天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第168話 湖のほとりにて。


ーーーーーー

  『ヘリスタディ帝国』の領土に入り込んだ後で暫く光の『異能』によって、道を突き進んで行った。

  生憎、国境付近にいた敵軍の兵達に遭遇して以来、脳内に記憶した地図を辿る事で、街や軍事施設においては、回避を続けながらも最短距離を取る事にしていた。

  空を行く俺達の真下には、只、ひたすらには暗闇の中で永遠と森が続いている。

  国境を越えてからも、もう三時間程飛行し続けている。

  流石に早朝から動き続けた事もあって、キュアリスや優花、そして何よりも桜に関しては目が虚ろになっており、疲れが生じ始めていることが、すぐに分かる程弱っているのが分かった。


ーーどちらにせよ、俺達が『サンドリウス』に向かうまでの間、少なくとも二回の休憩を取らなければならない訳だが......。


  それに、今丁度、目の前には一際大きな湖が見えてきた。

  俺は、森山葉月との話し合いの中で、この湖を目印にしていた。

  実際のところは、この場所に到着するまでの所要時間を、トラブルを加味して約半日ほど後に設定していたのだが、国境付近においても、警備の兵達の間を問題なく突破出来たのが幸いして、早い到着となったのだ。

  俺は、そんな事もあって、一度体を休めた後で、夜明け前に再出発する事を決心した。

「もう既に、一日中動いたので、疲れただろう。あの先に見える湖のほとりの木陰で、一度、睡眠を取ろう。戦争前に、弱り切ってしまっていては、本末転倒だからな......。」

  それを聞いた桜は、光の道筋の中で、俺の背中の元までやってきて、背中にのしかかると虚ろな口調でそれに答えた。

「そうだね......。もう桜、倒れちゃいそうなくらい眠い......。本当は、元気でいなきゃいけないのに......。」

  桜の、グスッと鼻を啜る音が聞こえると、俺は背中にいる桜をゆっくりとおんぶした。

「確かに、これから先が本番な訳だから、今は、敵のいる可能性が著しく低いこの山奥でゆっくりと休んでおくのが良いかもしれないね......。」

  そう俺に語りかけたのは、光の道筋の後ろを追っていたキュアリスだった。

  どうやらまだ、キュアリスは元気なままでいる。

  出会った当初のキュアリスに比べると、格段に体力が上がっている様にも思えた。

  これまでは、彼女を闇の『異能』が苦しめてきた。

  だが、彼女は『ロンブローシティ』における戦闘の中で、多量の闇を取り込んだ事によって一度死んで、それから生き返った時、彼女の闇は全て消え去ったのである。

  正直、あの時、俺達が『試練』を受けていなければ、キュアリスが生き返れたどうかも疑問な所ではあるのだが......。

  それというのは、まさに奇跡で、キャロリール王女が驚いていた事から分かるように、背中の傷が消えないのも、闇の『異能』から作用しているからだった。

  要するに、キュアリスは一度死んだ事によって、外敵からもたらされた作用を全て浄化する事が出来たのである。

  俺は、そんな事を思い出しながらも、まだ元気そうにしているキュアリスの姿に見惚れてしまっていた。

「お前、本当に闇の『異能』の恐怖から解放されたんだな......。」

  マジマジと俺がそう呟くと、彼女はニコッと笑顔になって、俺にこう答える。

「そうだね。これも全部、雄二のおかげだよ。今、こうして、普通に元気でいられるのだって......。だから、私は雄二のやる事に対して、死ぬまでついて行くと決めたの。だって、私にとって命の恩人なんだから!! 」

  俺は、そんな恥ずかしい言葉を平気で言ってしまうキュアリスに対して、少しだけ顔を赤らめると、急いで目を逸らした。

「お前は、真っ直ぐ過ぎるだろ......。」

  そんな風に、俺は彼女に聞こえるか聞こえないかの声でボヤくと、キュアリスはまた、首を傾げていた。


ーーその空気を転換する為に、ふと振り向くと、後ろで優花は俺達のやり取りを微笑ましい顔で見ていた。


「二人って、嫉妬しちゃうくらい仲良しだね。」

  優花の発言を聞いたキュアリスは、先程自分の言っていた言葉を思い出した後で、みるみる内に顔を真っ赤にしていた。

  俺は、そんなキュアリスの様子をチラッと見た後で、彼女を更に愛おしく思った。

  なんにせよ、これから休憩だ。

  もう既に、桜は寝息を立てて眠っている。

  しかし、幾ら人のいない深い森の中にある湖だとしても、何処で何があるか分からない。

  魔獣がいる可能性だってあるし、下手をしたら、この辺りに駐在している兵士がいる事だってある。

  だからこそ、その辺りに関しては、警戒しておかなければならないと思った。

  俺はそう考えると、一度、湖のほとりへ降り立った後で、少し森の奥の方へと進んだ。

  湖の目の前で休む事は、余りにも目立ち過ぎてしまうから......。

  そして、その中に丁度あった四人が眠れそうな草木の生えていないスペースを発見すると、以前、桜のやっていた事を見よう見まねでやり、土の『異能』で正方形の石造りに二箇所の窓が付いた部屋を作り出した。

