天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第178話 圧倒的な強者。


ーーーーーー

  転移して来たばかりの麻耶は、何かにすがりたい気持ちでいっぱいだった。

  それは先程、死を覚悟した瞬間を忘れてしまったかの様に......。

  だからこそ、目の前にいるイワイ・シュウスケに思いの丈を全て打ち明けた。

  学校でクラスメイトから受けた辛辣なイジメに、いつも不在の両親......。

  それは、傍にいる弟の存在も忘れる程に必死で......。


ーー多分、誰でも良かっんだと思う。


  とにかく、まともに話を聞いてくれる人がいると言うだけで、彼女は心の隙間を埋めた。

  ここが違う世界であってもどうでも良かった。

  それだけ追い詰められていた。

  例えその相手が、本能的に決して関わってはいけない相手であると分かっていても、彼女は訴える事をやめられなかった......。

  そして、全ての話を終えた時、イワイ・シュウスケは、小さく頷きながら、こんな事を言った。

「辛い思いをしたんだな......。もし良かったら、俺達の下で働いてみないか? どちらにせよ、ここは異世界だ。お前ら二人では到底生きていけない。」

  彼女は、そんな彼の提案を聞くと、我に帰る。

  その後で、雪弥の方を見つめた。

  すると、雪弥は小さく頷いた後で、

「僕は、姉ちゃんについて行くっす!! 」

と、答えて微笑んだ。

  麻耶は、そんな弟の姿を見ると、決意をした。

  もう、自分を見失わない。

  大好きな弟に、辛い思いをさせない。

  これからは、精一杯この世界で生きてやろうじゃないか。


ーーそれが、どんなに情けなくても......。


  麻耶はそう考えると、涙で真っ赤に腫れた目を一度拭い、真剣な表情でイワイ・シュウスケの方へ顔を上げた。

  すると、イワイ・シュウスケは、小さく微笑んだ後で、座っていたソファから立ち上がり、

「ついて来い......。」

と、呟いた後で、二人をある場所へと案内した。

  その道中で、麻耶は考えた。

  私は、この世界でもう一度人生をやり直すんだ。

  大好きな弟を守る為にも、そして、何よりも、自分の為にも......。
  
  しかし、そんな決意の中でも、麻耶は少しだけ心配な事があった。


ーーそれは、優しく労ってくれている筈のイワイ・シュウスケからは、少しだけあの時のクラスメイトと同じ雰囲気を感じ取れたからだ......。


  只、彼女は生きる為の貪欲さが体内から溢れ出ていた。

  それが、どんなに悲しい未来への始まりだとしても、彼女は前へと踏み出したのだ。


ーーーーーー
  
  占拠した議事堂の内部にて、麻耶はふと、イワイ・シュウスケとの出会いを思い出しながら、眉間にシワを寄せた。

  それを見た雪弥は、真剣な表情を浮かべながら、麻耶に向けてこんな問いかけをする。

「また思い出したんっすか......? あの日々の事を......。」

  それを聞いた麻耶は、一瞬首を横に振った後で、小さく頷いた。

「ああ......。ヤツと出会ってからの嫌な出来事を思い出してしまったよ......。もう、あんな日々に戻るのは、たくさんだ。奴はあの時、私を虐めたクラスメイト達と同じなんだ。人の皮を被った悪魔なんだよ......。」

  彼女は、出会ってからの出来事を回顧しながら、息を荒くした。

  今は、順調に事が進んでいる。

  後は、部下達が街を丸ごと占拠すれば、あわよくば、王都『ロウディ』まで攻め込めるのでは......。

  そんな算段を思い浮かべながら、麻耶は少しだけ微笑んだ。

その後で、目の前にいる弟、雪弥に向かってこんな事を呟いた。

「また、この国の人間が笑える日が来るといいな......。」

  彼女がそう言うと、雪弥も小さく笑みを浮かべながらそれに賛同した。

「そうっすね!! やっぱり、平和が一番っすから!! 」


ーーそれを聞いた麻耶は、ほっと胸を撫で下ろす。


  この国の、明るい未来の為にも......。

  だが、そんな会話をしている矢先だった。

  占拠している議事堂の入り口からは、激しい程の爆音が響き渡る。

  その後から聞こえて来る、部下達の悲鳴......。

  それに対して、麻耶は慌てて立ち上がった。

「一体何が起きたんだ!! 」

  そんな叫び声を上げながら、彼女はその音の方へと走り出す。

  そして、煙立って破壊された議事堂の入り口ロビーに到着した時、麻耶は驚愕の表情を浮かべた。


ーー何故なら、その場所には、警備の為に動員していた数十人の部下達が爆破によってバラバラになって死んでいたからだ......。

  彼らもまた、『異世界人』である。

  この国の中では、かなり強い筈の彼らが、一発の爆破で木っ端微塵になってしまったのだ。


ーーそれに気がつくと、麻耶はその攻撃を繰り出した張本人が誰であるかを理解した。


「何で、ここにいるんだ、キリハラ......。」

  彼女が呆然としながらそう問いかけると、キリハラという背の高い男は、ニヤッと気味の悪い笑みを浮かべた。

「いやあ、麻耶ちゃんには、騙されちゃったよ!! でもまさか、俺が本当に隣国の侵略に派遣されたとでも思っていたのかな......? 」

  それを聞いた麻耶は、イワイ・シュウスケによって、騙されていた事に初めて気がついた。

  先日の会議で、イワイ・シュウスケの側近として機能していたキリハラ、サナダ、トリヤマの三人は、国土の拡張を目的とした侵略をする為に海外へと派遣されていると聞いていた。

  だからこそ、その時を反乱の決行日と位置づけていたのは、まぎれもない事実。


ーーだが、イワイ・シュウスケは、まんまと彼女らを欺いた。


  そんな風に麻耶が怨念にも似た表情を浮かべていると、キリハラという男は真顔でこんな事を続けて問いかけた。

「まさかお前、国王から信頼を勝ち取ったとでも思っていたのか......? 」

  そんな事を言いながら手に有り余るほどの炎を纏った彼に対して、麻耶は慌てて風の刀を作り出した。


ーーしかし、彼女は自覚している。


  今、目の前にいるキリハラに、彼女の力では決して勝てない事を......。

  何故なら彼は、イワイ・シュウスケにも匹敵する程の強者なのだから......。

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