天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第169話 ボロボロの青年。


ーーーーーー

「それでは、詳しい話を聞かせてもらっていいか? 」

  風が止んで静寂に包まれた真っ暗闇の森の中で、俺は太い幹をした樹木に腰掛けるボロボロの服を着た青年にそんな問いかけをした。

  この青年は先程、『ヘリスタディ帝国』の兵士によって殺されそうになっていた。

  そんな彼は、みすぼらしい衣服に、ボサボサに伸びきっている茶色い髪、体には生傷や痣、無精髭を生やしていて、どう考えても余り重要人物に思える様な格好をしていない。

  それでは、何故、彼は国家から追われる身なのであろうか......。

  それに、俺は出兵前に『ヘリスタディ帝国』内の土地を調べた上で、この湖一帯の森林に関しては、人が住んでいるという事はまずないと踏んでいたはず。

  何故なら、一番近い村までの距離は、おおよそ人が歩いて移動するとしたら、一週間以上はかかる程の辺境の地であるからだ......。


ーーだからこそ今、目の前にいる青年の存在というのは、余りにもこの場所にそぐわないのだ。


  そんな風に俺が考えを巡らせながら、怯える目をした青年は、一度、俺の作った正方形の部屋を見た後で、こんな事を言い出した。

「その前に、あの歪な家についての説明をして貰っても良いですか......? 昨日まで、あの場所にこんな人工物は存在しなかったはずなので......。」

  俺は、そんな返答をした青年に対して、少しだけ焦りの気持ちが込み上げる。

  何故ならば、俺は就寝前、あの部屋に認識を惑わせる『魔法』を掛けたはずだったからだ......。

  本来、それは余程『魔法』に精通していない者ではない限り、認識する事は不可能な筈。


ーーだが、彼は、いとも簡単にその『魔法』を見破ってしまったのだ......。


  それを考えると、俺は、このボロボロの青年は侮れない存在である事を自覚した。

「いや......。森での野宿は、魔獣や盗賊の危険があるのでな......。そこで、あの様な物を作り出したのだよ。」

  俺がそう取り繕いながら説明をすると、彼は俺の頭から足のつま先まで隈なく見回した後で、こんな事を呟いた。

「まあ、なんにせよ、あなたが我々を脅かす事は無いと、すぐに分かります。だって、今、あなたから殺意は何も感じられないから......。」

  青年はそう言うと、一つため息をつくと、静かにこう続けたのであった。

「あなたにこんな事を言っても無駄かもしれませんが、僕らは元々、呪われた血筋なんですよ。だから、さっきみたいに、国から命を狙われる。流石に、こんな辺境の森まで追いかけてくるとは、思っても見ませんでしたが......。」

  彼の言葉を聞くと、俺は『呪われた血筋』と言う言葉に引っかかった。

「呪われるとは、どう言う事なんだ? 」

  俺がそう問いかけると、彼は、うつむき気味にこう答える。

「その言葉の通りですよ。この国において、僕らは、疎まれるべき存在。街をまともに歩いてはいけない程に嫌われているんです。」

  青年は、半ば諦め気味な口調でそうボヤくと、再び深いため息をつく。

  俺は、そんな彼の仕草を見て、少しだけ話を理解した。

  彼や、彼の仲間は、『ヘリスタディ帝国』では嫌われた存在であると言う事。


ーーそれは、命を狙われる程に......。


ーーしかし、どうしてそこまで彼らは疎まれているのであろうか......。


  俺は、その事に関してだけ、全く理解できないのであった。

「状況は何と無く察したよ。さっきのお前の話ぶりからすると、血筋自体が嫌われる原因となっているのは良く分かった。でも、肝心な事が分からないな。何故、それが原因でお前が殺されそうになっているのかを......。」

  俺がそんな事をボヤくと、彼は一度俺の目をしっかりと見た後で、視線を下に落とした。

「何も知らない辺り、あなたは本当にこの国の人間では無いんですね......。」

  そんな青年の発言に対して、俺は大きく頷く。

  実際のところ、俺に関しても、この国の慣習などは全く分からない。

  只、この国家は『異世界人』によって支配され、『異世界人』の決定によって動いていると言うことしか......。

  俺がそう考え込んでいると、彼は悲壮感の漂う声でこう言い出した。

「まあ、見ず知らずの全く関係の無い人間になら打ち明けてもいいですね......。僕らは、『異世界人』に国家が支配される以前、この国の王族だったのですよ。」


ーー青年が口にした『王族』と言う言葉を聞くと、俺は驚愕した。


「王族だと......? 」

  俺がそう驚きながら呟くと、彼は更に続けた。

「そうです。約十年前まで、千年に渡って『ヘリスタディ帝国』を統治した王族、『アワード家』の残党なんですよ。今は、命を狙う『異世界人』の連中から逃げながら隠れて生きています。」

  俺はそんな青年の言った一言を聞くと、全ての謎が繋がった。

  要は、彼らが命を狙われる理由と言うのは、元王族であるからである。

  俺は、そんな彼の発言に対して、少し戸惑いながらも、自分の身の上話もしなければならないと、本能的に感じた。

「そうだったのか......。元王族となれば、俺はお前に話さなければならない事がある。実を言うと、俺はこの国に蔓延る『異世界人』を倒す為にやって来たんだよ。今は、『ベリスタ王国軍』の一員として動いているのだが......。どうしても、現国王の能力や戦い方が分からない所だったんだ......。」

  俺がそう正直にこの場所にいる理由を口にすると、青年は真剣な表情に切り替わった。

「一応確認しますが、本当に現国王『イワイ・シュウスケ』を倒すつもりでいるのですか......? 」

  そんな彼の問いかけに対して、俺は自信を持って頷いた。

  それと同時に、俺はその時初めてこの国の国王の名前を知った。


ーーすると、俺の決意を理解した彼は、フフッと微笑んだ後で、ゆっくりと立ち上がった。


「それならば、少しだけ力になれるかもしれません。今現在、この国は昔とは違い、『異世界人』によって国民が苦しめられ続けています。元王族としてそれを阻止したいとは考えていた所なので......。ついて来てください。僕の仲間達が、『イワイ・シュウスケ』の情報を教えてくれるでしょう。」

  俺は、そんな風に協力してくれる事を宣言してくれた青年にお礼を言うと、先へ進む彼に対して、こんな問いかけをした。

「その前に、名乗らせてくれ。俺は、佐山雄二。この国を苦しめる奴らと同じ『異世界人』だ。だが、そんな悪を倒そうと画策する『異世界人』でもある。」

  俺が、そう自己紹介をすると、青年は足を止めた後で、俺の方へ振り返って、こう名乗った。

「あなたも、『異世界人』だったんですね......。『異世界人』の中にそんな考えを持っている人がいるなんて初めて知りましたよ。僕の名前は、『アワード・モール』。『ヘリスタディ帝国』の元王子です。」

  俺は、そう名乗ったモールが、元王子である事を知ると、再び驚愕した。

  不思議な縁でもあるかもしれないが、俺は、深い辺境の地で、元王族の人間に出会った。

  彼から少しでもこの国にいる『異世界人』、そして、現国王の『イワイ・シュウスケ』の情報を掴めれば、戦況は飛躍的に有利になると考えつつも、深い森の奥へ突き進むモールの背中を追いかける様に進んで行くのであった。
 

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