  その部屋は、丁度四人が眠れるだけのスペースを確保できていて、更には、雨風も凌げる様にしておいた。


ーー更に、中には草の『異能』によって作り出したベッドの代用品として柔らかい芝を生やした。


  正直な所、桜の作る家と比べれば、かなり見劣りはするのだが......。

  今回はその日限りという事もあって妥協しつつ、とりあえず中へ入る様に促した。

「今日の所は、桜が寝てしまったので、こんなもんで我慢してくれ。」

  俺は、背中でいびきを立てる桜を横目に、そう小声で言うと、キュアリスと優花は大袈裟に喜んでいた。

「敵国にこんな場所を作れるなんて、すごい事だよ。これで、疲れは取れそうだね......。」

  キュアリスは、桜の事を起こさぬ様に細心の注意を払いながら小さい声でそう俺を称えた。

  優花に関しては、「『異能』って、そんな事も出来るのか」と言いたげな表情を浮かべながら、呆然としている。

  それから八畳程しかないその部屋の中に入ったらすぐに俺は万が一に備えてそこの外部に、敵の認識を著しく惑わせる『魔法』と、近づいた途端に精神崩壊を起こす『魔法』をかけた。


ーーこれでとりあえずは平気な筈だ。


  そう考えると、俺は真っ暗なその部屋の中で体を横たえた。

  ふと、周囲を確認すると、キュアリスと優花はすでに眠っていた。


ーーごめんな、無理をさせて......。


  俺は、そんな風に謝罪の気持ちで一杯になると、マジックアイテムを取り出して森山葉月にこう報告をした。

「今日は、予定していたよりも早く、湖のほとりへ到着した。明日は日の出の少し前には足を進めようと思う。」

  それを聞いた森山葉月は、こんな事を口にした。

「それは良かったです。無理して進んだ結果、疲労で戦えませんでしたとならぬ様に、気をつけてくださいね......。」

  俺は、そんな森山葉月の気遣いに対して、小声で返事をした。

  それが済むと、俺も静かに目を閉じた。


ーー後は、眠っている間に何も起きない事だけを切に願った。


ーーそんな事を考えているうちに、すぐに目の前は真っ暗になって、意識が遠のいて行った。


ーーーーーー


ーー「こ、殺さないでくれ!! 俺達が何をしたって言うんだ!! 」


  俺は、真っ暗なこの部屋の外で響き渡るそんな叫び声で目を覚ました。

  その声は、どうやら青年と考えられるもので、俺は恐る恐る窓の外を覗いた。

  するとそこには、数メートル先で三、四名の兵士の格好をした男が、ボロボロの衣服を身に纏った一人の青年に剣を向けていた。

  俺は、その光景を見た時、目の前で何が起きているのか、一瞬分からなくなった。


ーーしかし、一つだけすぐに理解できる事があった。


  それは、複数の兵士が、ボロボロの衣服を着た青年の命を奪おうとしている事だった。

  どうやら、認識を惑わせる『魔法』が効いている様で、まだこちらの存在には気づいていない様子だ。

  俺はそう思うと、どちらにせよ、その青年を助けねば、と、本能的に考えた。

  だからこそ、余程疲れていたのか、まだ眠ったままの三人を横目に、手から水の『異能』で弾丸を作り出すと、窓を開けて剣を向ける兵士達の頭に向けて放ったのだ。


ーーすると、それを食らった彼らはその場で倒れ込んだ。


  俺はそれを確認すると、今ある状況に呆然としている青年の方へと、部屋を出て歩き出して行った。

「何かいざこざでもあったのか......? 」

  硬直する青年に対して、俺はそう問いかけをする。

  すると、彼は焦りの表情を浮かべながら、ゆっくりと俺の方へ顔を向けた後で、こんな風に問いを重ねる。

「あなたは、一体......。」

  それに対して、俺は咄嗟に嘘をついた。

「いや、通りすがりの旅人だよ。」

  俺がそう答えると、青年は俺の事を上から下までマジマジと眺めた後で、安心した表情を浮かべてこんな事を呟いた。

「僕らは、ある事情で国家から追われている身であります。先程の兵士達も、その一つでしょう......。」

  それを聞いた俺は、少しだけ首をかしげる。

  何故、この青年達は国家から追われているのかと......。

  まあ、どちらにせよ、敵国にとっての重要人である事は間違いないであろう。

  そう考えると、彼からは詳しい話を聞く必要があると思った。

「少し、話を聞かせてくれないか......? 」

  俺はそう問いかけると、彼はその場に腰を落として頷いた。


ーー国に追われる彼は一体、何者なのであろうか......。
 

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く