光を見て存在に気がついた様で、こちらの方を向いた。

  それと同時にその謎の生き物は、ケタケタと下品な笑い声をあげながらこちらへ見失ってしまいそうな速度で接近してきた。

  それに対して俺は、慌てて水の『異能』で弾丸を放った。

  しかし、その存在は、俺の『異能』を避ける事なく真っ直ぐに突進して来た。

  それを見た時、俺は気づいてしまった。


ーーこの生き物には、『異能』の類が通用しないと......。


  まだその者との距離が遠すぎて、シルエットすら確認出来ない。

  もしかしたら、魔獣なのかもしれない......。


ーーならば、どうすれば良いのだ......。


  俺はそう考えている内に、気がつくと、お守りとして常備していたフリードに貰った木彫りのマジックアイテムを無意識に取り出して握っていた。

  結局、その木彫りのマジックアイテムがどの様な作用をもたらすか、俺はフリードに聞いていなかったものの、偶然手にしたそれに対して、俺は何故か強い期待を抱いた。


ーー「困った時、役に立つ」ーー


  何故かこんな状況にも関わらず、その言葉を信じて......。

  そして、それを躊躇なく謎の生き物に投げつけた。

  すると、その生き物は俺達に接近する直前でマジックアイテムとぶつかり、悲痛の叫びを上げながら真っ黒になって、それに吸い込まれそうになっている。

  俺は、苦しみながらも、やっとの思いで近寄ってきたその存在が目の前に現れた時、初めてその者の正体に気がつき、驚いた。


ーー何故なら、それは、間違いなく女の人の形をしていたのだ。


  しかし、息を荒くして俺を睨みつけるそれは、人でない事がすぐにわかる。

  その女は、薄っすらと透けていて、目から感じられる怨念は、人では間違いなく発せない程の狂気に満ちていたからである。

  そんな中、マジックアイテムは彼女の叫びを無視する様に、どんどんと体を吸い込んで行く。


ーーそれに対して、その女は、雄叫びにも近い声で、こんな事を叫んだ。


「貴様ぁー!! 一体、何をした!! 」


ーー俺はそんな風に怒鳴りながら俺を睨みつける彼女を見ると、それはこのまま野放しにして良い存在ではない事を自覚した。


  だからこそ、真っ暗なオーラを放ちながら木彫りのマジックアイテムにどんどんと吸い込まれて行く彼女に向けて、俺は小さく笑いながらこう伝えた。

「不思議と投げつけてはみたものの、まさか、こんな作用があったとは驚いたよ、フリード。このマジックアイテムは、間違いなく『魔封じ』だな......。」

  俺がそう呟くと、赤目の女は、歯ぎしりを大きく立てながら悔しそうな表情を浮かべて、すっぽりと小さな木彫りのマジックアイテムの中に封印されて行った。

  俺は、そんなアイテムを手に取ると、改めて偶然に驚いた。

  まさか、戦争の初陣の際に彼から貰ったアイテムが、こんな所で役立つとは......。


ーーそれに、今のは間違いなく元国王の言っていた『悪魔』だ。


  そんな存在すらも呆気なく封印出来てしまうマジックアイテムを作るなんて......。

  俺はそう考えると、フリードの『魔法』の研究に関する凄さに感服をした。

  その『悪魔』が向かった方角から察するに、きっと奴はイワイ・シュウスケによって『ベリスタ王国』を潰すように命じられていたのであろう。

  それに気がつくと、一瞬ゾッとしたものの、偶然とはいえ、何とか阻止出来た事に一安心した。


ーーそんな中、俺が騒ぎを起こした事で、すっかり目を覚ましたキュアリスは、目をこすった後で俺にこう問いかけた。


「何かあったの......? 」

  俺は、そんな彼女に対して、ニコッと笑いながらも、

「いや、何もなかったよ。」

とだけ答えた。

  みんな、あれだけの音が鳴っても目を覚まさないなんて、余程疲れているんだな......。

  俺はそんな事を考えた後で、寝つきが良すぎる優花と桜を横目に、キュアリスに気づかれぬよう、静かにマジックアイテムをポケットにしまった。


ーーするとそんな時、森山葉月からの連絡が来た。


  それに対して、俺は慌てて応答をする。

「一体、どうしたんだ......? 」

  俺がそう問いかけると、森山葉月は焦りの口調でこう答えた。

「反乱の件なのですが、少しだけまずい状況になっていまして......。」


ーー俺はそれを聞くと、背筋をピンと張って、彼女にこう呟いた。


「詳しく教えてくれ......。」

  どうやら、反乱は何かによって余りうまくいっていない事を理解すると、俺は、その詳細を気にしつつも、少しだけ光の速度を早めたのであった。
 

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