天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第177話 反乱の首謀者。


ーーーーーー

  麻耶による反乱は、今のところ大成功だ。

  先程の議事堂の爆破から、各都市においても、重要施設の制圧が完了したと連絡を受けた。

  後は、佐山雄二が辿り着くまでの間、持ち堪えるだけとなっていた。

  これも全て、錦麻耶という少女がいなければ、出来なかった事であろう......。

  彼女は長年『ヘリスタディ帝国』軍の幹部として、国家第二の都市である『サンドリウス』のブロック長を任せられる程に信頼されていたからこそ、この作戦を実行する事が出来た......。

  五年前、麻耶はこの世界にやってきてから、同じく副ブロック長である弟の雪弥と共に、国王であるイワイ・シュウスケから命令された通りに、数多の侵略に手を染めた。

  麻耶の『異能』に関しては、風を得意としていた。

  雪弥は雷の『異能』を......。

  そんな二人の力は、その国でも十本の指に入る程の力であった。

  だからこそ、国王からの信頼を勝ち取る。

  しかし、彼女はどうしてもイワイ・シュウスケという男の思想に賛同する事は出来なかった。


ーー彼は、余りにも冷酷で残忍だったから......。


  彼女達がその世界にやって来た時、もう既にイワイ・シュウスケは『ヘリスタディ帝国』にて国王として実権を握っていた。

  それに加えて、彼の古くからの仲間であるキリハラ、サナダ、トリヤマの三人も......。

  彼らは、何かに取り憑かれた様に世界侵略を続ける。

  隣国である、ソヒア国、ヘラ王国......。

  この二国は、彼らが手を付けて、奪い取った国々だ。

  実際に、その戦争には、麻耶と雪弥も指揮官として参加した。

  結果的に、侵略は二人のおかげで成功したと言っても過言ではない。

  何故なら、国王は、自分の有り余るほどの強大な力を振るう事なく、部下である彼女達に侵略を実行させ続けたのだから......。

  だが、麻耶はずっと、それに疑問を持ち続けていた。

  いや、厳密に言うと、この世界で生きる為には戦うしかなかったのだ。

  麻耶は、初めてこの世界にやって来た時、まだ思春期の始めの頃である。

  当時、元の世界での麻耶は、学校においてイジメを受けていて、とても辛い生活を送っていた。


ーー教科書への落書きや、クラス全員からの無視は日常茶飯事......。物を盗まれたり、時には暴力も受けた。


  彼女は元々は、明るい性格で、学校の中心的な存在であった。

  だが、些細なキッカケでイジメは始まり、段々とエスカレートして行った。

  教師や生徒が、彼女に手を差し伸べてくれる事は決して無かった。

  親は共働きで、いつも夜遅くに帰宅するので、相談は出来なかった。

  でも、そんな麻耶の心を支え続けてくれたのは、二つ下の弟である雪弥だった。

  彼は、常に姉である麻耶よりも先に帰宅すると、彼女の帰りを待っていてくれる優しい存在だった。

  だからこそ、彼女は生きられ続けた。


ーー『死にたい』と言う感情を押し殺し続けられた。


ーー「イジメなどに負けてやるものか」と言う強い気持ちを持って、学校に通い続けられた。


  弟に、心配をかけたくなかったから......。

  それだけ、心の底から雪弥を支えたいと思った。

  でも、それをも凌駕する程の絶望を、麻耶は味わってしまう。

  朝、いつも通り憂鬱な気持ちで教室に入ると、彼女の机の上には、真っ白な菊の花が供えられていた。

  それを見た麻耶は、それの意味を理解した後で、その場に崩れ落ちた。

  そんな彼女の様子を、満足そうにニヤニヤと眺めるクラスメイト......。

  麻耶は、その瞬間、その場にいる全ての人間が、悪魔に思えた。

  いや、彼らの笑顔は、紛れもなく人の皮を被った悪魔そのものだった。

  それは、今まで彼女がイジメを受けて来た中で一番、衝撃的な出来事であった。

  脳内で永遠と、クラスメイト達からの「死ね」と言う言葉がこだました。

  彼らの感情からは、あからさまな程に快楽や優越感が感じられた。

  麻耶はそんな事を考えているうちに、自分の生まれて来た意味が分からなくなる。


ーー今、目の前に見える真っ白な菊が意味する様に、この世からいなくなってしまった方が良い存在なのだと痛感させられた。


  そう考えると、麻耶は泣きながら、笑い声の絶えない教室を走り抜けて行った。


