天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第176話 始まりの合図。


ーーーーーー

森山葉月は、重々しい空気の一室で、その時を待っていた。

  もうすぐ、自分の指揮で軍全体が動くのである。

  最も肝心な任務を務める佐山雄二には、先程状況確認の為に連絡を取った所、どうやら偶然にも、元王族と会ったと言っていた。

  だからこそ、こちらも今日の夜明けに全軍が動く事を伝えた。

  彼からは、『ロウディ』に到着した時、元国王から提案された作戦を実行すると聞いた。


ーー内容に関しては、申し分ない。

  
  しかし、まさか、そんな辺境の湖で元王族と出会うなんて、偶然とは思えない......。

  森山葉月は、そんな疑念を抱きながらも、ホッとため息をついて、忙しそうに書類に目を通すポルに対して、こんな事を呟いた。

「どちらにせよ、早く連絡を取っておいて良かったですね......。」

  それを聞いたポルは、相変わらず辿々しい口調で彼女に答える。

「そ、そうですね。それにしても、葉月さんは、本当に感が冴え渡りますね......。もし、全軍出兵の後の連絡だったら、応答できなかった可能性もありました......。これで、心置き無く指揮に専念する事が出来ますね。もう既に、各支部の方々は、敵兵のいる場所付近に到着しておられると言う事なので、準備は万端かと......。」

  そんなポルの発言に対して、森山葉月は小さく微笑んだ後で、手元のマジックアイテムを見つめた。

「そろそろですね......。」

  森山葉月がそう呟くと、室内で最後の詰めをしていた全員が一度、手を止めた。

  それから暫く、室内全体を静寂が包み込んだ。

  それと同時に、緊張感が漂い出す......。

  そして、太陽が少しだけ顔を出した時、マジックアイテムから、麻耶の声が響き渡った。

「たった今、『サンドリウス』内にある、地方議事堂の爆破に成功した!! それに続く様に、その他三つの都市においても、主要施設の攻撃を開始した!! ここに、『ヘリスタディ帝国』における反乱の開始を宣言する!! 」

  それを聞いた森山葉月は、その場で目を開いて立ち上がり、両手で机を大きく叩いた。

「それでは、これより、全軍による総攻撃を開始します!! 」

  そんな彼女の宣言に対して、室内にいる皆は、慌ただしく動き出した。

  各支部へ早急の連絡が開始される。


ーー『ベリスタ王国』の歴史の中で、最も規模の大きい戦争が、ここに始まったのだから......。


ーーーーーー

  朝日が周りに灯を照らし出した時、海沿いの地方都市『ナミル』の国境付近で千人の兵士を率いて先頭に立つミルトは、艦隊と地上に溢れかえる敵軍を目の前に、一度空を見上げた。

  どうやら、『ベリスタ王国』の動向に違和感を覚えていたのか、相手も臨戦態勢と言った形である。

  そんな敵を相手に、彼女は思う。


ーー姉ちゃん、私は今から、戦争に身を投じます。


  そんな事を心の中で思いながらも、まだ薄暗い空に、少しだけ感傷的な気持ちになる。

  きっと、今日の景色を忘れる事はないだろうと......。

  それから、背後に控える大軍に向けて、彼女は高らかに宣言した。

「では、これから国境を攻め込む!! 命を持って、この国を守ろう!! 」

  ミルトはそう叫ぶと、雷の『異能』を敵軍に向けて放った後で、馬に乗り、先陣を切ったのだった。


ーーそれと同時に、戦争は始まる。


  心の中で、佐山雄二を始めとした『特殊異能部隊』の身を案じながら......。

ーーーーーー

「いよいよ、始まったのか......。」

  俺は、光の道筋の中で東の空を見ると、そんな事を呟いた。

  真下に山が広がる平和な空間の中で、俺は今起こっているであろう出来事について想像を膨らせる。

  きっと、今頃は俺の部下である『特殊異能部隊』の者達も......。

  そんな風に考えると、心が騒めき出していくのを自覚した。

  そんな中、ふと、後ろを振り返ると、三人も同じ様に何処か儚げな表情を見せていた。

「みんな、大丈夫かなぁ......。」

  桜は、そう心配を口にすると、まだ顔を出したばかりの朝日に向かって、お祈りをした。

「みんなが無事でありますように......。」

  俺は、そんな桜の姿を見ると、少しだけ居た堪れない気持ちになった後で、彼女の手を握った。

「大丈夫だ。あいつらは、最高に頼れる仲間。絶対に生きて戻るはずだ!! 」

  俺はそう言った後で、桜の手を握ったまま、前方に目をやる。

  正直なところ、多分、この場にいる中で一番『特殊異能部隊』を心配しているのは、紛れもなく俺だ。

  だが、今この場で俺がそれを口にすると、もっと不安は増幅すると感じたので、俺はその話題から話を逸らした。

「それよりも、俺達はやるべき事をやろう。絶対に、『イワイ・シュウスケ』を討ち取るんだ......。」

  それを聞いた桜の手には、力がこもったのが分かった。

  そんなやり取りをしながらも、俺達は進み続ける。


ーーこれから起きる事に、複雑な気持ちを抱きながらも......。


ーーーーーー

  王都『ロウディ』にある王宮にて、国務大臣は震えながらこんな報告をした。

「大変申し訳ありません!! どうやら、王都周辺の都市にて、錦麻耶を始めとした『異世界人』達が反乱を起こしているようです!! 我々も、気がつくのが遅かったので、あっという間に主要の施設が制圧されてしまったようで......。」

  それを聞いたイワイ・シュウスケは、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

「もう、動き出したか......。」

  彼はそう呟いた後で、一際高級な椅子の上で足を組んだ。

  そんな彼の、余裕な表情を見た国務大臣は、今起きている事の重大さを伝える為にも、もう一度語尾を強めた。

「このままでは、王都に来てしまうのも、時間の問題です!! 一刻も早く手を打たねば......。」

  そんな彼の必死さに苛立ちを感じたのか、イワイ・シュウスケは、彼の眉間の辺りに闇のレーザーを放った。

  それと同時に、彼の額からは多量の血が流れて倒れて行った。

「全く、アリが暴れた所で、何を喚いているんだ......。それにしても、少し厄介な事には変わりない。どうやら、『ベリスタ王国』の方も動き出した所を見ると、攻め込まれる可能性もあるな......。一応、保険として奴らを派遣するとしようか......。」

  彼はそう呟くと、指をパチンと鳴らした。

  すると、そこに現れたのは、三人の『異世界人』だった。

「どういたしましたか? 国王様......。」

  そう問いかけたのは、身長が百八十五センチ程ある大柄な男だ。

  そんな大柄な男に対して、イワイ・シュウスケは、こんな事を命令する。

「悪いな、親友達。お前達には、これから周辺都市に行ってもらい、反逆者共を速やかに殺して来てほしい。後々面倒な事にならぬように、確実に......。」

  それを聞いた三人の『異世界人』達は口を揃えて、

「仰せのままに......。」

と言葉少なめに言った後で、各々がその地へと向かっていったのだ。

  それを見送ったイワイ・シュウスケは、傍にいる悪魔にこう呟いた。

「あのクズ共は、本当に俺に勝つつもりなのか......? 」

  そんなイワイ・シュウスケの発言に対して、赤目の悪魔はケタケタと下品に笑った後で、それに答える。

「んな事、出来るはずないわ!! 悪魔さえ手なずける奴に勝とうとするなんて、余りにも無謀すぎる!! 」

  イワイ・シュウスケは、彼女の言動を聞くと、悪魔の頭を撫でた後で、こんな事を告げた。

「そうだなぁ。念には念を、と言う意味でも、お前はすぐに『ベリスタ王国』の首都まで行って来てくれ......。そこで、い指揮官であろう森山葉月に乗り移り、作戦を滅茶苦茶にして来るがよい......。」

  それを聞いた悪魔は、相変わらず品のない笑い声を上げると、大きく頷いた。

「任せとけ!! シュウスケ!! 二日もあればあっちに着ける!! その後は、奴を操ってあの国を潰してやるよ!! 」

  彼女はそう高らかに宣言すると、王室の壁を通り過ぎてそのまま『ベリスタ王国』へと浮遊して行くのだった。

  その後、部下を二人ほど残して静まった王室の中で、イワイ・シュウスケは、ニヤッと笑う。

「やっと、動き出してくれたな......。ならば、『あれ』を使う絶好の機会が出来た訳だ......。俺は楽しみで仕方がないよ。奴らが無残にも散って行く様を見られる事がな......。」

  彼はそう呟いた後で、テーブルの上に置かれた真っ赤な林檎を一つ手に取ると、勢い良く噛り付いたのだった。


ーーそれはまるで、『ベリスタ王国』の行く末を見据えるかの様に......。

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