ーー完全に自分を見失った状態で......。


  それからすぐに、彼女は自宅マンションの屋上へと登って行った。

  十階建てのマンションの屋上に......。

  そこにある設置された高い柵を乗り越えて建物の縁に立った時、彼女は清々しい気持ちにさせられる。

  こんなに生きづらい人生なんて、もうこれで終わりだ......。


ーーごめんね、雪弥。


  お姉ちゃん、自分のワガママであなたの事を残してしまう事になっちゃって......。
 
  そんな事を考えながら、今まであった辛い出来事を思い出した後で、麻耶は微笑みながらゆっくりと目を閉じた。


ーーさよなら、雪弥......。


  その言葉とともに......。


ーーだが、そんな時だった。


「お姉ちゃん、何してるんっすか!! 」


  麻耶は、背後からの聞き慣れた声を聞くと、一度振り返った。

  すると、そこには屋上の扉の前で、息を切らして必死の叫び声をあげる雪弥がいた。

  麻耶は、それを見ると一瞬だけ焦る。

  何で、登校している筈の弟が、今、ここにいるのかと......。

  しかし、その疑問はすぐに消え去って行った。

  いや、厳密に言うと、もう、どうでも良くなっていたのだ。

  だからこそ、そんな雪弥の叫びを無視すると、麻耶はもう一度、綺麗に街並みの見える方へと体を戻す。

  そして、背後で必死に説得を続ける弟に向けて、振り返る事なく彼女は、

「ごめんね......。」

と言う言葉を残して、勢い良く屋上から飛び降りたのだ。

  重力によって地面に吸い寄せられる時、麻耶は心の中でこんな事を思う。

  これで、私の最悪な人生は終わり。

  過酷で、卑劣な人生は......。


ーー人って死んだら、何処へいくんだろう......。


  そんな事を思いながら一瞬だけ目を開いた時、麻耶は堕ちてゆく体に風を感じながら、驚愕の光景を目にする。

  何故ならば、本来は茶色いタイルが敷き詰められている筈の地面の上に、何とも形容しがたい『歪み』が彼女の体を吸い込む様に現れていたからである。


ーーこれは、一体......。


  そう思っているのも束の間、マンションの上からはもう一度、弟雪弥の叫び声が聞こえた。

「お姉ちゃん、行っちゃダメっすよー!! 」

  しかも、その声は、どんどんと彼女の耳元に近づいてくる。

  それに気がつくと、彼女は逆さまになった頭で空を見下ろした。

  すると、雪弥は麻耶と同じくマンションから飛び降りてしまっていたのだ。

  きっと、どうしても姉である彼女を助けたかったのであろう......。

  その姿を見た時、麻耶は自分の浅はかな行動に後悔をした。

  だが、地面には相変わらず『歪み』が生じている。


ーーもう、助かる事はない。


  その時間は、一瞬の出来事の筈なのに、不思議と永遠にも感じられた。

  そして、雪弥が麻耶の体を抱きしめた時、二人は同時にその『歪み』の中へと入って行った。


ーー決して痛みは無かった。


  それどころか、何か柔らかいものに包まれる様な感覚に陥った。


「一体何が......。」

  麻耶は抱き抱えられた弟の温もりを感じながら、ゆっくりと目を開いた。

  彼女は、開いた目の先にあった光景を見ると、唖然とする。

  何故なら、彼女達は、間違いなくマンションの屋上から飛び降りた筈なのに、そこは、西洋風の豪華な部屋の中であったからだ......。

  そんな余りにも理解しがたい光景を目の前にして、麻耶が狐につままれた様な顔をしていると、雪弥も同様に呆然としていた。

  すると、部屋の隅から、まるで二人の登場を待っていたかの様に、薄ら笑みを浮かべた一人の男が彼女達の目の前に現れた。

  それを見た麻耶は、震えながら雪弥の事を抱き抱えた。


ーー何が起きているの......?


  今まで感じた事の無い恐怖と共に......。

  そんな中、その男は、ニコッと笑いながらゆっくりと口を開いた。

「俺の名前は、イワイ・シュウスケ。君達は、どんな悩みや苦しみを抱えて、この世界にやって来たのかな......? 」

  麻耶は、その言葉を聞くと、不思議と今ある状況を理解した。


ーーそう、彼女達二人はどうやら、元とは違う世界に来てしまったという事を......。

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